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地方は若者にとって魅力的な就職先をどれだけ作れるのか
総務省が発表した住民基本台帳人口移動報告(2024年)によると、東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)の転入超過数は13万5843人に達し、前年より拡大した。この動向は、特に20歳~29歳の若者層に顕著であり、なかでも20歳~24歳の層が占める割合が最も高い。
これは、進学による東京流入よりも、就職や仕事のために東京へ移動する若者が多いことを示している。つまり、日本の労働市場において、若者にとって魅力的な職場が東京に一極集中していることが最大の課題と言える。
若者流出の構造的問題と地方の課題
多くの地方都市は、若者の流出を防ぐために「私たちの町の魅力」をPRする施策に予算を割いている。しかし、このような施策が問題解決に直接つながるかは疑問が残る。観光振興や生活の魅力をアピールすることは事例ベースのミクロな成果を生むことはあっても、若者の定住を促すマクロな成果には結びつきにくい。
本質的な問題は、地方に若者が「働きたい」と思える魅力的な仕事が不足していることにある。地方が本当に取り組むべきは、他地域にはない独自の強みを生かした産業を創出し、若者が「〇〇で働きたい」と思えるような環境を整備することだ。
地方でも世界に誇れる産業を作ることは可能
地方都市が世界に通用する尖った産業を生み出すことは決して不可能ではない。その好例がスコットランドのエロンに本社を構える世界的なクラフトビールメーカー「ブリュードッグ」だ。エロンの人口はわずか1万人程度にすぎないが、クラフトビールの聖地として世界中から人が集まる。
このように、地方が持つ独自の資源や文化を活かし、グローバル市場で競争力を持つ産業を育成すれば、若者にとって魅力的な就職先を地方に確保することが可能だ。単なる「魅力のPR」にとどまらず、具体的な雇用を生み出す政策こそが求められる。
新しい産業はいくつかのアプローチで作り上げることができる。例えば、かつての大分県が実施していた「一村一品運動」のように既存の名産を発展させて、特産品として成長させるというアプローチがある。大分の乾燥椎茸や臼杵フグ、城下カレイ、関アジ関サバなど、今でもブランドが評価されている特産品がある。
また、山形県鶴岡市のユニコーン企業であるSPIBERのように、産学連携の成果として生み出されることもある。ドイツにある世界的な義肢・義足メーカーであるオットーボックも、大学都市であるドゥーダーシュタットに本社を置き、産学連携をイノベーションの源泉としている。
単なる人口流出対策ではなく、長期的な産業基盤の確立こそが、地方創生の鍵となる。