見出し画像

100年後の京都:Slow Mobilityのまちづくり

Mobilityと言えば、もう10年くらい前でしょうか、トヨタ自動車の部長さんが、「われわれはMobilityの会社、つまり人がどう移動するかを解決する会社なので、解決策は自動車に限らないんです」と鼻息荒く話されていたことを思い出します。今日は、「Slow Mobilityのまちづくり」というコンセプトを提案したいと思いますが、まさにこのトヨタの部長さんがおっしゃっていたとおり、Slow Mobilityは「ゆっくり動くモビリティ」という狭義のクルマではなく、「人がゆったりと動けるまち」という広義の概念としてお伝えできればと思います。


まずは、京都市のオーバーツーリズム対策

今年に入ってから、ご存知の通り、京都駅はつねに外国人観光客でいっぱいです。

次のインタビュー記事は、京都市観光協会の会長が、京都市外に観光客を呼び込む「もうひとつの京都」事業、京都市内の大原、高雄などを紹介する「とっておきの京都」など、京都府と京都市が連携して京都全体の周遊観光を提案していくことで、オーバーツーリズムを解消していく方針を語っています。

しかし、京都市民からすると、たんなるオーバーツーリズム対策は大勢来てしまった観光客を外へ逃しているだけにすぎません。せっかくお金をかけてやるのであれば、もっと付加価値の生まれるオーバーツーリズム対策法はないでしょうか。

Slow Mobilityのまちづくりとは、LRTのことを指すのだろうか?

次の記事は、栃木や富山でLRT(Light Rail Transit)のまちづくりに成功していることを報じています。しかし、この記事でもっとも注目すべきポイントは、「マイカーから乗り換える動きもあり、渋滞緩和につながっている。市民の外出が増えたといい、医療費削減効果も期待されている。LRTは脱クルマ社会という観点からも注目されている」というところです。脱クルマ社会は、Slow Mobilityまちづくりの重要な視点になります。

この記事でも紹介されていますが、LRTの導入が進んだフランスのストラスブールでは、「パークアンドライドでLRTへの乗り換えを促し中心部への自動車立ち入りを制限するなど、歩行者中心の街づくりに利用」しているとのことです。

ストラスブールの「脱クルマ社会」

次のサイトでは、ストラスブールの「脱クルマ社会」への挑戦が詳しく紹介されています。京都もストラスブールのようなアプローチで、脱クルマ社会をめざしていけるのでは、とワクワクする話です。

「ストラスブールでは自動車依存からの脱却を目指して様々な取り組みがなされています。都心には自動車進入禁止ゾーンが設けられています。その入り口には車止めが設けられています。都心の住民や事業者など自動車がどうしても必要な人には特別のカードが与えられ、そのカードを車止めのセンサーにかざすと車止めが下がり、都心に自動車を乗り入れることができるようになっています。この車止めがある付近までは一般の人も自動車を利用できるのですが、市ではできる限り自動車を利用せず、公共交通機関を利用するように呼びかけています。公共交通機関としては、トラム(LRT、次世代型路面電車)やバスの路線が発達し、多くの乗客を運んでいます。また、各道路には広い自転車道が設けられ、たいへん多くの人々が通勤・通学・買い物などに自転車を利用しています。これは日本ではほとんど見られない光景です」

kuruma-toinaosu.org

脱クルマで浮いた「道路」を意味のある「通り」にアップデートする

脱クルマは脱炭素社会の文脈で語られることが多いかもしれませんが、ここでは「Slow Mobilityのまちづくり」の文脈で、その意味を検証してみましょう。Fast Mobilityである自家用車に乗ると、Googleマップを使えばなおさらですが、目的地まで最短距離で向かうことになります。寄り道もせず、そして目的地は駐車場のある大型施設になりやすい、というのがクルマ社会の特徴です。

それに対して、Slow Mobilityがめざす「人がゆったりと動けるまち」というものは、そこに住む人たちのくらしや文化を解像度高く体験することになります。「通り」を再定義することによって、観光客を遠くに逃す代わりに街並みのなかに「ミクロな周遊観光」をつくることにもつながります。

「通り」の再意味付け:エディブルウェイの取組み

次の記事で紹介されている「エディブルランドスケープ(食べられる景観)」は、大好きなアプローチです。空き地やまちなかに、野菜や果物、ハーブといった「食べられる(エディブル)」植物を植えていく運動で、誰でも食べてよいというものです。「環境改善だけではなく、地域産業が衰退した後のコミュニティー再生に役立っている」と伝えています。

2016年から千葉県松戸市でも「エディブルランドスケープ(食べられる景観)」の取り組みが始まり、約1キロの道沿いで店舗や住宅など累計70軒あまりが参加し、沿道におそろいの鉢植えを置いたといいます。この通りは、「エディブルウェイ」と名付けられ、行政との連携が進むとその取り組みは歩道にも広がったとのことです。

この方法を使えば、それまで「なんのへんてつもない道路」だったところに、「エディブルウェイ」という意味ある「通り」を生み出すことができます。その効果は、コミュニティの活力を生み出すのはもちろんのこと、「ミクロな周遊観光」の行き先としても魅力的なものになるはずです。

Slow Mobilityのまちづくり = 「まち」 - 「道路」 + 「通り」

私が「京都の未来」で実現したいことは、「洛中クルマゼロ」です。しかし、そこに一足飛びに行こうとするとハレーションばかりが目立ってしまいます。そこで、いまはあまり観光客の来ない「飛び地となった観光地」を「Slow Mobilityでつなぐ」というアプローチをとっていけないかと思っています。

たとえば北区にある今宮神社は、とても美しく、近隣の人たちに愛され続けている神社です。神社のすぐ目の前には、創業1000年のあぶり餅屋さんが歴史を感じさせてくれます。地下鉄の北大路駅から今宮通りを1.5km、まっすぐ歩くと今宮神社に着きます。

しかし、残念なことにこの今宮通りは、現実的には「道路」になってしまっています。今宮神社の表参道としての雰囲気も、にぎわいも、とくにありません。

Slow Mobilityまちづくりの「問い」は、この今宮通りの1.5kmをたとえば「エディブルウェイ」にしたり、週末には歩行者天国のようなスキームでクルマを止めてしまって、そこにゆったり動くパーソナルモビリティを走らせたりすることができないだろうか、というものです。きっと、今宮通りは本来の「通り」の輝きを取り戻し、北大路の魅力も10倍くらいに跳ね上がるでしょう。

このようにして、クルマを減らすと同時に、「通り」としての意味をつくることを続けていけば、まちは、まだまだまちの価値を高めて行くことができるはずです。ワクワクしませんか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?