本当に定年後再雇用で10年以上同じ仕事するの?
70歳まで働くのが当たり前に
少子高齢化社会が進むと同時に健康寿命が延びる中、定年制度を見直す動きが続いている。そのような中、非正規社員へと雇用形態を変更し再雇用延長制度が定年後の活躍の方法として多くの企業で導入されている。
しかし、人手不足が深刻化する中、従来の制度の見直しが起きている。これまでの多くの定年後再雇用では、収入が半分程度まで下がることが多かった。また、再雇用の年数も65歳までと5年程度に設定されていた。これが収入をほとんど下げず、70歳まで働いてもらおうという動きが増えている。
日本経済新聞の記事では、その事例としてニトリとスズキの取り組みが紹介されている。現状の制度のなかで、再雇用制度の年齢の後ろ倒しは歓迎する動きだろう。
しかし、ただ年数を伸ばせばそれでよいかというと、マネジメントはそう簡単でもない。
定年後再雇用後のモチベーション喚起をどうするか?
定年後再雇用は、もともと、年金受給開始年齢の引き上げ(60歳~65歳)が2000年の法改正で行われるのに伴って、定年と年金受給開始の空白期間の補填として用いられてきた。
年金受給開始年齢の引き上げに合わせて定年も引き上げることができれば良かったのだが、そう簡単にはいかない。定年が伸びたとして、その分だけ従業員の生産性も高まればよいのだが多くのケースではそうもいかない。企業が競争力を維持するためには人材の新陳代謝を健全に行う必要がある。
定年後再雇用で働く方も、そこから何か新しいことに挑戦しようという人は稀で、多くは老後を迎える準備期間として活用されてきた。期間も長くても5年なので、そこまで大きな問題にはならなかった。
しかし、この期間が今、2倍の10年に伸びようとしている。そうすると勝手が大きく異なってくる。10年間も、老後の準備期間として過ごす人材を囲っておけるほど余裕のある企業はほとんどない。
定年後再雇用で働く側にも同様に問題がある。いくら収入が維持されるとはいえ、同じ仕事をやり続ける停滞した10年間を非正規社員として過ごすのはあまりに長い。定年後再雇用のときに入社した新入社員も10年たてば管理職になっていてもおかしくない年月だ。
加えて、10年間も停滞したシニアの社員を抱えているのは企業文化の醸成の面から見ても好ましくない。成長や挑戦を目指し、イノベーションを志向する企業文化を生み出しにくくなる。これだけ変化のスピードが早く、不確実性とグローバル化が進むビジネス環境で、このことは大きなリスクとなる。
そのため、10年間も定年後再雇用をするのであれば、再雇用人材のモチベーション・マネジメントとキャリアの再構築が重要になる。当然、20代のころから長期雇用の中で主体的にキャリア開発をしてこなかった従業員に定年後再雇用になったから急に自分でキャリアの再構築をしろといっても難しい。
60歳は人生の6割しか進んでいない
現代の健康寿命の伸長を鑑みると、60代での定年は老後や引退への入り口とは言い難い。60代までの経験を活かして、新たな価値を生み出す機会だと言える。
加えて、私たちの健康寿命はこのままでは伸びる一方だ。多くの人が100歳まで生きる世の中になると、60歳は人生の6割までしか歩んでいない。1955年の平均寿命が男性63.60年、女性67.75年だ。均して65歳としたときの6割は39歳だ。つまり、人生100年時代の60歳は、1955年の39歳相当の進捗でしかない。まだまだここから何か新しいことを始めるには十分だ。
私たち個人の意識としても、また従業員のキャリアを考える企業人事としても、100歳まで生きることを前提とした仕組み作りが重要だ。そのための人材育成の投資は惜しむべきではないだろう。
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