今、金融市場の何を見るべきなのか? ~着目すべきエッセンスを整理する~
視界不良だからこそエッセンスを見極めたい
米大統領選挙の解釈が定まっていないところに、待望のワクチン完成報道が矢継ぎ早に重なったことで、足許の金融市場をどう展望すべきなのか頭を抱える向きは増えているのではないかと思います:
しかし、結論から言えば、今のところ、米大統領選挙およびワクチン報道を勘案したとしても、大統領選挙前のトレンドであった「株高・債券高(金利低下)・ドル安」という値動きは当面不変ではないかと私は思っています。目先の材料を追うことも重要ですが、相場を見通す上での本質的な論点(エッセンス)が過去数か月でさほど変わったようには思えません。ゆえに、そのエッセンスを再確認する努力をした方が視界不良も多少ましになってくると思います。もちろん、ワクチン開発が本当に奏功すればゲームチェンジャーになることは間違いないでしょう。しかし、まだよく分からないものを前提に資産価格の見通しを作るわけにはいきあせん。黙って吉報を待ち、それによって見通しが外れた場合、素直に喜ぶくらいの姿勢が市場参加者としては無難だと思います。後述するように債券相場における金利低位安定はそうした落ち着いた姿勢の結果なのではないかと思います。ワクチン開発よりも目先の感染者増加という風情です:
それにしても大統領選挙を巡る解釈は混線していると言わざるを得ません。そもそも増税志向のバイデン候補が大統領になった場合、株は急落するしかないという話はどうなったのでしょうか。現状ではバイデン次期大統領となっても、共和党が上院議会選挙で過半数を占めたため、民主党色の強い経済政策とはならず、株高が正当化されるという解説も目にします。ちなみに選挙直前にはバイデン候補勝利の思惑から「民主党は拡張財政路線なので米債発行が増えて、金利は上昇するが、財政出動のおかげで実体経済が支えられるから株高」という解説も見られました。
過去のnoteでも申し上げましたが、結局、金融市場は「見たいものしか見ない」ということでしょう。だからこそ、容易には変わらないエッセンスを捉えようとする努力が最終的には報われると考えられます:
「株高・債券高(金利低下)・ドル安」は続く
そのエッセンスを簡単にまとめたものが図表です。現状から将来にかけて予想される「株高・債券高(金利低下)・ドル安」について簡単に以下で解説してみたいと思います:
まず、株高。株が買われ続けていることについて政治情勢は大して関係が無いというのが私の基本認識です。株が好まれるのは、未曽有の金融緩和の結果、「定期的にインカムを生むアセットが株しかないから」というのが真相に近いのではないでしょうか。名目GDPに対する株式時価総額の比率はバフェット指標として知られますが、この上昇は今に始まったことではなく低金利が常態化する中で継続してきました。傾向という意味では過去10年の話です。誰が大統領になるのかは関係ないように思います。
では金利低下はどうでしょうか。この点は多くの解説を要さないと思います。FRBは2023年末までゼロ金利維持で意見集約しており、利上げはインフレ率が「平均+2%」になるのを確認してからです。であれば、利上げは最速でも2024年後半でしょう。大統領が誰であろうと金利の上離れを懸念する必要はありません。民主党としてコロナ禍を乗り越えるべく財政政策を緩和したいならば、意図せざる金利上昇で実体経済を痛めつけないためにも金融政策で金利を抑制する必要があるはずである。この時点で株高・金利低下は既定路線にも感じます。
次に為替市場の読みは常に難しいものですが、「ドルの過剰感」をテーマにしたドル全面安は6月以降、かなり堅い読み筋として機能していると思います。コロナ禍が収まっていない以上、バイデン政権が景気減速を恐れることなく公約通りに増税を敢行することはできない可能性が高いでしょう。結局、拡張財政路線が前面に押し出され、「ドルの過剰感」は放置されるというのが基本シナリオです。第二次世界大戦直後に匹敵するGDP比30%の財政赤字はドル安を招来する材料として十分なものです。
まとめると「低金利状態が極まったゆえの株買い、今後3年は動かないゼロ金利、巨額の財政赤字を背景とする『ドルの過剰感』」というエッセンスは見通しの起点として目をそらすことができない時間帯がまだまだ続くと考えられます。
ワクチン開発でもドル買いは盛り上がらず
実際の値動きを見ても、そうしたエッセンスから解釈すると分かりやすいです。例えばドル/円相場はファイザー製薬によるワクチン開発報道を受けて金融市場が大きく楽観に触れても106円にすら届かず戻ってきてしまいました。今は104円割れを心配する始末です。ユーロ/ドル相場も大してユーロ安・ドル高にならず、むしろ底値の硬さが印象的でした。結局、ワクチンができて、経済・金融情勢が正常化するかもしれないという期待の中でもドルは大して買われなかったのです。
バイデン候補優勢が伝えられ、実際に勝利が確定する過程において米金利は一方的に上昇し、日欧金利との格差が緩やかに拡大しましたが、これに応じてドルが買われることはなかった。理由は様々あるでしょうが、「所詮、米金利の継続的な上昇をFRBは容認しない」という事実は衆目の一致するところであり、「金利先高観もないのにわざわざドル買いでついていく必要はない」という思惑が相当効いているのではないかと私は感じています。
もちろん、巨額の財政出動は止められないので「ドルの過剰感」が重しになるという読みもあるでしょう。その都度カスタマイズされた相場解説は当然のことながら寿命が短いものであり、早晩変わってしまったりします。中長期的名目線から何が言えるかを意識して、相場を見たいと思っています。
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