見出し画像

POOKIE'S REQUIEMの話題性から見るR&Bの社会性

最近TikTokを中心に大ヒットしている、新人アーティストSAILORRの「POOKIE’S REQUIEM」。キャッチーなメロディと個性的なプロダクション、そして現代SNSトレンドを完璧に把握した映像表現が印象的だが、この曲がなぜ一部の間で批判されてるのか解説したい。

現代R&BのトップスターであるSummer Walkerをフィーチャーに迎えてリミックスを先日リリース。それくらいの話題作だし、これからのロングヒットに向けて起爆剤の役割を果たすだろう。 しかしここでキーとなるのが「アジア人が歌うR&B」という議論。

まず、「pookie」というのが黒人のスラングであり、それ単体で使うのは必ずしも悪いことではないが、そもそも「SZAのフロウを丸パクリしてる」「アティチュードや雰囲気全体が黒人アーティストのパクリ」という疑惑が確実に出る中でそのワードチョイスは「あからさま」だと黒人リスナーの間で話題に。

来月スーパーボウルのハーフタイムショーでもパフォーマンスをするスター的存在になったSZAだが、彼女に影響を受けていると考えるか、「アジア人による黒人のパクリ」と考えるかで議論が二分化。文化の盗用やカルチャーヴァルチャーが敏感な話題になっているからこそ重要な問題だ。

二つ目に、映像を見て「黒いグリルズを着けてるのでは」と批判する人もいた。しかしこの考察動画のように、彼女のベトナムのルーツを考えて(アジア圏で慣習があった)お歯黒であり、むしろ自身のカルチャーを取り入れてるのだ、と反論する意見が上がった。

最終的には、黒人アーティストのクリエイティビティや音楽性を「盗んで」薄めたものを発信する他人種のアーティストの方がバズりやすい、知名度を得やすい、という差別的な社会構造に対して多くの人がセンシティブになっている。この話は『世界と私のA to Z』で特に深掘りしました。

一方で、このような話題性や議論を通して彼女の楽曲はどんどんブーストされている。 リミックス版の「リリックビデオ」では、歌詞が書かれたTシャツを着て演技性高く、そしてPhotoboothぽく編集するというシンプルなものでも、「SNS時代」に合致したストラテジーだ。

On The Radarでの「逆さ吊りパフォーマンス映像」も、話題作りと爪痕残しという意味ではとても理にかなっている。そして衣装や世界観も一環してバレエコアっぽいのも、まだアーティストの認知度も低い中で、どうやって「イメージ」を残すかをよく考えられている。

一回きりのTikTokヒットで終わるアーティストも多いが、かなり戦略的にこのヒットの延命を試みているのが勉強になる。ドロドロした曲の内容と対照的なピンクのふわふわビジュアルなのも、毒があって新鮮に感じる。thuyに続く次世代アジア系R&Bスターになれるか。

インタビュー記事も結構面白かった。やっぱり一度きりのヒットで終わらせないためにはアーティストのバックグラウンドやカルチャーを本人が深く理解しブランディングすると同時に、社会コンテクストにも配慮しないとうまく立ち回れないことを実感する。

「何事もそんなにシリアスじゃない」という「演技性の高い無関心」の新時代に突入する、代表曲の一つかもしれない。




いいなと思ったら応援しよう!

竹田ダニエル
記事を読んでくださりありがとうございます!いただけたサポートは、記事を書く際に参考しているNew York TimesやLA Times等の十数社のサブスクリプション費用にあてます。