D&Iポリシーは、企業を学習共同体にする
ダイバーシティ&インクルージョンについて、非常に面白い取り組みがありました。スタートアップ企業である「Meety」さんが公開したダイバーシティポリシーです。
ポリシー策定を担当された五木田さんのnoteは非常にわかりやすく、「アンコンシャスバイアス」「Belonging」といった概念についても解説されています。
この取り組みが非常に重要だとぼくが感じたのは、差別や不平等の問題に目を向けているからです。
ダイバーシティ&インクルージョンが扱うべき「差異」とは何か?
「ダイバーシティ」は言うまでもなく企業の経営課題です。多様な人々がその違いを分かち合いながらコラボレーションし、イノベーションを生み出して行くことが必要な時代になるなか、軋轢や抑圧をなくし、健全な協働を生み出すことが重要です。
しかし、それが企業の中で使われるときには、いつのまにか人種や障害、LGBT/SOGIといった差異のことが置いてけぼりになり、価値観や職能・職歴といった特定の差異に限定されてしまうことがしばしば見られます。
たとえば、デザイナーとエンジニア、マネージャーとメンバーといった職能や肩書きによる立場の違いなどです。こうした違いによる軋轢が生まれたり、場合によってはハラスメントが生まれたりする場合もあるので、決して小さな問題とは言えません。
ただ一方で、ダイバーシティやインクルージョンとは包括しきれないほど多くの「差異」に目を向けた概念であるのです。扱うべき差異と扱うべきでない差異が区別されることがあってはならないと、ぼくは感じています。
関わる人の人権を守る
そうしたとき、Meetyさんのポリシーが「Belonging」に着目され「Meetyに関わるすべての人の人権を守る」ことを第一に掲げられていることが非常に好感を持てました。
社員だけでなく、パートナーやお客さんに対してもこのポリシーを適応することを掲げたのは、大きなことだと感じます。そこに関わる人が、どんな人であっても、差別を受けたり、不平等な状況に置かれたりすることがないように、配慮を怠らないという姿勢を提示されています。
この理念の背景には、「全ての人の人権は守られるべきだが、少なくとも関わる人の人権を守るためにできることをやる」という姿勢が感じられます。
自分たちが持つ特権に目を向ける
もう一つ興味深いのは、「自分たちが持つ特権に目を向ける」ことが掲げられている点です。
「特権」と言う概念については、こちらの記事が非常にわかりやすくて丁寧でした。
この記事では、上智大学外国語学部英語学科教授の出口 真紀子さんが、特権を「労なくして得ることができる優位性」と定義したうえで「自動ドア」に喩えています。
このような特権に自覚的になり、抑圧のない社会を実現するために一人ひとりが行動することが、もちろん望ましいのですが、そのステップを一っ飛びに歩めるわけではないことも指摘されています。
出口さんは特権に気づき始めた人の学習の最初の段階を、以下のように歩むことを薦めています。
学びというものを、個人のスキルや認知の変容だけでなく、集団による協働的な営みであるという視点から考えたとき、このような学習の初期段階の歩み方はあるべき姿であるといえるでしょう。
企業が差別や不平等、抑圧をめぐる新しい学びのコミュニティになるために
しかし、どこにそのような「集団」があるのでしょうか。意識を持った友人たちと会話をすることで学びが起こるかもしれません。あるいは、セミナーやコミュニティに参加する方法もあるでしょう。
Meetyさんのようにポリシーを掲げ、学びの活動を推進していくことが、組織を学習の共同体に変え、そのような共同体の活動が少しずつ社会を動かしていくことができると感じます。
逆に、ポリシーだけ掲げて学びの活動がなくなれば、ポリシーは形骸化するでしょう。いかにして共同的で集団的な学習を触発し続けるか。企業の人事部やD&I室はお説教をするだけでなく、好奇心を喚起するかたちで学習をファシリテートする必要がありそうです。
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