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「ウォニョンイズム」の人気とその危険性

先日、Daily BeastにてSteffi Caoによるこのような記事が興味深かった。
「TikTokの最新ウェルネス・トレンド: K-POPの名の下に自分を飢えさせること」

「"ウォニョンイズム "とは、K-POPファンの間でネット上で急成長しているウェルネストレンドで、リボンやイチゴのミルキーな世界観の中で、摂食障害を助長しているという批判に直面している。」

記事全体では、未成年女子を中心に大流行している、ウォニョンのように細くて綺麗で賢くなることを目指す、その名も「ウォニョンイズム」と呼ばれるトレンドを支持する人々やその背景、そして危険性について詳しく書いている。憧れの存在に触発され、見た目に囚われ摂食障害や過激な完璧主義に流される子供たちの精神的影響についても言及されており、SNS時代においてとても重要な指摘がいくつもされている。

K-popグループIVEのメンバーであり、日本でも絶大な人気を誇る19歳のチャン・ウォニョン。背が高く細い体型で、いつも自身に溢れていて綺麗で優しい。MCやインタビューでは賢い発言も多く、憧れの対象として「推し」ている若い女性からの人気が高い。「ウォニョンイズム」の概念自体は、どのアイドルの「推し界隈」でも起きうるような、「完璧で誰からも憧れる推しに近づくことをモチベーションに、毎日の生活を頑張ろう」という至ってわかりやすいもの。特に彼女より年齢の低い女子たちは彼女を「尊敬するお姉さん」というふうに見ていることが多く、世界中で活躍する彼女のヘアスタイルやメイク、言動を真似したくなるのも無理はない。

#Wonyoungism のタグをXやTikTokで検索すると、さまざまな検索結果が出てくる。早起きしたらすぐにストレッチをしてお湯を飲んで、ウォーキングやヨガをして1日を始めよう、という「ウェルネス」トレンドに沿ったものもあれば、「学校の勉強が捗る方法」をピンクのリボンやかわいいドリンクの世界観と合わせて伝授する人もいる。しかし同じくらい見受けられるのが、「Xヶ月でXキロ痩せるウォニョンのダイエット方法」「低カロリーでもお腹いっぱいになるウォニョン的食事」など、体型やダイエットにまつわる文言をウォニョンの画像や名前とともに掲示するものだ。TikTokでは#Wonyoungismのタグがついた動画は36万個を超え、人々の関心を惹く人気コンテンツであることは一目瞭然だ。

元々は「ウォニョンのように自信があってかっこいい女性になれるように/垢抜けられるように、彼女の努力を内面化して頑張ろう」というモチベーションの共有のために作られ本来はエンパワメントにも近かった「ウォニョンイズム」という概念が、皮肉にも彼女を尊敬する人々の間でねじれてしまったのだ。


もちろん、このように有名人のイメージをモチベーションとして起用する「インスピレーション」や「ムードボード」は古来のSNSから存在する。最も有名なのが2010年代のTumblrでの"pro ana"(摂食障害肯定)コンテンツ。"Thinspiration"と呼ばれる投稿は食事を拒絶し、ハードな運動を美化し、ガリガリな体型になることを最大のゴールとして掲げた。このようなトレンドをはじめに、当時の数々の「細さ」を美化したりガリガリではないセレブを嘲笑するようなメディア・広告のあり方が大きく見直され、現在ではこのようなコンテンツがいかに幼い子供達に精神的な悪影響を与えるか、広く認知されている。

しかし今日に至っては、このような「摂食障害コンテンツ」のパッケージが変わっただけで、中身は同じだと言う人もいる。「ウェルネス」として李パッケージされた「細さ至上主義」や「摂食障害の美化」は、ベラ・ハディドが大量のサプリを飲んでほとんど食事をしない動画を投稿した時や、偏った食事をウェルネスとして宣伝するグィネス・パルトロウの発言の際などに大々的に議論になる。

他のトレンドの例として、「ピンクピラティスプリンセス」というものがある。去年話題になったフレーズだが、ウォニョンイズムのコンテンツに使われるものと似たピンクの世界観で、グリーンスムージーやピラティスのルーティン、フィットネスウェアなどにまつわる画像を集めて生活スタイルのインスピレーションとして人気になったのだ。しかし、ピンクピラティスプリンセスの概念は「Edtwt」と呼ばれるいわゆる「摂食障害ツイッター」界隈でも大人気だったことが問題になった。もっと痩せるモチベーションとして重宝されている。若い女の子たちがこうして不健康なダイエットと男性中心社会の定めた「美的価値観」に自己価値を置いてしまう。サイクルは繰り返すのだ。

Daily Beastの記事ではこのように記載されている
「チャンは自信にあふれ、賢く、かわいらしく、洗練されていると、彼女を追いかける人々は言う。それゆえ、彼女は典型的な有名人を通り越して、単に "ウォニョン "として知られる宗教的な人物へと進化した。"ウォニョン効果"や"ウォニョンモチベーション"といったフレーズを使い、ネット上の信者的なファンたちは、彼女を中心とした自己啓発のメッセージを布教し、具体的なライフスタイルを変えることで、自分もチャンと同じように自信に満ち溢れた外見になり、さらには自分もチャンと同じように自信に満ち溢れた気分になれるとお互いに言っている。」

ウォニョンイズムについて議論するこのRedditスレッドにもさまざまな意見が述べられている。

「TikTokのウォニョンイズムという言葉は、拒食症の隠語になっ ている。多くのファン、特に10代の若い女性たちが、彼女をボディ・インスピレーションとして使い、肥満恐怖症的な発言とともに彼女の画像や動画をあわせる」

「アイディア自体は素晴らしいと思う。人々を駆り立てて、自分の中の最高のバージョンを引き出そうとしているから。しかし、ウォニョンのようになりたいがために、不健康なダイエット法や自分自身を傷つけるような有害な習慣を勧めるのは行き過ぎだと思う。」

「ウォニョンイズム自体は悪くないし、その背後にあるコンセプトやイデオロギーは実際素晴らしいもの。残念なことに、拒食症推進派の人たちがそれを引き継ぎ、悪い摂食障害的なものにイメージを変えてしまった。それは本当のウォニョンイズムじゃない」

「元々は"スキンケア、運動、健康的な食事、自分自身を大切にすること"で自分にとって最高のバージョンになるためのものだったけど、もちろん人々はそれを捻じ曲げ、びっくりするくらい拒食症推進的で見た目中心的なものに変えてしまった。」

また、こちらのDazedの記事でもウォニョンイズムの話題を取り上げており、いかにして摂食障害を推進してしまうようなコンテンツが「再パッケージ」されたのかについて書かれている。

"00年代の「プロアナ(摂食障害肯定派)」コンテンツが「これは有害で不健康だが、私たちは気にしない」というアングルを取ることが最も多かったのに対し、TikTokのコンテンツは、深刻な乱れた食生活を「健康的なライフスタイルの選択」としてフレーミングすることが多い。"

ダイエット文化は日本においては性別、年齢かかわらず広く一般的なものとして認識されているが、アメリカでは長期的な健康被害や最悪の場合は自殺などに至る原因であるとして、教育現場においても真剣に取り組まれている議題だ。

日本でも徐々にダイエットの危険性が問題になっているが、アイドルのように見た目がジャッジされる職業にいる若い女性が「憧れ」や「尊敬」の対象になった場合に、社会全体に対してどのような影響があるのか、そしてそのようなコンテンツとどのように向き合うべきなのか、アイドル文化やファッション等が好きな人こそ真剣に考えなければならない問題だ。


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