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「管理職」にも、チームワークを

会社が人の集まった組織である以上、多かれ少なかれ、そこで働く人たちのマネジメントが必要になる。そして、多くの企業では「管理職」と呼ばれる人たちが、各職場の人材マネジメントを担当している。

この人材マネジャー、いわゆる「管理職」の人たちは、社内で人事制度が機能していくうえでも、非常に大きな役割を果たす。

上記の記事では、会社に在宅勤務制度が導入されても、現場のマネジャー(上司)のマネジメントスタイルの違いによって、テレワークができる職場とできない職場がある、という実態について言及されている。

どんな人事制度を導入したところで、結局、そうした制度に命を吹き込むのは、その運用を担う職場の人材マネジャー、というわけだ。

かくいうサイボウズも例外ではない。

100人100通りの働き方を標榜し、1人ひとりの条件を個別に合意しているサイボウズにおいて、肝になるのは人材マネジャーの存在である。

ここ数年でサイボウズの企業規模は1000人を超え、マネジャーの人数も増加した。多様な個性を重視するサイボウズにおいて、人材マネジメントの難易度は高く、人事としても、マネジャーの支援が喫緊の課題となっていた。

そこで昨年から、職場の人材マネジャーを支援する専門チームが人事本部内に立ち上がり、ぼくもそこに参加し、一部施策を企画・運用してきた。今回は、そんなマネジメント支援チームで実施した幾つかの事例を紹介したい。

人材マネジャーの役割とは

マネジメント支援チームで、まず最初に着手したのは、人材マネジャーの役割の言語化だった。

そもそもサイボウズの人材マネジャーに、どんな役割が期待されているのかを明確にしなければ、支援のしようがない。

「マネジメント」と一口に言っても、サイボウズ社内には人材マネジメント以外にも、プロダクトマネジメントや、プロジェクトマネジメントなど、「マネジメント」と名の付く役割が沢山ある。

またそうした役割が、必ずしも役職に紐づいているわけではないため、まずはサイボウズ社内のマネジャーの種類と、その責任範囲を可視化することから始まった。

「人材マネジャー」の責任範囲がある程度明確になってくると、次はさらにその役割を細かく具体化した。

チームの理想を達成するために必要な人員数と役割分担を決めるリソースマネジメント、多様な働き方とそれに伴う労務対応(含む タイムカードの確認等)、メンバーの成長支援、コンディションケア(安全配慮)、新しくチームに入ってくる人のオンボーディング、職場内紛争といった人系の問題解決など、実際に言語化してみると、サイボウズの人材マネジャーに求められている役割は盛りだくさんだった。

さらに上記に加え、サイボウズの場合、給与も含めた条件合意の一次起案を現場の人材マネジャーが行っているため、労働市場の給与相場なども認識しておく必要がある。

改めて、社内の人材マネジャーを支援する体制の必要性が分かったところで、次は幾つかの具体的な支援策を実施した。

支援の仕方には、ざっくり「場」と「しくみ・ツール」の2つがある。

マネジメント支援の「場」

マネジメント支援の「場」づくりとしては、「人材マネジメントオンボーディング研修」「マネジメントBAR(月1回)」「マネジメントMTG(年1回)」などを実施した。それぞれ順に紹介していきたい。

まずは「人材マネジメントオンボーディング研修」から。

これは、その期から新しく人材マネジャーの役割を担うことになったメンバー、つまり、新任マネジャーを対象とした研修プログラムだ。

1年間を通して、全8回(月1回)、3月~8月まで実施した。

サイボウズのマネジャーに求められる役割ごとに、特定の専門知識を持つ社内メンバーが講師となり、基本的な考え方や、困ったときの社内の相談窓口、あるいは、実際に社内で起きた事例なども共有しながら、1回2時間程度で、インタラクティブに話し合った。

当初、新任マネジャーに向けて作成した研修プログラムだったが、口コミで広がり、新任以外のマネジャーからも「受けたい」という声が上がったため、途中から新たに受講メンバーが増えた。

また、一部非公開部分はカットし、資料や動画は全社公開することで、今回の研修に参加できなかったマネジャーや、マネジャー以外の人も、いつでも見られるようにした。

この人材マネジメントオンボーディング研修の中で、意外と好評だったコンテンツが、以前別の記事でも紹介した「もやもや共有ワーク」である。

参考記事:「心理的安全性」という夢物語を追って

コンテンツ自体は毎月の入社メンバー向けと同じで、普段人材マネジメントをしていてもやもやすることについて、予め指定のフォーマットに沿ってアプリケーションに登録してもらい、当日は、社内の議論のフレームワークに従って、お互いにその背景や理想を深堀りしていく、というものである。

もやもや共有アプリは、公開範囲に任意の制限をかけられるようになっているため、マネジメントに関わるセンシティブな話題に関しては、参加者や特定の人だけが見えるような状態にして実施された。

人材マネジャーという役割の特性上、周りに相談するのが難しい悩みを抱えていることが多いうえ、職能をまたいで同時期にマネジャーになった人同士で話せる場も多くはない。

ワーク後のアンケートでは「他部署のマネジャーも似たようなことで悩んでいることを知れて安心した」「自チームでの取り組みをお互いに共有したりできる場はとても有意義だった」などの感想も見られた。

マネジメント支援チームの立場からすれば、新しく人材マネジャーになった人たちが、どういうことに不安を感じているのか、どのように支援していけばいいのかを知れるため、ある意味、一石二鳥である。

さて、ここまでは主に新しくマネジャーになったメンバー向けの研修プログラムの話をしてきたが、もちろん、既にマネジメントをしている人たちをターゲットとした「場」も存在する。

こちらについて、昨年は「マネジメントBAR」と「マネジメントMTG」という2種類の会議体を設定した。

前者では月1回、任意参加のマネジャーで話したいテーマを募り議論する。後者は年1回、グローバルも含む全マネジャーで集まり、全社のマネジメント課題について議論し、Next Actionを決めるというものである。

どちらもリアル開催ではなく、オンラインで実施した。

特にマネジメントMTGでは、今後の組織体制の話から、社内の人材育成の方針、条件合意に関する疑問など、幅広い問題意識が挙げられた。

このように、人材マネジャー同士で集まる「場」をつくると、お互いに共通認識を持てたり、本部間を超えたつながりができる。

一方、こうした「場」の効果は一時的でもあるため、常に人材マネジャーを支援できる「しくみ・ツール」も整えていく必要がある。

マネジメント支援の「しくみ・ツール」

「しくみ・ツール」について、今回は「人材マネジメントマニュアル」と「ひとダッシュボード」を紹介したい。

「人材マネジメントマニュアル」は、その名のとおり、人材マネジメントに関する情報が蓄積されたアプリである。

人材マネジャーに必要な知識(社内手続き、対応の仕方、予備知識など)を体系的にまとめ、随時アップデートしている。

また「ひとダッシュボード」は、「ひと」ごとに、あらゆる情報を一元的に見ることができるアプリである。

具体的には、人材マネジャーを始めとする個人情報にアクセスする必要がある人のみ、①基本情報(社員名簿、配属履歴、採用時情報など)②働き方(働き方の内容、タイムカードの記録、休暇登録、休日/深夜勤務申請など)③成長支援(面談報告、目標設定、研修受講履歴など)④健康関連(パルスサーベイの結果など)⑤給与評価(条件コミュニケーション、給与評価の記録など)⑥各種費用(費用公開、通勤交通費、スマホ費用等)といった、個人に紐づくあらゆる情報を見られるようになっている。

いわゆる、タレントマネジメントシステムに近いものだと思ってもらえるといいかもしれない。

「ひとダッシュボード」が少し特徴的なのは、給与や健康情報といったプライバシーに関わる情報以外の項目については、人材マネジャー以外も、全社員がお互いの情報を見ることができるという点にある。

たとえば異動履歴や研修受講履歴、タイムカードの記録や、個人が使っている会社費用などは、誰でもお互いに見られるようになっている。

そこには、オープンにできる情報は可能な限りオープンにしておくことで、必ずしも人材マネジャーだけでメンバーのことをマネジメントする必要はない、というメッセージが含まれている(労働時間の多寡等、気になることがあれば、チームメンバー同士がお互いに質問しあうこともできる)。

「管理職」にも、チームワークを

こうしたマネジメント支援の取り組みを1年間やってみて、一定の手ごたえを感じてはいるものの、実際に社内で人材マネジメントをやっている人の声を聴いていると、まだまだ改善できることはあるように思う。

今年は、昨年の取り組みをさらに改善・強化するとともに、幾つか新しい施策にも着手していく予定である。

その中の1つに、「マネジメント事例蓄積アプリ」というものがある。

マネジャーから、ケーススタディ的な情報があると参考にしやすい、という声があったため作成を始めたもので、実際に社内で起きた人材マネジメントに関する事例を、匿名性を担保しながら、そこから読み取れる学びや考え方も含めて蓄積していくデータベースである。

可能な限り、情報の解像度を上げて共有することで、社内で起きた出来事をしっかり組織としてのナレッジに昇華し、同様の問題を未然に防いだり、問題が起きてしまった時の対応をスムーズにできるようにしたいという狙いがある。ある意味、社内版判例集みたいなものともいえるかもしれない。

ここまで見てきたとおり、人材マネジメントという役割には、当然、技術があり、ノウハウがあり、時には、分担できる部分もある。

人に相談しにくい悩みを抱えがちなマネジャー(管理職)同士こそ、お互いに知恵を共有し、チームワークを発揮して日々の問題解決に取り組んでいくことができれば、そして、それを支援するプラットフォームや体制を人事が用意していくことができれば、より組織の生産性は上がり、マネジメントの役割を担う人たちも前向きに働けるのではないか。

……と、偉そうに書いてみたが、ぼく自身は人材マネジメントの役割を経験したことがないため、あくまで推測にすぎない。

しかし、マネジメントについて、先人たちの知恵が共有され、困ったときに頼れるチームがあることは、これから「管理職」になる可能性があるぼくのような若手にとって、ありがたい環境であることは間違いない。

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