1on1が意味のあるものになっているか。目的を果たしていない部下との面談は「逆効果」
皆さん、こんにちは。今回は「1on1ミーティング」について書かせていただきます。
1on1(ワンオンワン)ミーティングとは上司と部下が1対1で対話する面談のことですが、特にコロナ禍で社員同士が直接顔を合わせない状態が続いた時にその価値が注目されました。(コロナ以前も上司と部下の定期面談自体はどの企業にもあったはずですが、急速に誰もが「1on1」の重要性を認識し始めたような印象を持っています。)
もともとは部下の成長を促すコミュニケーションとしてシリコンバレーの企業を中心に行われており、日本企業にも広がりを見せていましたが、数年経った今、1on1を継続的に上手に活用している企業とそうでない企業(意図的なものも含め)が出てきたように思います。
一般的な個人面談と1on1とは、「部下のための面談」か、従来日本企業で行われてきたような「上司のための面談」かという大きな違いがあります。上司のためというのは言い過ぎかもしれませんが、これまでは上司が部下を“指導”したり、プロジェクトや目標の進捗度合いを“把握”したり“評価”したりするための面談でした。
一方、1on1は「部下の成長をサポートする」ために行われる面談です。
部下の成長を実現するために、上司はどのような点を意識して1on1を実施すべきなのでしょうか。または別の新しい形を模索していく必要があるのでしょうか。具体的に考えていきます。
■1on1ミーティングが注目されるようになった背景
1on1ミーティングが注目されるようになった背景には、職場環境やマネジメントの変化が大きく影響しています。デジタル化の進展やリモートワークの普及、自己実現やキャリア成長を重視し、個別のフィードバックを求める若手世代への適応など、あらゆる理由により1on1というコミュニケーション手法を取り入れる企業が増えてきたのです。
その他にも以下のような要因が考えられます。
●フラットな組織構造への移行が加速
→従来の階層的な組織構造から、フラットで柔軟な組織構造に移行し始める企業が増えてきていることが理由の一つです(もちろん企業によって“フラット”加減は異なります)。このような組織では、全てトップダウンで指示が与えられるわけではないため、部下と直接コミュニケーションをとる重要性が上がりました。
●働き方の多様化
→リモートワークをはじめとして、上司と部下が物理的に離れて働くことが増えた結果、リモート環境での効果的なコミュニケーションツールの一つとして、1on1の重要度や注目度が上がりました。市場全体の傾向としてはリモートワークメインだった企業が出社メインに移行しているものの、それでも対面で1on1を継続している企業も多いと聞きます。
●マネジメント手法の多様化
→マネジメント手法は常に変化し続けていますが、近年では、部下の成長を促す「コーチング型リーダーシップ」や「サーヴァント型リーダーシップ」などのアプローチが注目されています。その実践において、1on1が必要不可欠な手段となりました。
●個別対応の重要性の向上
→社員それぞれが異なる能力や強み、習慣を持ち、パフォーマンスの発揮具合にもバラつきが見られる中で、画一的な管理や評価では期待通りの効果が得られなくなりました。1on1は個々の状況に合わせてサポートできるため、有効な手段とされています。
●社員の成長意欲の向上
→社員のスキルアップ志向、キャリアアップ志向の高まりを受けて、上司からの適切なフィードバックを求める声が増加しています。部下のモチベーションや満足度を高めるためにも、目標に対するパフォーマンスなどのフィードバックの機会として1on1を導入している企業が増えてきました。
変化のスピードが早く正解のないビジネス環境において、トップダウンで決められた動き方だけでは顧客の要望に応えられなくなっており、誰もが答えのない中で多様な意見や価値観を出し合い、お互い対等に最適解を模索していく必要が出てきているのです。
このような背景から、1on1は現代の職場環境で重要なコミュニケーションツール、かつ先進的な人材マネジメント手法として広く取り入れられていますが、目的について改めて定義すると以下の通りです。
部下の主体性を高める
個別のフィードバックによって成長機会へとつなげる
目標達成状況や業務進捗状況を確認し、必要に応じて目標を調整する
部下が抱えている問題を把握・発見し、早期解決につなげる
部下のキャリアに関心を持ち、長期的な成長をサポートする
部下が上司に気軽に相談したり、意見や悩みを共有する機会を作る
面談に向けての事前準備も含め、部下の「考える力」を養う
上司が部下に関心を持ち「サポートしてもらっている」と感じてもらうことでモチベーションの向上につなげる
上司と部下のコミュニケーションを円滑にし、信頼関係を構築する
部下への理解を深めることで、部下のエンゲージメントを向上させ離職を防止する
1on1の“質”や“効果”を適切に保つことで、組織全体の生産性や満足度を高めることにもつながることは明らかです。さらに、社員のモチベーションの向上や業務の透明性の担保などにも貢献し、組織全体のパフォーマンス向上に直結する効果が期待されています。
■有効な1on1ミーティングにするには
1on1ミーティングの効果は、個別のフィードバックやコミュニケーションの機会を提供し、社員の成長やチームのパフォーマンス向上に貢献することにありますが、シンプルに考えると、最低限「部下が上司と話してよかった」となれば、目的を十分果たしているのではないかと思います。
一方で、継続して実施していく中で、お互いに面倒に感じたり、ストレスを感じることもあるかもしれません。
有効な1on1にするために、上司が意識すべき点を挙げてみます。
●1on1実施の目的を明確にする
→目的が不明確なまま、ただ1on1だけを形式的に導入しても成果が上がらないことは明白です。なぜ1on1を導入するのか、導入した結果どのような結果を目指すのか、部下にとってどのような意味があるのかなどを明確にする必要があります。1on1は、言ってしまえば、よくある人事施策のように「手段」の一つです。目的がなく、手段が先行してしまうケースも多いですが、経営側の目線、そして現場側の目線を踏まえて、導入の目的をしっかりと持つ、または再定義することが重要です。
●部下が話しやすい空気感を作る
→上司がピリピリしていたり緊張感のある雰囲気を作ってしまうと、当然部下も緊張してしまいます。そのような状況の中で部下が本音で話してくれるはずもなく、それが続くと部下はいかに1on1をやらずに済むかを考え始めてしまいます。よく言われることですが、多くの上司にとって部下とのコミュニケーションにおいて必要なのは「傾聴」することです。部下の言葉に真摯に耳を傾け、相手を理解しようする姿勢をまずは取ることが重要です。求められない限り積極的にアドバイスする必要もないかもしれません。部下が話したいことを話した結果、上司の理解も深まり、安心した状態で今やるべきことや次のチャレンジに向き合えるように、サポートに徹すると良いと思います。
●話したいテーマを部下に決めてもらう
→1on1を実施するにあたって、部下の成長を促し、自主性や考える力を高めていくことも目的の一つです。上司が先導するのではなく、あくまで部下が主役としてミーティングを進めるために、テーマやアジェンダを部下自身に決めてもらうことも有効な1on1にする上での大事なポイントです。ただし、部下が話題を展開する上で仮に建設的な話にならない場合は、少しだけ上司が論点を整理しながら、建設的で意味のあるコミュニケーションになるように誘導することも必要です。
●1on1は「上司と部下の協同作業」というスタンスで向き合う
→「部下を管理するため」「部下に仕事をしっかりやらせるため」のミーティングではなく、一緒に学びを深め、モチベーションも成長スピードも高めるための場であるということが、1on1を実施するにあたって、大前提として双方が理解しておく必要があります。「管理」やトップダウン型の「指示」の場ではなく、一緒に「思考」・「伴走」し、部下のパフォーマンスを最大化するために“協同”で向き合う場として機能させることが何より大事なポイントです。
●毎回「大成功」を狙わなくてOK
→部下が上司からの的確なアドバイスやフィードバックを求めていると分かると、急に「何かいいことを言わなければ」と構えてしまうことがあります。部下は何も上司からの“ありがたいお言葉”を毎回待っているわけではありません。仮に上司がいいことを言ったつもりでも、部下には全く響いていないこともありますし、上司の話を聞くよりも自分から相談したいことや聞いてほしかったことがあったのかもしれないのです。1on1を毎回大成功させる必要はありません。仮に雑談しかしなかった時があったとしても、部下が「話せてよかった」と思ってくれたらそれで十分です。
●結論をすぐに出さなくてもOK
→通常の業務においては、すぐに情報を集めて、すぐに結論を出して、すぐに実行することが習慣化されていたとしても、その考え方を1on1に持ち込んでしまうと失敗してしまう可能性が高いです。すぐに結論を出そうとする人ほど、部下からの意見やアイディアを否定してしまったり、部下自身に自発的に考えて行動させることこそが成長支援につながるのに、結局上司が一方的に指示を出してしまって部下の成長機会を奪ってしまうこともあります。時には遠回りでも、部下自身の考えていることや悩みをじっくり聞き出し、本人が納得した上で行動に移せるように、あえて時間をかけることも必要です。
あくまで一例ですが、上記のようなポイントを満たしていない場合や、最初はうまくいっていたのにどんどん効果を実感できなくなってきたという場合は、今のままでいいのか抜本的に見直す機会を作る必要があるのではないかと思います。
■意味のない1on1がもたらすもの
相手を信頼した上で本音の対話を通じて、「仕事に対する意欲の向上」や、「新しい気づきや学びの獲得」ができてこそ1on1は意義のあるものになりますが、それらが得られない場合は、若手の育成や離職防止などの狙った効果を発揮せずに、有効な1on1が成立し得ない状況が発生してしまいます。
冒頭で引用した記事には、エヌビディアが1on1ミーティングを一切行わず、かつ否定的であると紹介されていました。
ポイントだけ引用すると、
とあり、その上で、「1on1」は特定の人にだけ学びの場を提供するもので、他の人が学ぶ機会がなくなってしまうことを危惧しているのです。
1on1を取り入れている企業は決して少なくありませんが、有益な効果を得られている企業がどれほどあるのかは非常に懐疑的です。
よくある失敗例としては、
1on1が浸透しきらずに形骸化する(始めてみたものの定着しない)
上司側のスキルが不足していて、部下にとって意味のないミーティングになっている(上司が部下に的確なアドバイスやコーチングができない)
毎回雑談で終わってしまう(何を話していいか分からない)
上司も部下も1on1を実施する意義を見出せない(成果定義がなく効果を実感できない)
率直な対話ができない(上司の顔色をうかがってばかりいる)
やっていくうちに1on1ではなく、ただの案件の進捗管理や「詰め」の場になっている(通常のミーティングになってしまう)
ミーティングで話したことや決めたことが実行されない(話しっぱなしで終わってしまう)
継続していくうちに徐々に実施されなくなる(1on1自体の優先順位が下がる)
などです。
意味のない1on1を実施した場合、ただ時間の無駄になるだけでなく、上司と部下間の信頼関係が悪化し、部下の離職につながることさえあります。
上司が部下と対話するにあたっては、いくつか段階があると思っています。
●部下のコンディションをよく見るための対話
(現状認識、把握が中心)
↓
●関係性を構築するための対話
(相互理解、部下の興味関心や志向などの把握が中心)
↓
●成長を支援するための対話
(育成計画に基づくPDCAをまわすことが中心)
↓
●成果創出を支援するための対話
(個別の能力開発、フィードバック、成果創出に必要な情報共有やアドバイス、コーチングが中心)
上記のようなステップを意識しながら、それぞれのメンバーごとに何のための1on1なのか、どのフェーズの1on1なのかを明確にし、目的に応じて対話する人(先輩や上司)を変えたり、やり方を変えたりして、効果的なものになるよう、工夫をし続けていく必要があります。また、もしブラッシュアップしても、結果的に形骸化するくらいなら、思い切って「1on1をやめる」という判断をしても良いと思います。
1on1をうまく定着させ、継続して効果を実感できている企業は、「上司と部下の関係性が良くなる」だけでなく、職場全体のコミュニケーションの質も上がり、お互いに相手を『知る(知ろうとする)』『理解する(理解しようとする)』『助け合う(助け合おうとする)』という空気感や文化の醸成にもつながっていくと思います。
逆に、1on1の効果を実感できていない、または継続する意味を見出せていない企業は、従来の業務の進捗確認のミーティングに終始してしまうなど、上司も部下も負担が増していると感じているはずです。そうなると、1on1を継続していくデメリットばかりに目がいき、本来実現すべき機能が不完全な状態に陥るだけでなく、部下との“信頼関係の悪化”や、部下の“成長を阻害”する直接的な要因になるなど、逆効果です。
有効な1on1になっていないのであれば、「今すぐにやめる」か「大幅に見直して改善する」かしかありません。チーム単位ではなく大きな組織や会社全体で取り組んでいるのであればなおさら、一度始めたことを「やめる」という意思決定をするのはなかなか勇気がいることですが、機能していなければ「捨てる」「やめる」という選択をすることは、会社全体の良い雰囲気作りや生産性向上にもつながる、素晴らしい決断ではないかと思います。
1on1さえやっていれば、確実に組織がよくなるわけでは決してありません。むしろ、組織の状態が悪化し、業績にも悪影響を及ぼしかねないという点を、改めて理解しておく必要があるのではないでしょうか。