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副業の「べし」と「べからず」

厚労省が、副業を制限する企業に理由を説明するよう求める新指針を、7月にも公開するようです。それを報じた日経の記事によると、現在企業の副業容認割合は、わずか24%に過ぎないということ。実に45%もの企業が、副業を全面禁止しているそうです。そんななか幸い副業OKの会社に勤めている私は、今年で副業生活4年目を迎えます。

他ならぬこのnoteも実はその一部なのですが、私の副業は書籍や雑誌記事の執筆と、マーケティングやビジネスに関する講演や講座の提供です。私自身の副業元年には、これに加えてコンサルもやっていて、4社と契約させて頂いていました。2年目以降、順次コンサルはやめることにさせて頂いたのですが、このnoteではその理由を深堀りさせていただきます。

「お金」は仕事でえられる資産の1つでしかない

少し遠まりになってしまいますが、まずはじめに、人は仕事を通じて何を得るのか? という話をさせてください。私の考えでは、仕事とは、以下の5つの資産を築くための営みです。

  1. 経済資産

  2. 経験資産

  3. コミュニティー資産

  4. コンフィデンス資産

  5. 信用資産

経済資産は、労働の対価として支払われるお金や株式、年金資産です。経験資産とは、仕事の実地経験を積むことで、自分の中に蓄積されるノウハウやスキルです。コミュニティー資産とは、仕事を通じて築かれる、社内外の仲間とのつながりです。コンフィデンス資産とは、貢献し、感謝・承認されることで育まれる自尊心です。信用資産とは、実績を土台に積み上げられる、社内外からの信頼です。

これらの資産は、以下の図のように関係しています。社内外での信頼(信用資産)、人とのつながり(コミュニティー資産)、自信(コンフィデンス資産)が新しい仕事の機会(経験資産)を与えてくれ、それをやりとげることで評価と報酬が上がる(経済資産)、というつながりです。また、新たな仕事をやりとげた経験は、新たな「自信」「つながり」「信頼」をもたらしてくれます。

経験資産が、いわば複利で経済資産とその他の3つの資産を生み出してくれるというのが、この図のポイントです。このループが回り続けている限り、右端のアウトプットである経済資産は青天井で増え続けます。もう一つのポイントは、経済資産がその先のない行き止まりである、ということです。お金で自信や、人とのつながりや、信頼を買うことはできません。講座などに通えば知識を身につけることはできますが、実地経験を伴わなければそれがスキルにはならないのです。

副業は、長い目でみると資産形成に不利なことも

このループを回すのに、実は会社勤めはとても有利です。会社は様々なネットワークイベントを通じて、社内での人とのつながりづくりを手伝ってくれます(コミュニティー資産)。上司は少しストレッチな業務を与えてくれ、教育し、サポートし、励ましてくれることで、自信を管理してくれます(コンフィデンス資産)。また、人事部門は評価を記録することで、自分の信頼を社内で可視化してくれます(信用資産)。

こうした仕組みがあるからこそ、またその人の長期的な成長に利害関係があるからこそ、会社は未経験でも新しい仕事に挑戦させてくれます(経験資産)。かくして、それがあたらしい自信、つながり、信用を産むというループがもたらされるのです。一方で副業の場合、経済資産以外の資産は、原則すべて自らつくりだす必要があります。だから、ともすれば、以下の図のような状態に陥ってしまいがちです。

副業では、すでにある経験資産=ノウハウやスキルを経済資産に換金することはできますが、既存のものであるがゆえ、それが新しい自信やつながり、信用を生み出すフィードは弱くなります。また、副業の契約先は、私達の自信を管理してくれたり、新しいつながりをつくってくれたり、信用を担保してくれたりは普通しません。それゆえ、経験資産の供給源が圧倒的に細ってしまうのです。副業先は普通、副業者の長期的な成長にはそれほど関心がないので、わざわざ経験のない仕事を任せてくれたりはしないでしょう。

このような状態で副業を続けると、一時的に経済資産は増えるかもしれませんが、長い目でみればむしろ経済資産を減らすことにつながりかねません。5つの資産を複利で生み出す、錬金術とも言えるループを断ち切ってしまうことになるからです。

新しい自信、つながり、信頼、経験を得るための副業

もっとも、会社勤めであれば必ずこのループに入れるわけでも、副業をしていては絶対に入れないものでもありません。自信も、つながりも、信用も、あたらしい仕事の機会も、今の職場は何も与えてくれない、ということがあるかもしれません。それは会社に原因があるのかもしれませんし、自分にあるのかもしれません。その場合はそんな状態から抜け出すのが得策ですが、そのための方法として転職に加え副業という選択肢が加わったことはいいことです。

副業で新しい経験資産を積むために、一時的に経済資産を犠牲にする、という選択肢があります。例えば、少しだけ経験のあるPRの経験値を増やしたいので、かなり安い経済条件(あるいはボランティア)でPRの副業を引き受ける、などです。そうして得た経験から、あたらしい自信、つながり、信頼が築かれ、それがまた新しい経験を産む、というループをつくりだすのです。そうなれば、そんな経験を経済価値に「換金」するのは難しくありません。下の図のようなイメージです。

今の職場で十分なまわりからの承認=自信や、新しいつながりが築けないと感じたとき、ボランティアにそれを求めるという選択肢もあります。例えば地域のお祭りの実行委員を買ってでることで、周囲の承認や新しい仲間が得られるかもしれません。そこでの経験が自信と新しいつながり、そして信頼をもたらし、「次回はぜひ実行委員長を」などと、新たな経験(この場合リーダー経験)をもたらしてくれるかもしれません。ボランティアを、経済条件を重視しない副業に置き換えても、この話は成り立ちます。

このような視点で自分の置かれている環境を見て、長期的に経済資産を生み続けるループを最大化できるよう、今の仕事と副業のバランスを考えるのが得策だと私は考えます。これが副業の「べき」です。逆に「べからず」は、短期的な経済資産を増やすことだけを考えて、今の限られた経験を切り売りしてしまうことです。

定年退職しても残る「承認の場」や「つながり」

私が副業のコンサル案件から手を引いた理由もここにあります。ビジネスパーソンとしてまだまだ未熟なので、私の手持ちの経験資産はかなり限らています。1年や2年ならそれで新しい経済資産を生めるかもしれませんが、いつかかならず枯渇し、その先に残るものは何もありません。一方で、幸いなことに、今の職場からは新しい自信、つながり、信用をバランスよく頂いています。であれば、そこで新しい経験資産を積むことに注力しようと考えたのです。

執筆や講演などの副業を残したのは、それが新しい自信、つながり、信用をもたらしてくれるからです。特に「つながり」です。本や記事などを読んで興味を持ってくれた人が、話してみたい、と声をかえてくれます。ビジネスイベントなどのパネルディスカッションでは、普段の仕事では接点がない人、それもその分野の第一人者とお話する機会が手に入ります。このようにしてできたつながりは、人生の資産とも言えます。定年退職などで会社のつながりから切り離されてしまっても、100年時代の人生を全うするまで続く可能性があるからです。このようなつながりは、例えばボランティアでも築くことができます。

また、今はまだ40台の働き盛りですが、それでも若い世代に活躍の機会を譲るべき、と感じるシーンは年々増えてきています。そんなとき、それで周りの承認(コンフィデンス資産)を得る機会がなくなってしまうと考えると、地位にしがみつきたくなるかもしれません。定年退職や役職定年がそんな思いを断ち切ってくれればいいですが、今度は自分自身のことを考えると、それで自信を失い元気をなくしてしまうのも嫌です。副業やボランティアで、自分が承認される場を別に1つ2つ持っておくことで、そうした事態を防ぐことができるとも考えました。

こうして考えると、副業というのは、うまく活用すれば、日本が抱えている問題点をいくつも解決してくれる社会の起爆剤になりえます。一方で、間違った使い方をすることで、将来ある世代のキャリア形成や資産形成を先細らせてしまう危険性もはらんでいます。副業を促進する、のみならず、副業も選択肢に入れたキャリア形成の考え方を提示することが何より大切です。このnoteが、微力ながらその一助となれば幸いです。

#COMEMO#NIKKEI

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