“資金調達なし”で売上30億まで伸ばす「ノンエクイティスタートアップ」の立ち上げ方マニュアル
プレックスは創業6年目で、今期の売上は30億を見込んでいます。おかげさまで、メンバーも250人を超えました! いまは「人材紹介事業」「SaaS」「M&A仲介」の3つの事業を展開しています。
そしてありがたいことに、これらを「ノンエクイティ(株式による資金調達なし)」でやれています。
資金調達をしないメリットは、なんといっても「迅速な意思決定」ができること。たとえば僕らの場合、
✔︎ステークホルダーが少ないので、会議や報告会が少なくて済む→経営者やマネージャーが事業に集中する時間が増える
✔︎早い段階で「SaaS」「M&A仲介」の2つの新規事業に、同時に挑戦できている
✔︎若いメンバーにどんどん権限委譲ができている
こうした「経営上のメリット」を享受できています。これは僕らの大きな強みかもしれません。
「ノンエクイティ」のデメリットをいかに解消するか?
一方で、ノンエクイティでの経営にはデメリットがあるのも事実です。
初期は本当にお金がない
「調達しました!」というリリースが出せず、目立たない
→外部から見て「いい会社」なのか判断しづらく、採用が難しい。
などなど……。
では、それらをどうやって解決してきたのか?
以下のステップで事業を進めたことで、ノンエクイティのデメリットを解消しながら、事業を急成長させられました。
1:まずは小さな「ユニットエコノミクス」を成立させる
2:オペレーションを整える
3:近接領域から、エコノミクスを徐々に拡大していく
4:様子を見つつ、さらに遠い領域にも拡大する
5:銀行借り入れをうまく使おう
6:採用のカギは「言語化」にある
ポイントとしては、まずは事業を小さく立ち上げること。そのあとで慎重に、でも確実に一歩一歩大きくしていく。ホイールを少しずつ回しながら、徐々に拡大していくイメージです。
スタートアップが急成長するには「資金調達が必須」だと思われがちです。でも、このステップで事業を進めれば、ノンエクイティで急成長し、SaaSのようなJカーブのモデルにも挑戦することが可能でした。
ということで、そのステップを詳しく解説していきます!
※以下、株式による資金調達をしないことを「ノンエクイティ」という表記で統一します!
①「小さなユニットエコノミクス」を成立させる
ノンエクイティで事業を進めると、初期は本当にお金がありません……。
そこで大切なのは、まず「小さなユニットエコノミクス」を成立させることです。
まずは、初期費用がそこまでかからないビジネスモデルを選んで立ち上げる。
僕らの場合、それが「人材紹介事業」でした。人材紹介は、あまり元手のかからないビジネスです。当時、まだ26歳だった僕でも、貯金の500万をすべて注ぎ込んで、なんとか始めることができました(貯金のほとんどを資金にしてしまったので、しばらくは無一文でしたが……)。
事業を立ち上げたら、規模は小さくても、とにかく「黒字化」を目指します。
ランニングコストを最小限に抑えて「ギリギリ生きられる」くらいの利益を出す。この状態をできるだけ早く作るのがポイントです。
役員の月収は5万円
僕らの場合、創業当初は固定費をかけないために、オフィスは借りませんでした。
家でパイプ椅子に座りながら、ひたすら架電する毎日です。もちろん電話も「月額2000円で電話し放題」の安いパック。
広告費用もケチります。パソコンを睨みながら「あっ、やばい、今日は3000円使った。やばい、4000円使った……やめよう」とチマチマとやっていく。
そしていま考えると、本当に申し訳ないのですが……、役員の月収は5万円でした。当時は「今月の個人PL大丈夫そう?」「いや、赤っすね」「そうだよね……」みたいな、ヤバい会話が飛び交っていました(苦笑)。
個人の出費もミニマムに抑えていました。
僕自身の生活費を、極限まで低く抑えます。町屋の引き戸のルームシェアに住んで、ご飯は毎日、納豆とマグロの健康丼。500円で食べられるんです。服はもちろんユニクロです。
そうやって、とにかくコストを最小限に抑える。事業が軌道に乗るまで、ひたすら耐え抜く。
僕らの場合、なんとか「10ヶ月」でこのフェーズを乗り越えました。
その期間で、人材紹介事業に必要な「企業さんとの契約」「転職希望者さんの集客」「両者のマッチング」を、なんとか成立させられたのです。
あくまで僕の体感ですが、このフェーズは半年、遅くても1年以内には乗り越えられるといいかな、と思います!
緻密に戦略を描いて、それをメンバーに開示する
今になって振り返ってみると、創業の時点で「どうやって仲間についてきてもらうか」というのも、すごく大事なポイントでした。
エクイティ調達をしていると「〇〇円調達しました!」というリリースが出るので、わかりやすく「未来」がある感じがしますよね。投資家さんが「ここに投資すれば、リターンが期待できる」と判断しているわけなので。だから人も集まりやすい。
でも未調達の場合、当然ながら、そんな発信はできません。
とくに初期のフェーズなんて、ただパイプ椅子に座って、ひたすら電話をかけているだけです。お給料もぜんぜん高くない。そんな状況でも、メンバーには「この会社はおもしろい!」と思ってもらう必要があります。
そこで意識したのは「緻密に戦略を描いて、それを説得力をもって語る」ことでした。
たとえば僕は、事業を始める前に「経済センサス」という資料を使いました。経産省が出している、日本の各産業ごとの売上規模や事業所数、従業員数などが見られるものです。
この資料を見て、以下のような仮説を立てました。
・物流領域の人材紹介は、まだ競合も少なく、ニーズも強くなりそうだ
・自動運転の到来まで時間がかかるため、しばらくはウィンドウが開いていそう
・3年後は遅いが、いま(2018年当時)なら差し込めるかもしれない
メンバーには、その仮説をちゃんと説明します。「日本の産業構造が今こうなっているから、この業界にアプローチすればうまくいくよ!」と。
そして、そのための戦略を、PLを使いながら緻密に立てる。さらにそれを、個々のKPIにも落とし込んでいきました。たとえば、
・「求職者さんの集客」がどのくらいできればいいのか
・「企業さんの契約」は何件取れればいいのか
・「マッチングの率」は何%まで上げればいいのか
……といったこと。
こうやって、緻密な戦略を1つ1つのKPIにまで落とし込むことで「これならいけるかも!」「未来、あるんじゃない?」と思えるようになります。
とくにノンエクイティだと、初期のフェーズでは「こんなに切り詰めなきゃ成立しないビジネスって、大丈夫かな?」とメンバーは不安になってしまいます。だからこそ、その先の「希望」をどう示すか。この点はすごく大事なポイントでした。
②オペレーションを洗練させる
こうして「ユニットエコノミクス」が成立したら、少しずつ採用で仲間を増やして、規模を拡大していきます。
ただし、その前にやるべきは「オペレーションを洗練させる」こと。いわば、組織を拡大するうえでの「準備期間」が必要です。僕らの場合、創業2年目はほとんどここに割きました。
どうしても初期のフェーズでは、あらゆる業務が属人的になってしまう。道路が舗装されていない「砂利道」みたいな感じです。
この時点でいきなり増員してしまうと、余計な軋轢を生む可能性があります。
新しいメンバーの成果が上がらない。すると「あの人がデキないのは、やる気がないからだ」みたいな、嫌なムードになったり……。結果的に、社内の空気も悪くなりますし、無駄なコストもかかってしまう。急いだことで、むしろ拡大に時間がかかってしまうんですよね。
そうならないためにも、まずはオペレーションを磨いて、業務の再現性を担保する。道路を舗装してあげる期間が必要です。
例えば、セールスのトークスクリプトを作ったり、マッチングのやり方を明文化したり。新しいことを始めるのではなく、日々のオペレーションをひたすら改善する。
そのあと、採用でどんどん仲間を増やしていきました。すると、新しいメンバーの教育がスムーズにいきやすくなります。それまでオンボーディングに9カ月くらいかかっていたものが、3〜6ヶ月に、大幅に短縮できました。
焦っていきなり仲間を増やすのではなく、まずオペレーションを洗練させる。創業期にこの一手間をかけることで、むしろスムーズに組織が拡大できました。
(※なお、オペレーションを固めすぎると「オペレーション以上の伸び代がなくなる」というデメリットもあります。それをどう克服するか?については、こちらのnoteで詳しく書いております。ぜひ併せて読んでいただけると!)
③エコノミクスを徐々に拡大していく
オペレーションを整えて、人を増やせたら、次は新規事業に挑戦します。「小さなユニットエコノミクス」を少しずつ拡大していくフェーズです。
ただし、ここでやってはいけないのが、いきなり「遠い領域に事業を拡大する」こと。
僕らも創業2年目にコロナがきて、慌てて新規事業を始めて、見事に失敗しました。それまでは物流で人材紹介をやっていたのに、いきなりD2Cで「タイヤの研磨剤」を売り始めたんです(笑)。これが全く泣かず飛ばずで。
そこから学んだのが、新規事業を始めるときは「近場の領域と事業モデル」に展開するのが大事だ、ということ。
上記の図でいえば、いきなり「右上」の遠い領域・モデルに展開するのはNG。そうではなく、まずは既存事業に隣接したところに移行する。
僕らの場合、「物流領域の人材紹介」→「建設領域の人材紹介」に展開しました。そのほうが既存事業のノウハウが転用しやすく、少ないコストでうまくいきやすかったんです。
さらにビジネスモデルが被っていることもあり、既存事業との「シナジー」も起こせました。新規の人材紹介がうまくいくことで、既存の人材紹介もうまくいく。その逆も然りです。
結果的に、会社としての売上を一気に伸ばすことができました。
④「遠い領域・モデル」へ展開していく
ここまで進められたら、やっと「遠い領域、モデル」へと展開していきます。
僕らの場合「SaaS」と「M&A仲介」。これらを始めたのが去年のことで、今まさに力を入れているところです。
SaaSは初期費用が「20億」、回収までに「7年」くらいかかるモデル。そのため、一般的には資金調達をして始めることが多いです。
でも僕らの場合、③の時点で、既存事業の売上をある程度は大きくできていました。ノンエクイティでも、SaaSに投資する余剰ができていたんです。
3つの事業を成長させることで、まずは「売上300億」を目指しています。同時に、インフラ業界の課題にも、これまで以上に深くコミットできると考えているんです。
⑤「借入」を積極的に使おう
ノンエクイティで事業を進めるにあたって、銀行からの「借入」を積極的に使うのもポイントでした。
オススメなのは、売上が出ているうちに、少し多めに借りておくこと。どうしてもエクイティをしていないと、手持ちの資金に余裕がない。すると、万が一のアクシデントがあって会社の機能が停止したとき、一発で倒産する恐れがあります。
そうなってからでは、もう銀行は貸してくれないんですよね。
だから、あらかじめ多めに借りておくのがオススメです。売上が出ているうちであれば、銀行はけっこう大きい額でも貸してくれます。
日本の金利はまだ安いですし、経営の意思決定にも影響がありません。ちゃんと毎年「借りた分を返す」だけでいいので、資本コストが低い。何かアクシデントがあったときの「お守り」みたいに使えるんです。
「借り入れのお金があるから大丈夫だ」と思えるので、コストをかけることに過度に怯える必要もなくなります。結果的に、採用や新規事業への投資など「踏むべきときに踏む」意思決定ができるんです。
また、創業時は「政策金融公庫」から借り入れるのがいいと思います。無担保・無保証で借りられますし、融資を受けるハードルも銀行に比べて低いです。
(銀行借入の話は、こちらのブログがすごくわかりやすかったので、詳しく知りたい方は読んでみてください〜!)
⑥採用のカギは「言語化」にある
事業を進めるには、やはり「採用」は大きなポイントです。いかに採用コストを抑えて、いい仲間に来てもらうか。
ノンエクイティでやっていると、どうしても採用候補者へのアプローチは難しくなります。
「調達しました!」というリリースも出せないし、推定の時価総額もない。だから「いい会社」なのか判断しにくい。結果的に、カルチャーがマッチする人になかなか出会えない……。
最初は採用がうまくいかなかった
僕らも初期のフェーズでは、なかなか採用がうまくいきませんでした。
2年目に組織のオペレーションが整ったので「よし、仲間を増やそう!」と、満を持して採用に力を入れ始めました。それまではリファラル中心だったところから、人材紹介会社さんにお願いするようになったんです。
でも、それが全然うまくいかなくて。
最初はとにかくカルチャーがマッチしなかったんです。離職率も高くなってしまいました。
仕方がないので、めぼしい人に片っ端から連絡してみることに。2〜3カ月で、100人ちょっとの人と面談しました。当時、会社には会議室もなかったので、お茶の水の怪しいカフェに来てもらっていました。飲み放題のコーヒーをお供に、ひたすら面談し続ける毎日……。
でも、その中で入社を決めてくれたのは、たったの2人でした。
結果的に、コストと時間と労力だけがかかってしまい、うまく仲間を増やすことができなかったんです。
採用基準は絶対に落とさない
採用力が弱いなかで組織を拡大しようとすると、どうしても「採用基準を落としてでも、仲間を増やしたい!」と考えがちです。
でもそこはグッと我慢する必要があります。
やみくもに仲間を増やしても、あとで組織に軋轢を生む可能性が高いからです。結果的に、コストと時間をすごく浪費してしまう。
大事なのは「ただ仲間をたくさん増やす」ことではなく「いい人にたくさん来てもらう」こと。そのために「採用基準を落とさない」意識はすごく重要でした。
では、どうすれば「基準を落とさずに、人を増やす」ことができるのか?
自社のカルチャーを言語化することで、採用がうまくいき始めた
そこで始めたのが「自社のカルチャーを言語化して、外部に発信する」ことでした。社長の僕や働いているメンバーの人となり、会社としての方針などを、ちゃんと言葉にする。そして外向きに伝えるようにした。これがすごく効果があったんです。
具体的には、
①採用ピッチ資料の作成
②Twitterの運用
③経済系メディアへの露出
この3つに力を入れること。当時、社内ではこれらを「三種の神器」って呼んでました。
とくに採用ピッチ資料の作成はかなり効果がありました。
記事を見てくれた人材紹介会社さんが「御社にこういう人、合うんじゃないの?」って提案をしてくれるようになりました。発信を通して僕らのことを理解してもらったことで、「紹介の質」がめちゃくちゃ上がったんです。
面接のときに「Twitter見ました」「採用ピッチ資料を読みました」と言ってくれる人も増えてきて。まだまだアーリーフェーズのスタートアップなのに、キーエンスやパーソルなど、メガベンチャーからも人が来てくれるようになりました。
結果的に「採用基準を高く保ちながら、人を増やす」ことができました。
「ノンエクイティ」の魅力をもっと広めていきたい!
このようなステップで事業を進めたことで、いまは複数事業に展開しながら、30億円以上の売上を出すことに成功しています。
一般的に「起業」というと、
「資金調達をして、Jカーブで上場かM&Aを目指す」
「調達なしで、堅実にスモールビジネスを回していく」
このどちらかしかない、と思われがちです。
でも、そんなことはないと思っています。ここまで書いてきたやり方なら、ノンエクイティでも会社を大きくすることは可能です。実際、僕らと同じように、自己資本のみで急成長している会社はたくさんあります。
最近は「ソリッドベンチャー」という言葉も登場し、着実に売上と利益を積み上げていく経営手法に注目が集まってきています。
ノンエクイティで起業し「堅実な急成長」を目指す。
このやり方が、新しい起業の選択肢としてもっと広まっていくとうれしいです。そうすればもっとたくさんの人が、挑戦への第一歩を踏み出しやすくなるんじゃないかなと思っています。