最低賃金をあげるなら抜本的な上限対策もセットでしよう
最低賃金引上げは誰のため?
長らく日本の賃金は上がらないと言われ続けてきたが、ここ数年、最低賃金の引き上げは積極的だ。2024年度の最低賃金を全国平均で50円引き上げ時給1054円にするとの目安額を政府は示している。この調子で、2030年代半ばまでに最低賃金を全国平均で1500円にすることを目指すという。
最低賃金の引き上げには、様々な狙いが複雑に絡んでいる。人件費があがることでDXによる生産性の向上に対する投資が増えるだろうという見込みや、国際的な物価高への対応、正社員と非正規との所得格差の是正、最低賃金引き上げの世界的な潮流など、様々な要因が考えられる。
一方で、最低賃金の引き上げに対応しなくてはならない企業、特に中小企業の現場は混乱している。それはコスト増につながる雇い主だけではなく、最低賃金が引き上げられる非正規社員側にとっても同様だ。
最低賃金があがると働く時間が少なくなるだけ
厚労省が発表している非正規社員の割合をみると、全雇用者に占める割合は38.3%となっている。3人に1人以上は非正規社員の計算だが、男女比でみると女性の労働者のうち56%が非正規社員となっている。雇用者数の男女比はほぼ同数のため、非正規社員の相当の割合を女性が占めていることになる。
また、女性の年齢階層別にみると35歳以上の女性の雇用者のうち半数以上が非正規だ。つまり、最低賃金の引き上げの影響を大きく受ける非正規社員の姿として、パートで働く女性社員の姿が浮き彫りになる。
パートで働く女性の多くは、配偶者の扶養家族となっていることが多く、その範囲内で所得が収まるように労働時間をコントロールしていることが多い。いわゆる「年収の壁」問題だ。このとき、最低賃金の引き上げが起こっても「年収の壁」問題をどうにかしないと賃金が上がった分だけ労働時間が減るだけになる。
一応、「年収の壁」対策として2023年10月から「年収の壁・支援強化パッケージ」が始まっているが、その使い勝手の悪さから問題解決策としての効果は限定的とみられる。
これまで変化のなかった賃金問題にメスを入れるという意味では、最低賃金の引き上げは良い変化の兆しといえるのかもしれない。しかし、その効果を発揮して、よりよい社会としていくためには、もう一工夫、二工夫が必要だ。