エース上司の教え。「与える」には、まず自分が満たされていないといけない。
「誰かのために考えたり行動する時間=やさしい時間」をテーマにした企画が始まった。
私は、『”やさしい時間”を周りに与えるためには、まずは自分を満たしておくことが大切』という考えを持っている。
今日は、その考え方を教えてくれた上司とのエピソードについて書いていきたい。
「カツカツカツ.....」
彼女は、いつもオフィスビルの奥からピンヒールの音を鳴らして登場する。新卒のころ、私が最も恐れ、また最も尊敬していた上司が会社に登場するシーンだ。
私が勤めていた会社の上司は、業界の有名人だった。彼女はクライアント企業からの信頼が厚く、新規の相談は、会社宛に来るのではなく、”彼女”個人宛てにやってくる。
私は、そんな上司みたいになりたかった。
当時は100年に一度の大不況と言われたリーマンショック真っ只中、そんな時代に就職活動をして、100通以上のお祈りメールをもらっていた自分は、なんとか手にした当時の会社で「自立して食べていけるようになりたい」と思っていた。
だからこそ、私は、彼女に認めてもらおうと寝る間も惜しんで必死に仕事をした。仕事の勘所や、やり方が分からない事もあって、毎日残業をするし、土日出勤も当たり前だった。そうして、つくりだす目の下のクマは、がんばった勲章。かつての自分を思い返すと、非効率極まりないイタイ若造だったが、当時は「身を粉にして努力し続けていれば」彼女みたいになれると信じていた。
自分の声を聞く人は、自分しかいない。
そんなある時、一つのプロジェクトが成功したので、チームで打ち上げをすることになった。チームメンバーには、私も上司も入れて5名程度で、みんなでワイワイ話しているうちに、会のテーマが上司の家族の話になった。
上司の旦那さんは、奥さんである彼女が大好き。『僕は、家族のためなら水の中、火の中、どこにでも行く!』と公言しているらしい。
それを聞いた誰かが、すかさず、その上司に、『◯◯さんは、旦那さんと、ご自身がどちらが大切ですか?」と聞いた。
彼女は、『うーん』と考えた後に、
『自分かな』と答えた。
『自分を大切にできていることが基盤』
『自分の声を聞く人は、自分しかいないじゃない。それを無視し続けていると何事も長く続かないのよね』と続けた。
私は、その後に彼女と働きながら、何度もこの言葉が蘇ってくる。
無理をし続ける環境は、続かない。
外資系のPR業界は激務だ。朝や夜の報道番組の記者をふくめたメディアを相手に仕事をするので長時間労働が当たり前。さらにクライアントは海外にいることも多く、深夜1時に打ち合わせなどがあり仕事で体を壊す人も少なくない。また、オーバーワークでやめていく人も多い。
そんな業界でも数十年間、勤め上げるだけでなく、多くの顧客の信頼を得ている彼女。それぞれの顧客への仕事はちゃんとやる、さらに後輩の育成にも愛を持って厳しく接してくれる
そんな日々を、プロフェッショナルとして長く続けられるのは、自分の声をちゃんと聞くことが出来ているから。新卒時代のエース上司が私に教えてくれた考え方だ。
自分が一番の、自分の味方になっていたい
『与えるためには、まず自分が満たされていないといけない。』この言葉は、いろいろな解釈ができると思うが、わたしが考える『やさしい時間』は自分を大切にする時間。
朝に一杯のあったかいコーヒーを飲む時間だったり、ひとりで好きな本をゆっくり読む時間だったり、自分のいいところやその日あった素敵なことを書き出す時間だったり。家族や周りにお願いして、日常の中で作り出したいなと思っている。
自分にも周りにも愛されるエース上司のヒールの足音を思い出しながら、ずっと続く人生のできるだけ多くの時間で、『やさしい時間』を持ち続けたい、そんなことを思った。