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問題解決力のなさが露呈した迷走するコロナ対策たち

迷走するコロナ対策の数々

COVID-19によって突然訪れた災厄に対して、これまで対策のために様々な施策が講じられてきた。5年前のTEDにて、Microsoft創業者のビル・ゲイツ氏は『もし次の疫病大流行が来たら?私たちの準備はできていない』という講演を行い、警告を繰り返してきたが、結局われわれは準備をすることができなかった。COVID-19は瞬く間に全世界に広がり、全世界は混乱に陥った。

それでも、日本は諸外国と比べて踏みとどまったほうだろう。イタリアや米国のように医療崩壊は起きず、治安も劇的に悪化したという統計上の数値は出ていない。COVID-19に起因する死者数も低水準に踏みとどまることができた。

なぜ日本はCOVID-19の影響が比較的低い水準で済んでいるのか。その理由はまだよくわかっていない。おそらく、この騒動が収束した後、感染症の専門家が分析し、答えをくれるだろう。

COVID-19で混乱が続く中、現場は何とかしようと試行錯誤を繰り返し、現場では最適解とは言えなくともできるだけのことをしてきた。まさに、誰もが真剣に頑張ってきたと言えるし、そのこと自体は賞賛されるべきだろう。

しかし、予期せぬ災厄に対する対処は、素晴らしい取り組みも産めば、反対に第3者からは奇妙に映る取り組みも生んでしまう。良かれと思って精一杯頑張ってきたことが、専門家からみると逆効果であったり、とんでもないことをしていたというのはよくあることだ。

最近の事例では、次亜塩素酸水の噴霧器が事例としてあげられるだろう。そもそも、次亜塩素酸水についてはCOVID-19に対する効果が不透明な状態だ。次亜塩素酸水の噴霧器を公共施設や商業施設などで使用している現場があったが、予防効果どころか用途を誤ると逆に有害になる恐れがあると厚生労働省と経産省双方からの警告が出ている。

このように、冷静に考えると効果がないとわかるものであったり、専門家から見るとあり得ないことをなぜやってしまうのだろうか。そこには、内的要因外的要因の2つがあるように思われる。


内的要因:問題解決の思考プロセスが誤っている

内的要因は、シンプルに能力不足に起因する誤りだ。問題解決のための思考プロセスは、急にやれと言われてもできるものではなく、普段からのトレーニングが重要になる。トレーニングということは、理論や知識として効率の良い手法を学び、実践を通して反復練習をしてきているということだ。

最も一般的な理論や知識は、クリティカル・シンキング(批判的思考)や分析思考と呼ばれる思考プロセスの手法だろう。より発展的な理論としては、欧米のMBAで学ぶことの多い、創造的問題解決思考と呼ばれる特化した手法もある。しっかりとした思考プロセスを用いることで、より建設的で問題の本質をとらえた解決策を考え出すことができる。

創造的問題解決思考の諸理論を概観すると、問題解決のためにどの理論でも共通してみられる、重要視されているルールが2つある。

1つ目のルールは、問題解決のためのアイデアを出すときは1ステップではなく2ステップを必ず踏むというものだ。アイデアを考える時、多くの人は「これが良い解決策ではないか」と1ステップで考えてしまうことが多い。しかし、この思考方法では、独創的だが突拍子もなかったり、現実的だが面白みがないアイデアが出やすい。

その理由は、独創的なことを考え出す思考と現実的なことを考え出す思考は独立しているため、同時に考えることが得意ではないことに起因する。前者をつかさどる思考を「拡散的思考」と呼び、後者をつかさどる思考は「収束的思考」と呼ぶ。心理学の分野では、「拡散的思考」と「収束的思考」を組み合わせて創造性あふれるアイデアを出す方法が長年研究されている。その結果、まずは「拡散的思考」で思いつくままに多様で突拍子もないアイデアを出し、その後、出されたアイデアに対して「収束的思考」で批判的に検討していくというプロセスが好ましいとされている。

例えば、コロナ禍で「事業を助けてください」というクラウドファンディングが雨後の筍のように出ている。これは日本だけではなく、アジア全域で拡がっている国際的なトレンドだ。

しかし、現状はそう簡単にうまく行くほど甘くはない。支援者が10人以下しか集まらずに終了しているというのも多い。大手クラウドファンディングサイトの失敗しているプロジェクトをみていると、似たようなプロジェクトが多い中で「なぜ、ほかではなく自分たちの事業を助けて欲しいのか?」という独自性が欠けているものが多数を占めていることがわかる。

また反対に、コロナ対策と言いながら、イベント開催費用や新店舗開設資金が欲しいなどのCOVID-19との繋がりが直感的に見えずに「なぜ支援しなくてはいけないのか?」という必然性が見えてこない企画もある。これらのプロジェクトは、収束的思考によるストーリー付けや論理の組み立てができていない。

2つ目のルールは、問題解決策を考える時、解決策を考える前の事前準備解決策を出した後の検討プロセスが重要だということだ。事前準備では、「自分たちが解決すべき本質的な問いは何か」を再定義し、問題解決のための仮説を立て、その仮説が正しいのか情報を集め、分析することが求められる。この段階が十分ではないと、何がやりたい施策なのかが伝わらなかったり、本来期待している効果には結びつかないことが起きやすい。

例えば、緊急事態宣言明けの後に、急速に売れている商品に「フェイスシールド」がある。マスクに代わる防疫ツールとして飛沫感染を防ぐために使われえている場面は数多い。しかし、医師や感染症予防の専門家が指摘するように、フェイスシールドに防疫効果は期待できない。大阪小児科医会に至っては、学校でのフェイスシールドにポスターまで作って強く反対している。感染症に関する専門家からは「過剰な予防策は子どもの心身へ影響を及ぼす」と指摘する声も聞こえる。

それにもかかわらず、なぜかフェイスシールドは「ニューノーマル」のツールとして根拠のない市民権を得てしまっている。学校などの教育現場での着用や居酒屋や飲食店での使用が考えられているが、これによって何の問題が解決できるのか、本質的な問いがなされている現場があるのだろうか。

また、課題解決は基本的に仮説検証型の取り組みであり、軌道修正や改善を加えながら問題解決へと近づけていくことが基本アプローチになる。そのため、解決策を出した後の計画段階で実行可能性を検討したり、実際に行動しながら時には、変更し続けることが重要になる。

時には、見当違いだったり、見込みがないと分かった時点で抜本的に変更を加えるピボットが必要なときもある。平時の例になるが、新規事業や地方創生での事例をみていると、成功するまでにピボットを複数回繰り返すことが多く、当初のアイデアが完璧なことはほとんどない。

しかし、有事には現場の余裕がなく、変更や修正を受け入れることができずに泥沼にはまることが頻繁に起こる。製造業を中心としたビジネスでは、緊急時ほど PDCAサイクル(Plan-Do-Check-Action Cycle)を回すことが重要であり、基本と教えられる。しかし、この基本がおざなりにされる。

例えば、世界保健機関(WHO)は、 COVID-19流行の当初、マスク着用は根拠がないとしていたが途中から方針転換している。それは、COVID-19は無症状者からの感染が多いことが明らかになったためだ。マスクは自分を守ることに科学的根拠はないが、他人に感染させないことには科学的根拠がある。誰が感染しているかわからない状態では、マスク着用の意義は大きい。重要なことは、常に仮説検証を行い、最善策を模索するために改善と変更を加え続けることだ。

問題解決では専門家の意見を取り入れたり、効果の検証をしたりしながら、常に変化し続けるものだという認識を持つことが重要だ。そして、対策チームの体制も変化に備えていないと、もし間違えた方向に進んでいたとしても修正が利かずに取り返しのつかないことになりかねない。集団移動することで集団自殺をするという迷信があるレミングスのようなものだ。プロジェクト進行中での変更を恐れてはいけない。


外的要因:意思決定者が現場から遠い素人のリスク

問題解決のためには、そもそも当事者に内的要因としての問題解決能力が備わっていないと始まらない。適切な理論と知識を学び、実戦経験を積んだ問題解決のプロがいないと、「ただやりました」という結果だけが残ることもままある。その場合、問題の解決は施策の結果というよりも時間が解決してくれたというケースも多い(もちろん、その陰でワクチン開発などで獅子奮迅の活躍をした英雄がいるわけだが)。しかし、問題解決能力を持った人材がいても、それが機能しないこともある。それが外的要因の影響だ。

Buzzfeedによる厚生労働省の職員に対するインタビューでは、この外的要因に苦しめられるという生々しい声が掲載されている。実名ではないため、どこまで信用できるかはわからないが、「リスクコミュニケーション部門がない」「重要な決断に専門家会議が活用されていない」などの現象は、多くの組織でも見られる現象だろう。

つまり、意思決定者と現場の距離が遠く、現場が問題解決策を提案しても組織の都合が優先されてしまう。そうすると、現場は意見を通すために組織内の事象や上司の顔を伺うことに意識が向いてしまい、現場で起こっている事象を軽視してしまう。一昔前のドラマ「踊る大捜査線」ではないが、事件は現場ではなくて会議室で起きていることになってしまう。

そもそも、日本の組織には民間にも行政にも専門家と呼べる人材が不足している。数年おきの人事異動のために、組織内の事情には詳しいゼネラリストが大勢いるが、何かの領域に特化したスペシャリストは少ない。そのため、有事のような専門家の意見が求められる場面で、専門家の意見を理解し、使いこなすリテラシーを持った人材がいないことが良くある。


結語:思い付き問題解決からの卒業

コロナに関する問題では、冷静に考えることができずに迷走している企業や自治体を頻繁に目にする。もちろん、優れた方針をいち早く打ち出し、しっかりとした対応を取っている組織も数多い。

NTTコミュニケーションズは、従業員の8割がテレワークに取り組み、新しい働き方を実現させている。

今や日本全国に広まったコロナ禍による飲食店支援策である「#〇〇エール飯」も大分県別府市から始まった好事例だ。

しかし、成功を収めた施策の裏で数多くの失敗事例が存在するのも事実だ。「他所で成功しているから」「周りが皆やっているから」などの安直な発想で課題解決を使用とするのではなく、しっかりと問題解決のための内的要因と外的要因について考えてみて欲しい。そして、問題解決のプロとチームを組んで、この苦境を乗り越える一助となることを祈る。

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大分大学経済学部の講師をしています。採用や育成などのタレントマネジメント、地方創生・地方発ベンチャーなどの話題を中心に取り上げていきます。 ※日経電子版キーオピニオンリーダー ※閲覧者数が増えてきましたので、多様な意見を尊重したく、記事へのコメント返信は控えさせていただきます。

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