インフレで深刻化する生活格差
電気料金やガス料金の補助、内閣支持率上昇につながらず 「有効でない」7割 日経世論調査 - 日本経済新聞 (nikkei.com)
ロシアのウクライナ侵攻以降の日本経済は、中産階級の貧困化とインフレが重なった「スクリューフレーション」が深刻化しています。背景には、食料やエネルギーといった生活必需品の価格が急上昇していることがあります。
生活必需品は低所得であるほど消費支出に占める比重が高く、高所得であるほど比重が低くなります。このため、生活必需品の価格が上昇すると、低所得層を中心に購入価格上昇を通じて負担が高まることで実質購買力が低下し、富裕層との実質所得格差は一段と拡大することになります。
スクリューフレーションは地域格差も広げることになります。というのも、地方では自動車で移動することが多く、家計に占めるガソリン代の比率も都市部に比べて高くなります。また、冬場の気温が低い地域では、暖房のために多くの燃料を使う必要があり、電力料金やガス料金も燃料市況に連動しますので、原油やガスが上がれば光熱費も増えることになります。特にエネルギーは生活必需品であることから、低所得層のほうが高所得層に比べて支出に占める割合が高くなります。このため、相対的に低所得者層に対する負担が高まることになります。
ロシアのウクライナ侵攻継続が危惧される状況下で、世界の食料・エネルギー需給は今後とも需要が供給を上回る状態が継続する可能性が高いでしょう。そもそも、我が国において生活必需品の価格が大きく上昇してきたのに対し、それ以外の物価は落ち着いてきたことの一因に賃金の低迷があります。ロシアのウクライナ侵攻に伴う化石燃料や農産物等の資源高が生活必需品の価格を押し上げる一方で、企業収益の圧迫を通じて賃金の上昇を抑制してきたためです。特に年明け以降のサービス価格のインフレ率低下は、国内の賃金伸び悩みが影響している可能性があります。そして、こうした食料やエネルギーといった海外依存度の高い輸入品の価格上昇で説明できる物価上昇は「悪い物価上昇」といえます。
こうした中、日銀は中長期的な物価安定について「消費者物価が安定して前年より+2%程度プラスになる」と定義しています。しかし、コストプッシュにより消費者物価の前年比が+2%を上回っていても、それは安定した上昇とは言えず、『良い物価上昇』の好循環は描けないでしょう。物価と賃金の好循環には実質個人消費の拡大が必要となります。そのためには、実質賃金の持続的な上昇により家計の実質的な購買力が強まる『良い物価上昇』がもたらされることが不可欠といえるでしょう。