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ぶれない自分の軸が大事ならば、アートと向き合うのがよいのかも

こんにちは、電脳コラムニストの村上です。

緊急事態宣言で一番大変だったことはなんでしょうか?夜ごはんに困った、お酒が飲めなくて困った……いろいろあることでしょう。私の場合、それは美術展でした。

どうやら日本人は「世界一美術展が好き」らしいです。

英美術専門誌「ザ・アート・ニュースペーパー」が発表したコロナ前の2019年の美術展入場者ランキングでは、1日当たりの入場者トップ10に日本の展覧会が3つ(「ムンク展 共鳴する魂の叫び」「クリムト展 ウィーンと日本1900」「国宝東寺 空海と仏像曼荼羅」)入っている。

日本が上位を独占していた2000年代前半と比べると見劣りはするが、トップ3を独占したブラジルの展覧会は入場無料のため、有料となると4位の日本が最も高い。さらに上位30位まででは、日本は11もの展覧会がランクインし、米国7、ブラジル5、フランス4を上回り最多だ。

2020年はオリンピックイヤーということもあり、全国各地の美術館が渾身の企画をしていました。めったに出ない収蔵品や、年間の展示日数が限られている国宝もかつてない勢いで大判振る舞い状態でしたので、見逃してはならぬ!とばかりに予定調整をしていました。

ところが、緊急事態宣言により多くの展示が中止または延期になってしまいました。コロナ禍ではどの美術館も時間予約システムを導入したり、消毒や入退場フローなどの適切な対応をしてきました。おかげで鑑賞する側としては以前のようなギューギューで満足に見られない状況も回避でき、むしろずっとこれを続けてほしいと思うくらいでした(興行的には難しいのかもしれませんが)。特に企画展においては、様々な場所から貸してもらったり、展示日数の調整などで延期が難しいものが多いです。なぜ大声でしゃべることが憚られる美術館が営業自粛の対象になったのかは、今でも理解することが難しいです。

企画展と言えば、先の記事では以下のような指摘もありました。

「日本人は企画展や展覧会には行くが、常設展示作品を見に行かない。そのため、美術館自体の来場者数は見劣りする」。法人向けアートの企画運営事業などを手がける「MAGUS(マグアス)」(東京・品川)の上坂真人代表はこう解説する。「ルーヴル美術館に企画展を見にいきますか? 来訪者が見たいのは、所蔵コレクションの中からえりすぐられた常設展示作品でしょ」

もちろん公設でも私設でも、素晴らしいコレクションを常設展示している美術館もあります。しかし、他国と比較した場合は確かにそのとおりなのかもしれません。

日本の国内総生産(GDP)の世界に占める割合が5%台、また富裕層と言われる100万ドル以上の資産を持つ人の割合も6%台(クレディ・スイス調べ)と言われています。なのにアート市場においては1%未満と存在感に乏しい状況だと記事では指摘しています。

この原因について「アートが日常生活の語らいの一部にすれば」などという話もありますが、個人的には制度面での構造的な課題だと考えています。

一番大きいものが税制です。個人が美術館などに寄付した場合は寄附金控除となり、所得税控除に対象となります。ふるさと納税はこの仕組みを活用したものですので最近では認知度があがってきたと思いますが、この制度には上限があるのと、取得価格ベースになることが課題となります。これが時価相当になったとしても、現在は公的評価制度がありません。不動産のように美術鑑定士のような国家資格の創設や、登記などの既存の仕組みを活用することで贋作との区別がつけられるようにするなどが必要でしょう。

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また、相続税においても物納制度はあるのですが、物納財産には優先順位があり美術品のような動産は後ろのほうに位置します。実務的には土地や株式などが優先的に物納されていくため、実際の美術品に対してこの制度が使われることが少ないようです。

このような制度面の改革をすれば美術館への良質な作品の寄付が増え、常設で多くの人の目に触れる機会も増えてくるでしょう。

2017年に発売されベストセラーとなった『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(山口周/光文社)以降、ビジネスとアートの関係が語られることが増えてきました。アート思考やデザイン思考という言葉もよく聞かれます。

先行きが不透明な世の中において「分析」「論理」「理性」に軸足をおいた経営では、ビジネスの舵取りをすることができない。本書ではこのように指摘しています。一理あるなと思いつつ、だからアートをビジネスに活かそうというとちょっと違うのではないかなとも思います。

論理だけでは人を動かすことができないということは、アリストテレスの『弁論術』の中でも、エトス(信頼)・パトス(感情)・ロゴス(論理・言葉)がないとダメだと指摘されています。

「知性の核心とは知覚である」。安宅和人さんが寄稿した論文の言葉です(『ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー』 2017年 5 月号/ダイヤモンド社)。つまり、判断や実行や意思決定などの知性を発揮するためには、その前段階である知覚を鍛えなければならないということです。価値を理解しないと、意味が理解できない。ということはかなり本質的なことであり、同様に「美しさ」を理解するためには高度な訓練が必要であるということです。そういう意味では、様々な知覚を使うアートに触れることでこの感覚器を鍛え、脳内のシナプスを増やすことでビジネスで発揮する知性に良い影響が出ることはあるのではないでしょうか。

アートに限らず音楽や舞踊などでもそうですが、これらは太古の昔から「人の感情を直接揺り動かす」ことができる類ものです。アートに触れることで多くの人の感情を動かすものへの理解を深めると共に、自分自身は何にどう動かされるのかを知ることもできます。名作と言われるものを見てもピンとこないこともありますし、逆に有名ではないのにどうしても目を離せないようなものもあるでしょう。

このようにアートを通じて自分自身と対話することで、ぶれない軸が見えてくるのかもしれませんね。

最後に、いろいろ見てお気に入りの美術館ができたらぜひ年間パスポートや友の会などの会員制度を利用してみてください。また、美術館によっては寄付金控除の対象となる個人賛助会員制度などもあり、ふるさと納税でお肉を頼む代わりに使ってみてはいかがでしょうか?

私のお気に入りは、先日の鳥獣戯画展も素晴らしすぎたトーハクです!今は奈良県から出たのは史上初という「国宝 十一面観音菩薩立像(聖林寺蔵)」が、なんと360度から見放題です。

ぜひみなさんも「推し」の美術館を見つけてみてくださいね!

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タイトル画像提供:cba / PIXTA(ピクスタ)

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