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21世紀生まれの新卒採用④【AI時代に求められる人材要件の変化】

AIによる職の自働化は、企業にとっても学生にとっても大きなインパクトを持つ社会変化だ。発端となったのは、2013年、英国オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授らが論文『雇用の未来』である。コンピュータによって多くの職が代替されるという未来予測は、今や確定的なものとなっている。特に、Fintechに代表される金融関係のテクノロジーは、労働集約型ビジネスの代表例だった金融機関のビジネスモデルを変え、採用の量と質に影響を及ぼしている。

AIによって多くの職が代替されることを前提としたとき、現在の学生はどのような能力やスキルを身に着けるべきだろうか。また、企業はどのような人材要件を設定することで、AIによって仕事の在り方が変化しても活躍してくれる学生を採用することができるのだろうか。この問題について、コンサルティング会社のPwCが実施した第21回と第22回の「Global CEO Survey」を基に考えていきたい。本稿では、AI時代を見据えて、学生に求められる人材要件について考察していく。


世界のCEOはAIによる職の代替を楽観視していない

AIによる仕事の代替については、「テクノロジーによって新たに生まれる仕事がある」「生産性の向上によって、労働の質が変化するだけだ」という楽観的な姿勢と「AIで職を奪われる層が出てくる」「労働の質の変化に対応できる人ばかりではない」と悲観的な姿勢の2つがある。

歴史的に見ると、技術の発展によって生産性が向上すると職が失われてきたことがわかっている。経済学では、このような技術の発展による失業のことを「技術的失業」と呼ぶ。時代の変化に応じて、個人の市場価値を損じないようにしようという努力は何も最近始まったばかりのことではない。これは人類の業とも言うべきものであり、有史以来繰り返されている。

2018年に実施されたPwC社の「22nd Annual Global CEO Survey」では、世界全体平均(約90か国・地域、1300人以上)では49%の経営者が「新たに生み出されるよりもAIによって代替される職の方が多い」という回答をしている。「新たに生み出されるほうが多い」と回答した41%よりも多くの経営者が、AIは職を代替すると考えている。特に、この傾向はアジア太平洋地域の経営者に顕著に現れており、60%の経営者がAIによる職の代替を予測している。対照的に、北米と西ヨーロッパ地域の経営者は、AIによる職の代替よりも新たに生み出される職の方が多いという考えを示している(北米:44%、西欧:51%)。

しかし、60%を超える経営者が、AIはインターネットによる情報革命よりも大きなインパクトをもたらすと考えている。まだ、AIによる致命的な変革の波は生じていないが、近い将来に確実に来るであろうと予測されている。そのような中、組織における従業員のスキルや能力を刷新する必要があると考える経営者も多い。


デジタル化への適応力は必要最低限の人材要件

「PwC’s 21st CEO Survey」によると、80%の経営者がキーとなる従業員のスキルを刷新する必要があると回答している。この項目は、2012年から急激に伸びており、6年間で53%から80%まで増えている。それだけ、既存の従業員のスキルや能力は、現在のビジネス環境に適応できていないと危機感を感じている経営者が多い。特に、日本の経営者の93%が危機感を感じており、経営者の期待するスキルと従業員の持つスキルとのギャップは重要度の高い経営課題であると言える。

それでは、どのようなスキルが求められているのだろうか。同調査では、2種類のスキルの重要性が取り上げられている。

第1のスキルは「デジタル・スキル」だ。「デジタル・スキル」とは、プログラミング・スキルのことを指すわけではない。ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)によると、「デジタル・スキル」の定義は、デジタル機器やコミュニケーション・アプリケーション、情報にアクセス・管理するためのネットワークを使いこなすことができる能力であるという。近しい概念としては、リクルートワークス研究所が「Work Model 2030」の中で言及した「テクノロジスト(テクノロジーを使いこなす人)」に近い。

しかし、「デジタル・スキル」は、現在の主流と言えるツールを使いこなすだけでは十分とは言えない。次から次へと新しく出てくるデジタル・ツールを把握し、時代の変化に適応し続ける能力が求められる。現在、テクノロジーの進化は急激なスピードで生じている。それに伴い、ツールの進化も激しい。既に、Eメールやビジネス手帳は過去の遺物となりかけている。仕事の依頼や社内でのコミュニケーションは「Slack」などのアプリケーションやSNSのメッセンジャー機能で済ませることも多い。仕事のスケジュール管理やタスク管理も、紙やホワイトボードのようなアナログなツールではなく、クラウド上で行うことが当たり前となっている。

第2のスキルは「ソフト・スキル」だ。「ソフト・スキル」とは、小集団で協働するときに有効な対人能力を総称した用語である。求人サイト大手のIndeedによると、ソフトスキルには広義と狭義がある。広義のソフトスキルは、5つの個人特性や能力(コミュニケーション能力、問題解決、創造性、適応力、労働倫理)が含まれている。狭義のソフトスキルは、12の一連の能力群(コミュニケーション能力、チームワーク、信頼性、適応力、紛争解決力、柔軟性、リーダーシップ、問題解決、研究能力、創造性、労働倫理、誠実性)で構成される。

AIによってもたらされる変化の1つとして、個人で完結する仕事が減少し、多くの仕事が協働を前提としたものに変わるだろうと予測されている。特に、オックスフォード大学のオズボーン准教授らは、ルーチン業務がAIで代替され、新しいプロダクトやサービス、業務プロセスを生み出すような創造的な仕事が増えると述べている。ハーバード大学のリンダ・ヒル教授らの研究チームが明らかにしているように、創造的な成果やイノベーションの多くは、1人の天才のひらめきに依存するよりも、優れた専門家集団の協働を通して生み出される(Collective Genius)。「ソフト・スキル」は、創造的な成果やイノベーションを生み出すための基礎的なスキルとして考えられている。


学生時代から能力開発は始まっている

一昔前は、学生が社会人になる前に身に着けておくべき能力は、「Microsoft Office のスキル」「TOEICの点数」「自動車の運転免許」が一般的であった。しかし、ビジネス環境の変化のスピードが速まり、デジタル化が進む中で、求められるスキルは変化してきている。また、世界的にみても、デジタル化による変化は、新卒採用の重要性を高めている

PwCの「22nd Annual Global CEO Survey」において、既存の従業員と求めるスキルのギャップを埋める手段として、「教育機関から直接優秀な人材を採用するパイプラインを構築する」と回答している企業は17%であり、「組織の外部から調達する」と回答した18%とほぼ変わらない。最も回答率の高い選択肢は「既存従業員の再訓練及びスキル向上(46%)」であるため、外部調達の選択肢として学生への期待が高まっていることがうかがい知れる。特に、米国では31%の経営者が教育機関からの直接採用を選択しており、「既存従業員の再訓練及びスキル向上(31%)」と同率1位である。

「PwC’s 21st CEO Survey」の調査結果からも、学生の採用が重視されているというデータを読み取れる。67%の経営者が、インターンシップや実習生の採用が強化されるだろうと回答している。

このことは、現在の学生が、物心ついたときからインターネットやスマートフォンと慣れ親しんだデジタル・ネイティブ世代であることが背景にある。今の学生の価値観やコミュニケーション・スタイルは、インターネットやデジタルデバイスが前提となっている。そのため、「デジタル・スキル」の習熟が早い。

しかし、デジタル・ネイティブ世代の学生には課題もある。それは、「ソフト・スキル」である。今の学生の一世代前に当たるミレニアル世代と呼ばれる、2000年代に成人を迎えた年代であっても、協働に関する能力では大きな課題があった。インターネットに親しんだライフスタイルを送っていたため、それまでの世代とはコミュニケーション・スタイルが大きく異なり、企業で働くときに大きな問題となった。コミュニケーション・スタイルの世代間ギャップは、日本だけではなく、世界全体で起こった課題だった。

デジタル・ネイティブ世代の学生は、ミレニアル世代よりも既存のコミュニケーション・スタイルとは異なる価値観を持っている。デジタル・ネイティブ世代の学生と既存の社会人が協働するときには、「ソフト・スキル」の重要性がより高まるだろう。そのため、学生時代から社会に出て、社会人と協働する経験を積むことで社会に出る前に「ソフト・スキル」を身に着けることが求められる。

また、企業も今の学生は異なる価値観やコミュニケーション・スタイルを持っていることを自覚し、既存の従業員の「ソフト・スキル」を高めていくように努める必要がある。学生の価値観を「社会人としてなっていない」と切って捨ててしまうと、ビジネスのデジタル化に乗り遅れ、時代に取り残されてしまう危険性がある。


AIによって、既存のビジネスの在り方が変わることは避けようがない事実だ。しかし、残念ながら、この時代の流れについていくことができていない日本企業が大多数だ。東京大学の松尾豊准教授は、人工知能のビジネスでは基本的にもう勝ちようがないという現実と向き合うところからスタートだと警鐘を鳴らしている。そのために、企業は20代に下積みとしてつまらない仕事をさせている現在の人材運用の方針を根底から変える必要がある。そして、学生は「まずは就職して下積みをして」という、のんびりとした将来設計ができる時代ではないということを強く自覚しなくては、AI時代に生き残ることはできない。






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碇 邦生(大分大学)

大分大学経済学部の講師(人的資源管理論)をしています。採用や育成などのタレントマネジメント、地方創生・地方発ベンチャーなどの話題を中心に取り上げていきます。自動車メーカーやシンクタンクを経て、30代で大学教員とジョブホッパーです。 ※日経のキーオピニオンリーダーに選出されました。

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