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ニューヨーク・タイムズが取り組む全米高校生と教員に対する無料デジタル購読プランの提供(2021年9月まで)

2020年を振り返った際、海外のデジタルメディア業界のトレンドとして何度となく名前が上がったニューヨーク・タイムズ。今回は通信会社大手ベライゾンと組み、全米の高校生と教員に対し、2021年9月1日までデジタル購読プランを無償で提供するとのことです。

無料購読プランを利用するには特設サイトにまず教員が登録し、教員が希望する生徒のメールアドレスを取りまとめて登録し、専用の招待コードを生徒に送付することで購読登録ができるそうです。

今月初旬にもニューヨーク・タイムズは購読料収入でデジタルが紙を逆転と大きく報じられ、デジタル購読者数はクッキング・クロスワードアプリ利用者も含め600万人(紙媒体も含めると700万人)を超えたことで話題になりました。2025年までに購読者数1,000万人という目標は前倒しの達成が既に視野に入っていることが伺えます。

全米の高校での教員と生徒へのほぼ9ヶ月の無償デジタル購読プランの提供により、どのような効果がもたらされるのでしょうか?来年9月以降にどれだけの教員や生徒が有料購読に切り替えるのかはまだ未知数ですが、ニューヨーク・タイムズのニュース消費の習慣化は次世代を担う若い世代の有料購読者獲得に大きなインパクトをもたらす可能性があるのではないかと思います。

米ニュースサイトのアクシオスによると、ニューヨーク・タイムズの成長には元BuzzFeed News編集長のベン・スミス氏、Vox共同創業者・編集長のエズラ・クライン氏、Vox傘下にあったRecodeの共同創業者のカラ・スウィッシャー氏などのデジタルメディア業界のスター編集長を次々のオピニオン・セクションやメディア分野のコラムニストやポッドキャスト・ホストとして採用している点が特徴的であると指摘されています。一方でニューヨーク・タイムズほど目立たない印象があるものの、ワシントン・ポストもパブリッシング・ソフトウェアへの投資、Tiktok、SnapchatなどのSNS運用を通じたエンゲージメント戦略などが功を奏し、2016年時点から3倍の約300万人に購読者を増やしていることも対象的に紹介されてます。

トランプ大統領の登場によって有料購読者が増加につながった現象を指して「Trump Bump(トランプ効果)」とよく言われますが、上記アクシオスの記事の中では「購読者数の増加に焦点を当てることで、そのジャーナリズムがそのほとんどが進歩的(リベラル)で裕福な購読者層に向けられてしまうのではないか」という懸念点も紹介されてます。

ピュー・リサーチによる大統領選挙のメディア報道の評価を問う質問において、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、CNN, NPR, MSNBCなどのリベラル系メディアのみにニュースを頼っている層は8割以上が好意的に評価しているのに対し、トランプ大統領寄りの報道が中心のフォックスニュースとトークラジオのみにニュースを頼っていた層は7割が評価しないと回答しています。

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トランプ大統領の退任後も影響力を残すことが指摘されている「トランプ主義的なも」が依然影響力を持ち、分断が今後も長期化することが予測されています。今まで称賛の対象として話題になってきた「ニューヨーク・タイムズのサブスクリプション戦略の成功事例」を語る際、有料購読モデルがもたらす分断、行き過ぎた独善的なリベラル傾倒のリスクなど、冷静に考えるべき別の視点も持っておいたほうがよいのではないか、ということを感じます。

Photo by Jon Tyson on Unsplash

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市川裕康 (メディアコンサルタント)
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