今度こそ問われる日本の水際対策
日本では9月以降、新型コロナウイルス感染症の流行が収束傾向にあり、様々な規制緩和による人流の増加、社会活動の再開などが徐々に進んでいく中でも明確なリバウンドを起こすことなく現在まで経過しています。諸外国ではいったん収束したかにみえた国や地域であっても再び大きな波が押し寄せ、ロックダウンなどの措置を講じている状況ですので、日本の新型コロナ感染対策はこれまでのところでは先進的とも言えるかもしれません。
このような状況で政府は11月8日から感染拡大で原則停止していた海外からの入国について制限緩和策の適用を始めました。ビジネス目的での滞在はワクチン接種などを条件に入国後の待機を最短3日間とし、留学生や技能実習生の入国も条件付きで認めるというものです。
せっかく国内での流行状況が落ち着いているのに、落ち着いていない海外から人が入ってくるのは当然ながら流行地からの株が持ち込まれるリスクだけではなく、経過観察期間が短くなればすり抜けるリスクも高まるだろうと予想されます。実際にこれまでの5つの波のうち、第1波は2020年3月に欧州からの帰国者や旅行者によって持ち込まれた株、第3波は2020年12月に英国から持ち込まれたであろうアルファ株、そして第5波はインドから持ち込まれたであろうデルタ株が流行の発端となったと推測されます。そんな矢先に南アフリカの国立伝染病研究所などは25日、同国で新型コロナウイルスの新たな変異ウイルスを確認したと発表しました。
記事により判明している懸念点は以下の通りです。
①ウイルス表面のスパイクに多数の変異が生じていることで感染力やワクチンによる免疫効果に影響を及ぼす可能性がある。
②南アフリカでは500人未満であった感染者数が今月中旬から2400人を超えるほど急増している。
③この変異株は11月にボツワナで初めて見つかり、香港、イスラエル、ベルギーなどで相次いで確認され、欧州にも拡散している可能性が高い。
英ユニバーシティー・カレッジ・ロンドン遺伝学研究所のフランソワ・バルー所長は「一度に多くの変異が蓄積されたことから、おそらく免疫不全者の慢性感染の中で進化した」との見方を示す。南アはHIV感染者が多い地域であり、エイズ患者で慢性的な感染が起こっていたことも考えられる。
これを受け政府は26日、南アフリカなど6カ国からの入国者に検疫所が確保した施設での10日間の待機を求めると発表し、27日午前0時からの適用となります。これまでと比べるとかなり迅速な対応のように見受けられます(本記事を作成している最中に適用となってしまいました・・・)。
エスワティニ、ジンバブエ、ナミビア、ボツワナ、南アフリカ共和国、レソトについては、新たに「水際対策上特に対応すべき変異株に対する指定国・地域」に指定し、令和3年 11 月 27 日午前0時からは検疫所長の指定する場所(検疫所が確保する宿泊施設に限る)で 10 日間待機いただき、入国後3日目、6日目及び 10 日目に改めて検査を受けていただくことになります(https://www.mhlw.go.jp/content/000851966.pdf)。
これまでの水際対策では14日間の公共交通機関の不使用、自宅等での待機、位置情報の保存・提示、接触確認アプリの導入等について誓約書を提出することになっていましたが、自験例では待機期間中に飲食の機会を設けたことが発端で陽性者が複数みつかり濃厚接触者の検査をしたこともあり、入国(あるいは帰国)した後の監視体制の一層の強化が問われるところだと思います。また南アフリカには日本からの直行便はないことは幸いではありますが、多くの経由地が選択できることは入国の際に該当国だけではなく出発地(滞在地)もしっかりと確認できるような管理体制が必要であると考えます。私自身2019年にマダガスカル出張の際には首都のアンタナナリボまで行くのに東京ー香港ーヨハネスブルグを経由しました。香港は2003年SARS発生初期にホテルに滞在した中国・広東省の医師から同フロアーの客へ感染が拡がり世界各地に拡散した経緯があります。以下引用記事も香港のホテルでの感染事例です。
感染力の強さをうかがわせるのが香港で確認されたケースだ。最初に確認されたのは11日に南アフリカから到着した36歳の男性。到着直後の検査では陰性で、空港近くのホテルで21日間の隔離に入った。隔離3日目の13日に受けた検査で感染が判明した。2人目が10日にカナダから香港に到着した62歳の男性で、最初の感染者と同じホテルの同じフロアにあるはす向かいの部屋で隔離に入り、18日に受けた4回目の検査で感染が判明した。2人とも独ビオンテックと米ファイザーが共同開発したワクチンの2回目の接種を5~6月に終えていた。香港政府はホテル隔離中に2人目が感染したとみている。最初に感染した男性は排気弁のある特殊なマスクを着用し、マスクなしでドアを開けて食事を受け取ることもあった。このマスクはウイルスなどの侵入を防ぐ一方で、自分の息は外に出す構造だった。「セルフィッシュ(自分勝手)マスク」と言われて批判が高まり、香港政府は隔離中の使用を禁じた。
これからイベントも増えてくる時期になりますが、新たな変異株の流入を最小限に食い止め、抗体価の減衰による感染拡大を未然に防ぐためにも、「今度こそ」日本の水際対策のあり方が問われる瞬間(とき)と言えるでしょう。同時にこの変異株を検出できるスクリーニング検査体制を早急に整備する必要があります。今年も年末年始休みなく仕事をしなければならない状況は避けたいところです。