営利と非営利の境界線をどう考えるか
Open AIが非営利組織中心の体制から、営利企業中心の組織体制に変更することが報じられた。
このニュースは、営利と非営利の活動をどのように線引きするかを考える上で非常に興味深い。営利企業になると利潤を追求することが最優先され、倫理的な問題や社会全体の利益が後回しになるという懸念が一般的に持たれるだろう。そして、実際にそうした問題を起こす企業が存在することも事実である。
一方で、非営利組織であれば、こうした問題は解消されるかもしれない。しかし非営利組織は、株式会社などの(特に)公開企業と異なり、運営に関するディスクロージャーが必ずしも十分ではない場合がある。そのため、集められた資金が適切に使われているかどうかを検証することが、営利企業に比べて十分でない場合もあるように思われる。
特に日本では、非営利組織、特にNPOと呼ばれる組織形態に関する法律が制定されてからまだ時間があまり経っておらず、十分なガバナンスが効いているかどうか疑問が残る場合がある。中には、非営利組織であることを理由に「金儲け目的ではない」とアピールしながらも、ユーザーにとってどれほどの利益があるのか疑問に感じる事業を展開している場合もある。
こうしたグレーな非営利組織の存在は、正しく運営している非営利組織にとって、混同されることで大きなマイナスとなっており、非営利組織が抱える問題のひとつだ。
昨今では、営利企業もかつてのフィランソロピーや社会貢献といった活動から一歩進み、SDGsに沿った経営を行うことを株主に対して宣言し、またESG投資といった流れから、資金調達面でも単なる利潤追求だけでなく、社会的な要請に応えることが求められるようになってきている。
その意味で、営利企業のほうがむしろ非営利団体の考え方を取り入れる動きになってきているように思われる。営利企業はこれまでもマスコミなどから厳しい目を向けられることが多かったため、営利企業がいわゆる「社会的企業」へと進化する方向性が見えてきているのではないかと思う。そして、公開企業であれば、株主に対する情報公開がルールに従って厳格に義務付けられているため、なおさらその傾向は強まるだろう。
一方で、株主の短期的な利益還元要求にどのように対応するのかという問題と、この社会的責任の問題には矛盾する部分もある。
私自身も、設立と運営(経営)に関わっているアフリカでの社会的事業の組織形態について、検討の末に株式会社にした。これは上記のような昨今の流れを踏まえ、また非営利組織が常に主に寄付の形でファンドレイジングにリソースを割き続けなければならないデメリットを抱えていることが大きい。また、大口の資金提供者が見つかっても、その提供者が降りてしまうと、それで事業が続けられなくなるリスクもある。営利企業もビジネスが回るまでは大変なのだが、それまでにはVCなどからの資金調達の道があるし、ビジネスの収益で運営資金が賄えるようになれば、ファンドレイジングに割くリソースはなくても済むかごく小さなものになりうる点で、むしろ持続可能性は、非営利組織に勝るとも劣らない、との判断からである。
さらに、AIに関しては、法規制とどのように折り合いをつけていくか、という課題もある。イノベーションを先行させる傾向のある米国では規制が難航しており、すでに規制を定めているEUとは対照的だ。Open AIはカリフォルニア州の規制法案に反対したということであり、これが同社の営利企業主導の体制変更の動きとどのような関係にあるのかも気になるところである。
営利企業にせよ非営利組織にせよ、そのガバナンスやルール作りに日本よりも進んだ取り組みが見られるアメリカで、Open AIの今後の経営がどうなるのかが注目される。特にAIの分野は、今後私たちの社会生活全般に大きな影響を及ぼすと考えられ、単なる利潤追求では済まない倫理的問題が発生したり、社会構造全体のあり方に大きな変化をもたらす可能性がある。このOpen AIの在り方の今後に注目していきたい。
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