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「越冬リスク」を前に売られた「金」~絶対的な安全資産と言えず~

不安材料が満載
9月下旬に入り、金融市場では数々の不安材料が多発し、リスクオフムードが支配的となりました。英国でロックダウンが再開されるとの一報を皮切りに欧州における新型コロナウイルスの感染拡大第二波への懸念が高まり、悲観ムードも加速しました。ジョンソン英首相は3月導入のロックダウンよりも緩和された措置を言明し、大半の経済活動は継続される模様であるものの、新規感染者数が欧州で増えているのは事実であり、フランスでもロックダウンの再導入検討がなされていると言います:


このままいけば英国のEU離脱交渉スケジュールにも影響してくる可能性があります。実情としては新規感染者が増えても死者数はさほど増えていないという点で春とは状況が大きく異なるはずですが、元々あった秋冬の感染拡大に対する潜在的な懸念が顕在化しているということなのでしょう。金融市場は「結局、コロナ次第」という根深いリスクを目の当たりにしたよ言わざるを得ません。

安全資産「金」の「位(くらい)」
こうした状況下、金融市場ではドルおよび米国債が買われる一方、株を筆頭とするリスク資産が手放されましたが、その中で「不安の逃避先」として囃し立てられてきた金もしっかり売られました。株価下落などを補填する「換金売り」で含み益の実現が企図されているとの解説が目立ちますが、そもそも本当に危なくなった時に換金される資産は安全資産として「位(くらい)」がそれほど高くないとも考えられないでしょうか:

今回のリスクオフ局面で買われたのはドルそして円でした。具体的に数字を見ると、例えば9月14日からの1週間を見た場合、対ドルで上昇しているG10通貨は円だけであり、それ以外の通貨は全て対ドルで下落した。為替市場では伝統的な反応と言えるものです。結局、「有事のドル買い」と「世界最大の債権国通貨の円買い」は最も深刻なリスクオフ局面では威力を発揮するということでしょう。ちなみに、世界最大の経常黒字国(貿易黒字国)であるドイツを擁するユーロも本来、この状況で買われる筋合いにありますが、今回のリスクオフの震源が「欧州の第二波懸念」であり、また過去3か月でユーロは猛烈に買われてきたという経緯も踏まえれば、対ドルで売られるのは致し方ないとも言えます。ユーロの対ドル相場は3月の年初来安値から9月初めの年初来高値まで最大で約+13%も上昇していました。それが今回は▲3%弱戻したに過ぎません。ブレグジット絡みなど、政治や感染拡大を理由にユーロが敬遠される動きはまだ続く可能性もあるでしょうが、ファンダメンタルズ(巨額の経常黒字やディスインフレ状況)に照らせばユーロの大崩れは考えにくいというのが真っ当な分析姿勢になります。

過去のnoteへの寄稿(以下)でも議論させて頂きましたが、所詮、金価格の上昇は過剰流動性相場の副産物であり本当の不安が台頭した時には手放されるということが今回よく分かりました:


例えば、9月に入ってからの展開を見ると、金価格は失速する一方、銅価格が盛り返していました(図表):

タイトルなし

より長い目線に立ち、過去6か月の展開を見ると、確かに金価格の勢いが強い時期もありましたが、「銅より強い金」だったのは7月中旬からの約1か月間くらいであり(図中、点線赤丸部分)、それ以外の期間はそれほど金が独走していたわけではありませんでした。「感染拡大に対する不安感から金が買われている」と言われていた裏側では世界経済の先行指標である銅も買われていましたし、株も買われていました。もっと言えば、債券も買われていたはずである(金利は低いままでしたから)。要するに、リスク資産も安全資産も無差別に買われていたわけです

もちろん、金が最高値をつける過程で感染症拡大への不安が全く意識されていなかったとまでは言いません。しかし、基本的に金価格の上昇は金融・財政政策の大盤振る舞いを前提とした金融相場の一環と考えられます。とりわけ米政府の追加経済対策がなければ、企業収益がリーマンショックを超える悲惨な状況にある以上、株価の調整は必然の帰結と言えるでしょう。

越冬リスクの前に金も存在感無し
今回の英国ロックダウン再導入懸念から始まったリスクオフ相場を見るにつけ、結局は、どのような金融資産に対し、どのようなシナリオを検討するにしても、「新型コロナウイルス次第」という留保条件が外せないことが分かりました。そうした未来に対してエコノミストができることは、OECDが史上初めて2つのメインシナリオ(dual scenario)を検討したように、複数のパターンを提示することだけです。例えば、冬に向けて米国が再度ロックダウンに陥るという展開まで想定するのであれば米政府の経済対策の規模はより膨らむでしょうから「ドルの過剰感」はよりテーマとして勢いを持つでしょう。為替市場はますますドル安に傾斜しやすくなろうかと思います。

反対に、ワクチン開発とその流通に期待が盛り上がれば、アフターコロナを意識した米金利の上昇とドル相場の反転が期待できます。しかし、早期のワクチン開発や流通を前提にしたアップサイドリスクに構える市場参加者は多くないでしょうし、そうするだけの根拠にも未だ乏しいものです。

政治・経済・外交その他全てが「無事に冬を乗り越えられるか」という、いわば「越冬リスク」を恐れながら動いていることが9月下旬に入ってからのリスクオフ局面からは感じられました。その際、安全資産の代表格のように囃し立てられてきた金もその「越冬リスク」の前には存在感を示せなかったことが「金は果たして絶対的な安全資産と言えるのか」という問題意識を投げかけているようにも感じられました

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