イノベーション≠技術革新。ディープイシューx枯れた技術が未来をひらく
こんにちは、電脳コラムニストの村上です。
※ 本記事は、日経朝刊の「未来面」との連動企画「世の中の『当たり前』を、どんな技術でどう変える?」への投稿です。
世の中の当たり前は技術で変わるのか?例えば、T型フォードによる自動車の量産化はモータリゼーションの契機となり、アメリカ経済の発展に貢献しました。しかし、自動車自体はそれ以前から存在していましたし、T型フォードがすごい技術が満載だったかと言われれば、そうではありません。「フォード生産方式」と呼ばれる大量生産の手法(製品標準化、部品規格化、流れ作業化)を確立し、それをモデルTという1車種に絞ったことで(他社に比べて)生産能率があがり、安価に消費者に提供できるようになりました。それにより一気に世の中に自動車が普及したことで、結果として世の中が変わりました。
近年「イノベーション!」の掛け声とともに、どの企業でも新しい技術やサービスを生み出そうという奮闘しています。イノベーションはしばしば「技術革新」と訳されますが、わたしはここにどうしても違和感を感じてしまうのです。それは、「なぜ日本はスマートフォン戦争に敗北したのか」という個人的な思いがあるからです。
わたしは今でこそHRTechやSNSサービス関連の仕事をしていますが、iモードが生まれる前の1998年から2017年まで、モバイル・インターネットに注力していました。当時のガラケーは大変革新的なもので、難しい知識がなくてもeメールが送れ、Webも見れ、カメラ付きケータイやおさいふケータイなど、世界から注目されるサービスを展開していました。
その後、AppleがiPhoneの初期モデルを発表しましたが、当時の日本での反応は芳しくありませんでした。「テンキーがついていない携帯は売れない」「おさいふケータイがないものは厳しい」。そんな意見が大勢でした。その中には「特に目新しい技術はない。日本メーカーもすぐつくれる」というものもありました。結果どうなったか。みなさんもご存知の通りです。
ここで見過ごされていたことは、携帯電話そのもののアップデートでした。大きな画面、誰でもわかる直感的なタッチ操作、なによりソフトウエアを自由に追加・更新することで多様なニーズに応えられること。電話にインターネット機能がついたものから、パソコンが小型化し常時接続の無線インターネットがついたものに変容し、世界規模で一気に展開することで無数のソフトウエアが提供されるエコシステムができたことこそが、スマートフォンの爆発的普及のきっかけになりました。
「カメラの解像度をよくしよう」「もっと小型化してみよう」。技術革新はときに、一部パーツに着目したPDCAサイクルに陥ります。徐々に改善していくことも素晴らしいことですが、変革にインパクトが必要なのだとすると100倍、1000倍といった単位でないと「革新」にはならないでしょう。
では、どうすればよいのか。ヒントは、世界のこれからの課題を解決しようとする「ディープテック」のアプローチにありました。
ここで言われているディープテックは「喫緊の社会課題をテクノロジーで解決すること」を目的としています。そのため、最新技術が投入されることもあれば、既存の眠れる技術や枯れた技術の組み合わせによるものもあります。共通しているのは「社会課題」というディープイシューに対して、ゼロイチでなにかを生み出そうとしていることです。
日本におけるディープテックの潮流において注目を集める会社が、リバネス社です。同社が提唱しているイノベーションを生み出すサイクルが「QPMIサイクル」と呼ばれるものです。
ビジネスでよく用いられる「PDCA」は、既存業務の改善には効果的です。しかしPDCAのサイクルをいくら回しても、イノベーションは生まれません。全く新しい価値の創出であるイノベーションは、既存業務の延長線上には存在しないからです。
リバネスが提唱する「QPMIサイクル」は、イノベーションを生み出すための全く新しい概念です。QPMIとは、Question、Passion、Mission、Innovationの頭文字を組み合わせたものです。
現在リバネスは東南アジアに注目しているそうです。そこには、たくさんの社会課題と解決しようとする現地の方々の情熱があり、日本にはたくさんの枯れた技術がある。この組み合わせが、世界に展開できる「イノーベーション」を生むのだと。
明日6/5 11:00より、リバネス 丸幸弘CEOと私とでオンライン対談を行います。特に「問いを発掘する力」について、根掘り葉掘り聞いてみたいと思います。興味のある方は、ぜひご覧ください!
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タイトル画像提供:metamorworks / PIXTA(ピクスタ)