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ゴルゴ13からたくさんのことを学び成長した。

 さいとう・たかをさんが亡くなった。言わずと知れた「ゴルゴ13」の作者だ。

  私は、ゴルゴ13とともに成長してきた。私だけではない、多くの人にとってそうだろう。最初に読んだのは中学生の頃。それから、必ず新作は読んできたし、コンビニエンスストアなどで特集版が出る都度購入してきた。この特集版もさまざまなバージョンで出されるものだから、同じ話を三度、四度、読むこともあった。

 コミックとして、エンターテイメントとしてゴルゴ13が好きだった。さらに、ゴルゴ13を読むと、いわゆる地政学的状況や、各国のリーダーの思惑などを学ぶことができた。
 しかしそれだけではない。それに加えて、私はゴルゴ13(デューク東郷)に、プロフェッショナルとしてのスタンス、必要なスキル、そして行動を学んでいた。

 デューク東郷の有名な癖として、「人が自分の後ろに立つと、反射的にその人を攻撃する」というものがある。これはコミックの中でも、警察などが、デューク・東郷と認識した際、とにもかくにも拘束しようとして敢えてデュークの背後に立ち、攻撃させて別件逮捕、という形をとったりするくらい、反射的な「癖」だと描かれている。

 また、狙撃に向けた事前準備の徹底、という描写はさまざまなところでされているる。銃の整備、逃走経路の確保、証拠の隠滅等、本番に向けありとあらゆる事態を想定して、準備が行われる。二重、三重にも不測の事態を想定しておくから、結果として、デュークは仕事を完遂するし、現場からしっかりと離れられ、たとえ逮捕されても、罪に問われることはない。

 さらに、ビジネス・パートナーを頼るとともに、自らもトレーニングして高める。最高のパートナーである銃器職人のデイブ・マッカートニーは、無理難題をデュークから押し付けられるが、基本、全て要望に応える。私の記憶では一度、要望に応えられないことがあったが、そこは信頼しているパートナーがそういうなら、と、あとは自分でなんとかする、とデュークは了解する。

 騒動師リンドンは一度しか登場しないが、文字通り「騒動を起こすことを仕事にする人」である。こういう意味不明なプロフェッショナルとも繋がり、仕事を行う。おそらくデュークは、リンドンとは一度しか仕事をしていないが、リンドンの起こした騒動のおかげで、彼は仕事を成功させることができる。

 さらに、自らもトレーニングして、高める。宇宙空間の狙撃を行うために、京都に矢の奥義を習得しに弟子入りするなど。ほかにもさまざまな形で自らを鍛える。日頃のトレーニングを欠かさないと同時に、そのスナイプを行うために、新たに技術を習得するのである。

 こうした姿勢が全て、私自身の仕事へのスタンスに強く影響を与えている。

  まず、背後に立たれると瞬間的に攻撃する、という「習性」は、何かあったら「すげー!やべー!」と反射的に言って好奇心を醸成する、という習性につながっている。

 準備の徹底は言うに及ばず。私は10年前、ソフトバンクアカデミアで孫正義さんに初めてお会いしてプレゼンする!という際に、ゴルゴ13に影響されて、これは徹底して準備するだろ!と、5分のプレゼンで300回練習した。ゴルゴ13を読んでいなかったら、間違いなく10回くらいの練習で止まっていたことと思う。

 サボりそうになったら、デューク東郷の
「俺には、「次の機会」なんてものはないんだ。」
という言葉が常に頭の中にあった。

 そして、パートナーを大事にする、信頼する、ということも、デュークと同様、「任せたら、任せ切る」「それで無理だったら、あとは自分でなんとかする」というスタンスだし、そのうえで、自分のトレーニングも欠かさない。

 私にとっては、デューク東郷は、仕事上の師匠だ。だから、ゴルゴ13の新作が出る都度、貪るように読んだし、そこから、常に「プロとしてのスタンス」を引き出そうとしていた。

 だから、さいとう・たかをさんが亡くなったと知った時、他の誰が亡くなった時よりも、ショックを受けた。新作が生まれなくても、既存の作品を何度も楽しみながら学びを得ることもできるが、大袈裟でなく、デューク東郷がプロとして仕事をし続けるからこその自分の成長だった。ゴルゴ13が終了したら、自分のプロフェッショナルとしての成長が止まるような感情に襲われた。

 が、その心配は杞憂になりそうだ。ゴルゴ13は元々、分業制を引いており、最後の統括としてさいとう・たかを先生がいらっしゃった。でもおそらく、もう、デューク東郷は、さいとう・たかをさんを離れて、一人歩きしている。だから分業制でこれからも続くゴルゴ13は、おそらくゴルゴ13であり続けるし、私はその新作を見ながら、デューク東郷に負けない、プロフェッショナルを目指し続けるだろう。

 さいとう・たかを先生、ありがとうございました。
 そして、安らかにお眠りください。

(Photo by Aflo)


 

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