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本当に空気を読める人は、逆張りが上手にできる人になる。

かつてKYと呼ばれる言葉があった。

KYとは「空気(K)を読めない or 読めよ(Y)」の略で、それができない人は「あいつKYだな」などと揶揄された。

そんなKYが流行語大賞にノミネートされたのは、今から14年前の2007年。今ではすっかり、その言葉を聞かなくなった。

なぜKYという言葉は消えたのか。回答の1つは「そんなこと当たり前になったから」だろう。今や空気を読む(もしくは、空気を乱すことはしない)はコミュニケーションにおけるデフォルトのスキルになった。

また、それと同時に「空気が読みやすくなった」ことも挙げられる。
「空気」とはつまり世の中の流れであり、一定の正解であり、間違わない方向だ。

今の時代は空気が読みやすい。一定の正解が見つかりやすい。。

・飲食店を探す時は、食べログやGoogleマップでハズレの店を回避できる。
・マッチングアプリを使えば、条件に合った恋人候補はすぐに見つかる。
・海外旅行に行く時だって、先人のブロガーたちをなぞっていれば大きな失敗をすることはないだろう。

予め結論がわかっているモノやコトに対する消費行動を、Z世代マーケティングの世界では「ネタバレ消費」なんて言ったりする。これに対して「そんな予定調和の何がおもしろいの?」と上の世代がツッコむのはお決まりのパターンだ。

若者研究を生業の1つにしている私から言わせれば

「若者はネタバレを好む」

という表現は些か語弊がある。

「若者はガチャを嫌う」

という表現の方が近い。

ガチャとは、ガチャガチャのことで「何が出てくるかわからないブラックボックス」のこと。

就職してもどこに配属されるかわからない状況は「配属ガチャ」であり、どの家に生まれるかわからない状況を「親ガチャ」なんて呼ぶこともある。

ひと昔前の人事は「置かれた場所で咲きなさい」なんて言ったものだが、「咲ける場所に置いてよ」という至極真っ当な反論を受けている状況だ。

これらの背景にはタイムパフォーマンス(時間対効果)を重視する傾向がある。もしガチャでハズレを引いてしまったら、それに対応している時間がもったいない。だから結論がわかっているものを選ぶ、という構造だ。

これに対しても上の世代からは「その無駄な時間にこそ意味があるんだ!」と石の上にも三年論でツッコミが入る。

議論は並行戦だ。

私はどちらの味方でもないし、無意味な世代論に持ち込むつもりはない。ただ、ガチャを嫌い、タイムパフォーマンスを重視する傾向は止まらない。だったらこの時代の生き方、戦い方を考えてみたい。

キーワードは「逆張り」だ。

◾️空気を読める力の使い方

先ほど「今の時代は空気が読みやすい」と書いた。その背景にはデジタルによる見える化が大きい。

SNSは「友達」を見える化し、マッチングアプリは「属性」を見える化し、食べログやGoogleは「評判」を見える化した。

これまで不明瞭だった世の中の空気感や、時代の流れに対する解像度が上がった。生活者も企業も間違いにくくなった。

その結果、今の世の中には「一定の正解」が溢れている。決め手には欠けるけど、大きくは間違っていはない。そんな商品やお店、人さえもそうかもしれない。

可もなく不可もなく、が1つレベルアップした、とでも表現しようか。そんな一定の正解の中に身を置いた人たちは「どうしたら頭1つ抜け出せるか?」と考えるようになった。

企業は細かいスペック競争に走り、飲食店は妙なコンセプトを打ち出し、人は⚪︎⚪︎キャラなど安易な個性を求めるようになった。

これらは全て空気を読む力があるのに、それを空気に合わせるために使ってしまっていることが原因だ。

私は、本当の意味で空気が読める人は「真逆の方向も正確に掴める人」だと思う。つまりは、それを使って逆張りマーケティングができる人だ。

頭1つ抜け出す目的が「目立つこと」だとしたら、たった1人逆に走り出すだけで目立つことはできる。

そしてこれを単なる「悪目立ち」にしないために、空気を正しく読み切って、いずれくる寄り戻しに備えて戦略的に逆張りする。これこそが次世代のマーケティングスキルであり、価値のつくり方だ。

逆張りするには勇気がいる。

と思われるかもしれないが、実はそうではない。

逆張りに必要なのは、創造性のあるロジカルシンキングだ。もしあなたが企業の新商品担当者だとして「世の中がこの方向に向かっているので、弊社もこんな商品を出します」とプレゼンするのは簡単だろう。しかしそれでは時代の波に飲まれるだけだ。

逆張りを通すためには、順張り以上のロジックの強度が必要になる。

正確に空気を読み切って、流れが変わるタイミングを掴む。その上で今、このタイミングで逆に向かうのがベストである、と相手も自分も納得できなければ逆張りを決断することができない。

しかしそれさえできれば、逆張りほどシンプルで強い戦略はない

自分のロジカルシンキングや、マーケティングスキルは逆張り戦略に耐えうるほどのものなのか。トライしてみる価値は十分にある。







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小島 雄一郎
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