ゲームの関心は「利上げ」から「利下げ」へ
2%割れも見え始めた米10年金利
中国に加え、通商合意が半ば成立していたはずのメキシコにまで矛先が向いたことを受けて金融市場は大きく動揺しています。米10年金利は遂に2.1%を割り込み、あっという間に有り得ないと思われていた2%割れを囁く声も出ています。こうした長期金利の水準はFF金利誘導目標が今の半分(1.25%)だった頃につけていた水準であり、たった1週間足らずでかなり遠いところまで連れてこられた印象です。ちなみに2017年9月につけていたドル/円相場の最安値は107.33円であり、これは2017年の年初来安値でした。この際の日米10年金利差は月平均で見て2.2%ポイント弱でした。現時点の10年金利差はこれと肉薄しており、金利・為替の水準だけ見れば当時と比肩するものになっています。関連コメントは本日の日経新聞朝刊にも載せて頂きました:
ゲームの関心は「利上げ」から「利下げ」へ
しかし、当時は現在のように米国経済のファンダメンタルズを懸念して米金利が低下していたわけではなく、北朝鮮のミサイル実験を受け本邦ではJアラートの運用が度々なされていた時期でありました。いわゆる地政学リスクを理由とする「リスクオフの円買い」が試されていた時期であり、経済・金融情勢の変化を受けた動きではありませんでした。それゆえ、2017年9月以降の米金利動向を振り返ると、確かに一時的な急低下を迫られているものの、その後すぐに水準を戻し、翌年には年4回の利上げを成し遂げる展開に繋がっていきます。金利・為替の水準は今と類似していても米経済・金融情勢を取り巻くモメンタム(勢い)は今と全く異なるものです。今や金融市場のゲームの関心は「利上げ」から「利下げ」に移りました。過去5年で最も大きな前提の変化でしょう。
今回も「利上げの終点が米 10 年金利の終点」だった
2017年9月を振り返ってみると、FF金利、2年、10年といった3つの主要な米金利が上向きでした。しかし、筆者は「利上げの終点」としての中立金利の横ばいないし低下傾向を重視し、「米金利の頭打ちは近く、これに応じてドル売りが強まる」という視点で金融市場を見てきました。実際、「利上げの終点が米10年金利の終点」との経験則は今回も綺麗に嵌まった格好であり、問題意識は概ね正しかったと思います。2017年9月以降のFOMCでは中立金利について2.75%という水準で意見集約を進めることがまま見られました。「2.25~2.50%」で利上げを諦めることになった現状とほぼ平仄が合うものでしょう。
債券市場は利上げの「回数」や「時期」に関心
しかし、為替市場の動きは米金利のそれに対して鈍い状態が続いてきました。これはユーロ圏と日本の金利環境が悲惨過ぎることもあって「低下しても米金利の絶対水準が高いのでドルが売られない」という事情が強く作用したというのが筆者の仮説です。依然、米金利の絶対水準は高いものですが、既に市場参加者は「FRBはどこまで現状維持を続けられるのか」という関心を抱き始めており、端的には「利下げのタイミングを当てるゲーム」が本格化してきそうな雰囲気があります。今回の対メキシコ関税報道を受けて債券市場では元々70%以上にあった年内の利下げ確率が概ね100%まで上昇しており、もはや年内2回という声が上がっています。利下げの「有無」を超え、「回数」や「時期」が争点化しているわけです。ここまで来ると年初来「我関せず」の雰囲気にあった為替市場も利下げの可能性を無視しきれず、ドルを手放す流れに繋がらざるを得ません。過去5年間続いてきた米金利とドル相場の上昇の清算がこれから相応に始まると考えるのが自然ではないかと私は思っています。