ポッドキャストとストリーミング動画:ニュース消費のこれから
以前にも何度かご紹介したことがあるニューヨーク・タイムズの人気ポッドキャスト、「The Daily」を立ち上げた人物のインタビューがメディア業界の専門誌「Digiday」のポッドキャストで昨日配信されていました。
とても印象に残った一言はインタビューの最後に語っていたこの一言でした。
『The Daily is the front page for us, it's the modern A1(毎日200万人が視聴しているポッドキャスト番組の)The Dailyはニューヨーク・タイムズにとってフロントページ、現代におけるA1なのです』
今から5年前にニューヨーク・タイムズでスポーツ・エディターだったSam Dolnick氏は当時まだ物珍しかった「モバイル・エディター」に就任、そこから新しい時代の読者に広く届けるための取り組みであるポッドキャスト番組、The Daily を2017年1月にスタートさせた立役者です。当時ポッドキャストが世の中で流行り始めていた時期で、世界中からオーディオ編集者を募ったり、今でこそ有名人である番組ホストのマイケル・バーバロをパーソナリティに抜擢した経緯などがインタビューの中で紹介されていてとても興味深い内容です。
Dolnick氏は今やアシスタント・マネージング・エディターとして、この6月にスタートしたテレビシリーズ、「The Weekly」 のプロデューサーです。The Dailyの成功を「Once in a generation hit(ひと世代に一度の成功)と振り返り、ポッドキャストで称賛されているニューヨーク・タイムズの記者による臨場感溢れるニュースの物語の深堀りを、今度はテレビ番組という形態で届けることに取り組んでいます。
6月にスタートしたThe Weekly は毎週日曜日の夜ケーブルテレビ局のFXで配信され、翌日以降ストリーミングサービスのHuluで放映される30分番組です。あいにく日本からは視聴はできないのですが、6月上旬にスタートした番組は現在毎週130万〜140万人程度に視聴されているとのことです。配信パートナーとしてストリーミング配信のNetflixやHBOなどの大手ではなく、FXというケーブル会社を選んだ理由がとても興味深いです。Netflix利用者などは既にニューヨーク・タイムズ読者である可能性が高い一方、FXが持つ9,000万人もの視聴者はまだケーブルを利用していて、どちらかというと日常的にニューヨークタイムズを読んだり聞いたこともないようなターゲット層だから、とインタビューの中で明かしています。
ニューヨーク・タイムズの最新の購読者数は470万人(紙+デジタル)、デジタル版の購読者は380万人近くで今では世界で最も読まれている新聞です。同社CEOのマーク・トンプソン氏は2025年までにデジタル購読者数1,000万人の達成を目指す、と掲げています。
出典:With dynamic paywalls and targeted marketing, news subscriptions continue to grow | What’s New in Publishing | Digital Publishing News 8/8/2019
5月の時点で1,600人と紹介されていた世界中の記者の数は今では1,750人と過去最大規模の投資を続けている様子です。急速に広まるポッドキャスト業界での「The Daily」、そしてこの秋以降に更なる盛り上がりが期待されるストリーミング動画業界でも先を見越して始めた「The Weekly」。こうした今までにない規模で広げるマーケティングの手法を眺めながら、デジタル購読者1,000万人という時代がいずれ、思ったよりも早く来るかもしれない、という気にさせられます。
国内ではまだポッドキャスト人気はそこまで広がっているとはいえず、ストリーミング動画も国内の無料テレビ番組が充実しているなど事情が異なるため、Netflix の利用者もまだ300万人ほどで、海外とは状況は違うというのはもちろん今の現実です(Netflixの世界の有料購読者数は1億5,000万人)。とはいえ、いずれ少しずつ状況が変わってくる時に備え、ポッドキャストとストリーミング動画について、少しずつアンテナを張っておきたいと思います。
Photo by Caspar Camille Rubin on Unsplash