「やっている感の感染対策」では「真の感染対策」にはなっていないことがあるが未だにアップデートされていない
緊急事態宣言の延長が議論されているところではありますが、連休明けで行楽地などへの人の流れが落ち着いた状況が反映されはじめて、都市部での感染者数増加のブレーキがかかりつつあるような印象です。外来診療でも4月末から5月上旬頃に増加傾向であった発熱患者数や新型コロナ患者数も少し落ち着いてきたように感じています。その一方で北海道や沖縄では連休中の訪問者による影響と考えられる感染者数の増加が顕著にあらわれ、対策の強化が求められている状況です。
これまでのメディアでの情報発信を評価していただいた東京都三鷹市からご依頼を受け、5月15日に正式に「感染症アドバイザー」として委嘱を受けました。以前より東京のような大都市では、市区町村レベルで現場に入り込んだ感染対策をしっかりと行うことの必要性を訴えてきましたが、港区と共に三鷹市でも同様の取り組みが行われるようになったことを大変嬉しく思います。実際に4月末から市内公共施設を複数巡視して、施設に見合った感染対策アドバイスを行っており、その模様が三鷹市公式ホームページで公開されています。
新型コロナウイルスの主たる感染経路は飛沫感染ですので、究極のところ飛沫を浴びるような場面、すなわち「マスクなしで会話をする場面」を作らなければ感染が拡がることを最小限に抑えられる訳です。ただ四六時中マスクを着用しては快適な日常生活が送れませんので、「マスクができない時にいかに飛沫を飛ばさない・浴びないようにするか」を考えれば、自粛しなくてもできることは少なくはありません。この動画でも、これまでは施設の閉鎖や行事の休止など、徹底した対策を講じてきたことはとても良く理解できたのですが、いつまでも守備に徹していたのでは先に進むことができません。そこである種「攻めの感染対策」として、飛沫や接触感染リスクの根幹を抑え、それ以上に行っている対策、すなわち「何となく不安だからやっている感染対策」を減らしていくことを提言しました。映像の事例以外にも日常生活で疑問に思っていることをいくつか挙げたいと思います。
①取りすぎなディスタンス
順番を待つときに床にマークがあり皆が距離をとって列が長くなっているる場面を見かけます。自宅近所の小規模スーパーでは店内がかなり狭いにもかかわらず、レジを待つための立ち位置マークが2メートル近く離れているので、列が入口横にあるレジから店内をひと回りしているだけではなく、狭い廊下にできた列がとても邪魔で、途中の陳列棚から商品を取る方が過剰に空いている人と人との間に入り込んでいる状況が常時みられています。
ソーシャルディスタンスは「お互いがマスクなしで会話をする時に飛沫感染予防のために飛沫を直接浴びないようにするために取る距離(2-3m)」から来るものですので、皆が同じ向きでマスクをして会話がなければ過剰な距離をとる必要性はほとんどなく、むしろ長蛇の列による弊害の方が目立っているのです。何とかならないものでしょうか?
航空機内はどうでしょうか?「適度な距離をとってください」といつもアナウンスされていますが、搭乗時・降機時ともに距離をとっている人はほとんどいません。機内ではマスク着用が必須ですし、どなたも会話していませんし、皆同じ方向を向いていますし、距離を取っていなくてもこれまでと同様にほとんど違和感はないように感じます。
距離をとっていても「マスクなしで対面で大きな声で会話」「密閉された空間で歌を歌う、大声で笑う」などの行為があれば、距離をとっていても感染することはあり得ます(ここが新型コロナの厄介なところで、いわゆるエアロゾル感染という感染経路です)。すなわち、「何でも構わず距離をとれば良い」訳ではなく、一方で「何となく距離をとる必要性がない」こともあるのです。
②マスクをつけていれば良い・屋外であれば良い
変異株は感染力が強く、「マスクをしていても感染した」「屋外でも感染した」などという報道を耳にしたことがあると思います。この「マスクをしていた」というのはどこまで信憑性があるのでしょうか?
通勤途中や飲食店などで周囲の人たちの行動を見ていると、「ウレタンマスク」「顎にマスクをかけて会話をしている」「鼻を出している」など、不適切なマスクの着用をしている方が少なくありません。「ウレタンマスク」は不織布マスクが品薄になった時期に代用として流通したもので、既に実験でも検証されていますが、飛沫感染対策としては不十分であり、これだけではウイルス粒子を吸い込んでしまう、あるいは飛沫が漏れてしまうこともあります。また顎にマスクをかけていたり、鼻を出していたりしても、本人からすれば「マスクはしていたと思っている」かもしれませんが、これではしていないのと何ら変わりはありません。屋外でも然りです。至近距離でマスクなしで会話をすれば、屋外だろうがダイレクトに飛沫を吸い込めば当然ながら感染は成立します。「マスクをしていたのに感染した」「屋外でも感染した」=「とても感染力が強い」という報道や発言はややミスリードにも思われ、本当にそうだったのかは懐疑的であり、おそらくは「不適切な着用をしていた時間(結構長時間?)に感染が成立した」のではないかと考えています。マスクをしていない状況では口元を手やハンカチなどで覆うなど、ダイレクトに飛沫を飛ばさないこまめな気遣いをすれば、飛沫感染リスクをかなり減らすことができるはずです。ちなみに私は1年半以上にわたり多くの新型コロナ患者さんの診療を行ってきましたが、サージカルマスクのみで距離をとったうえで会話をしていますが、未だに抗体は陰性のままです。
③完全防備の診療
新型コロナを診療している街の診療所などの映像が流れることもありますが、患者さんとの問診の段階からキャップ、フェイスシールド、N95マスク、ガウン、手袋など(個人防護具:Personal Protective Equipment; PPEと言います)をすべて着用して診療にあたっている医師を見かけます。一部しかわかりませんが、その恰好のまま検体の採取なども行っている様子も見受けられます。本来PPEは感染経路に応じて使用するものであり、飛沫感染対策としてサージカルマスク、接触感染対策としてガウンと手袋、吸引処置などエアロゾルが発生するときに眼を守るための対策としてアイシールドが基本であり、単なる問診をする際には患者さんがマスクをしていれば自身は飛沫対策としてのマスクのみで十分です。但し相手がマスクをしておらず、くしゃみなどをされることを想定して目の保護をするためであればアイシールドも使用しますが、新型コロナ発生前までの外来診療でアイシールドを使用して診察をした医師がいたでしょうか?またどの患者さんでも新型コロナの可能性があることから自分を防御するという意味合いなのでしょうが、そうであれば患者さんごとにすべてのPPEを取り換えなければ接触感染のリスクが生じます。すわなち、余計なものを装着することによってその表面が常時汚染する可能性がわずかでも生じる訳であり、装着しなければその可能性はゼロです。
最近ワクチン接種が始まりましたが、ワクチン接種の際にすべてのPPEを装着している医療者が見受けられますが、ワクチン接種をする健康な方々を前に「何のために?」と問いかけたくなります。新型コロナウイルスはエボラウイルスやノロウイルスのような感染力の強いウイルスではありません。必要最小限の感染対策をしっかりと行うことで負担も軽減することを医療者であればもう少し理解していただきたいと考えます。
昨年の3月頃までは未知なことが多く、クルーズ船での集団発生などが起こったことから、新型コロナ疑いの患者さんを診療するときにはとても緊張したものですし、できる感染対策は全て行っていたように記憶しています。多くの国民の皆さんも初めての緊急事態宣言が発出された時には医療者以上に不安が大きかったと思います。あれから1年半が経過し、「わかったこと」「まだわからないこと」「以前は正しかったと思われたことが間違っていた」「間違っていたと思われたことが正しかった」など、新型コロナに関する情報で変化したことはとても多いと思います。同じことをただ繰り返すばかりではなく、必要なことと不要なことを効率よく選別し、収束に向けて元の日常を取り戻していくべきであると考えます。それに拍車をかけるのがワクチン接種になりますので、政府や自治体には是非とも効率的な接種スケジュールを進めていただきたいと期待しております。