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市民協働まちづくりのプラットフォーム〜門川大作京都市長の本当の功績


門川大作京都市長の任期終了

先週末、いつも着物の名物市長、門川大作さんが、16年間にわたり務められた京都市長の役割を終えた。

私の京都への移住と本社移転の理由は、門川市長のつくってこられた「市民協働まちづくり」がもたらした、「市民協働に関わるたくさんの仲間」の存在である。市長の16年の終盤は、財政再建、コロナ対策、いまは人口減少対策に取り組む姿ばかりが目立っていたが、私の目からみると、門川市長の最大の功績は「市民協働まちづくりのプラットフォーム」の可能性を示したことである。

京都市未来まちづくり100人委員会

私が最初に、京都市が市民協働にとてつもない力を入れていることを知ったのは、2008年に始まった京都市未来まちづくり100人委員会だ。公募で集まった市民100人が、まちづくりを学びながら実践していくという、市民に対するかつてない大規模なまちづくりの実践型研修だった。5年にわたり開催されたこの100人委員会に、第4期と第5期の最終報告会にゲストコメンテーターとして招いていただいた。

のちに知ることになるのだが、この100人委員会の背景には、京都の市民参加の推進の長い歴史がある。2000年に市民参加推進条例をつくり、それ以来、市民参加推進計画をつくってきている

京都市職員の市民協働ファシリテーター任命

私は、前述の京都市未来まちづくり100人委員会の第4期最終報告会で知り合った、今では京都市役所を卒業して独立したノブさんと、市民協働ファシリテーターを育成し任命するプログラムを開発した。このプログラムは門川市長のお気に入りになり、必ず最終日に来て、自らの市民協働への想いを語った上で、直接一人ずつ任命状を手渡しする恒例行事となった。

門川市長に任命された市民協働ファシリテーターは、昨年の7期目で合計174名にのぼる。行政主催の市民協働が行われる際、ファシリテーター全員に声がかかり、手を挙げて派遣されることになる。研修を受けてくれた職員たちは、「市民視点から行政施策を発想」できるようになっていくから面白い。

市民協働まちづくりの未来

門川市長の市長最終週に、「鴨川まちづくりミーティング」という市民協働イベントが開催された。私がこのイベント全体のファシリテーターを務め、ゲストの一人として門川市長もお越しいただき、さらに7人もの市民協働ファシリテーターが、市民の対話を見事に引き出し盛り上げた。市長は自身のその日のfacebookで、「この間、野村先生のご指導の下、ファシリテーターとして学び、認定された京都市職員も大活躍!嬉しいです」とワクワク感を伝えてくださった。

市民協働を本気で推進する首長には、共通の特徴がある。こういったワークショップに参加した時のコメントの仕方だ。門川市長も、渋谷の長谷部区長も、牧之原氏の西原元市長も、みなさん、市民のアイデアの一つひとつに自分の意見を言うのだ。形だけの首長は、ぜんぶのアイデアを聞いてから「今日は市民のみなさんに集まっていただき、熱心にアイデアを出していただいた。感謝します。たいへん参考になりました」といった抽象的なコメントしか言わない。この日の門川市長も、ご自分のあいさつが終わったら退出する予定だったにも関わらず、市民の対話の時間もその場にとどまり、市民のアイデア発表のあとコメントを求めると、熱い想いで応えた

そしてこれから、市民協働の未来はどこへ向かうのだろうか。

市民参加の形態は、市民参加推進条例で「市民の市政への参加」と「市民のまちづくり活動」の二つに分類されている。前者はパブコメなど、市政に対して市民が意見を言うこと。後者は市民主体でまちづくりを行うことを行政がサポートすることである。これら二つの市民参加を増やしていくことはとても大事だが、「市民協働の未来」を考えると、そこにとどまってはならない。

市政参加とまちづくりを分けたままにするのではなく、それらを統合し、「市民が自ら決める」ことを促し、決めたことについて「市民の実行を支援する」ことだ。そのためには、「行政が抱え込む」のではなく、「大方針を考えるところから市民と協働する」ことが大事になる。これまでは行政のなかだけで議論し、落とし所を決めたうえで市民との対話の場を開いていた。また、市民協働を行う領域も、あらゆる分野に広げていくべきだ。

つまり、これまでの市民参加が「行政が方向を決めて、市民とともに浸透させる」というトップダウンの手助けであったとするならば、市民協働の未来は、「市民が自分たちで徹底的に話し合った上で決断し、実行する」というボトムアップの共創を「行政の仕事のやり方のベース」にすることではないだろうか。

松井市長は市民協働の伝統をどう引き継ぐか

そして今週から、松井市長体制がスタートした。

次の記事では、「オーバーツーリズム対策に約9億円を計上。市バスの混雑解消のため、京都駅と清水寺や祇園などの観光地を結ぶ『観光特急バス』を6月のダイヤ改正に合わせて導入する。市民と観光客の利用を分ける目的で、運賃は500円を想定する」ということなどを早速発信したと示している。

まだ何もしていない段階なので、いったん方向性を示したということであろう。しかし、「首長が方針を決めて素早く実行する」という一見正しい行動が、「市民協働まちづくりを究める」という視点からすると逆行してしまうことになる。考えるべきことは、「どうしたら、すべてのことを市民が決定し、市民が実行推進することを行政は支援できるだろうか?」という問いなのだ。

行政は「市民協働まちづくりのプラットフォーム」になる

市民が決めると言っても、「多様な価値観や意見をもつステークホルダーと、どうやって対話して、どうやって合意形成していくのか?」と思うだろう。ポイントは、「行政が決めたことを市民が理解する」という原則から、「市民が決めたことを市民が実行する」という原則へと変えていくことだ。

これは、市民の合意形成を必要としているという意味ではない。行政がすべきことは、「自分で決めた市民」が「自分で実行する」ことができる、「創造的なまちのプラットフォーム」を提供するということである。そうすると、これまで行政で担っていたオペレーショナルな仕事はすべて民間に任せ、行政の役割は市民協働と、それに基づく制度設計になるだろう。変革のイメージとしては、ホテルを運営するような行政から、Airbnbを運営するような行政に変わることだ。

時間がかかるかもしれないが、ぜひスローガバメントの聖地を京都につくってほしい。100年後の今より美しい京都のまちという、ほんとうに大きなリターンとして帰ってくるはずだから。

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