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新卒通年採用とスタートアップへの就職

新卒一括採用から新卒通年採用へというニュースが話題だ。長らく続いてきた就職慣行が変わろうとしている。企業も学生も大学も、それぞれに期待と戸惑いがあるだろう。

この流れの行き着く先は、当面時間はかかるだろうけれど「新卒一括採用」とセットであった「終身雇用」と「年功序列」という古い時代の人事システムの(掛け声だけではない)完全崩壊だろうし、定年という概念も消滅に向かうのだろう。そして、最終的には、欧米では一般的とされる「職種別の通年採用」の日本での一般化が起きるだろう。

とはいえ、長らく続いていた高度成長期時代からの流れが新しい仕組みに移行していく過程では、混乱も生じるだろうし揺り戻しも生じるかもしれない。その時に、一個人としてどう振る舞うべきなのだろうか。

おそらく確実なのは「確実なことは何もない」ということだ。これが王道であるとか、これなら絶対というものが、しばらくはないだろう(本当は、いつだってないのだけれど)。状況を見ながら、臨機応変に考え方や行動を切り替えていく柔軟性が、安定した時代以上に求められる。 

そういう不安定な時期にあって、スタートアップ企業は着実に存在感を増している。海外を含めて、大企業だけが出展してきた展示会にスタートアップも出展し活況を帯びている、というのはもはや「ありがち」な光景だし、従来はベンチャーキャピタルが担ってきたスタートアップへの資金供給も、記事にある通り銀行が固い門戸を少しづつ開きつつあるのは、ちょっと前には予想もできなかった動きだ。

お金が行き場を失っているという背景があるにせよ、スタートアップに十分な資金が提供されうる環境が整ってきていることは、資金がネックになって思うような成長が果たせない、という制約が弱まっていることを意味する。

スタートアップ企業では、いわゆるCxOのポジションを中心に、大企業から転職者を迎える流れも徐々に増えてきている。日本の大企業の閉塞感ということもあるのだろうけれど、それがなかったとしても、スタートアップには、大企業にないスピード感や自分の権限と責任で事業をドライブしていけるダイナミズムがあり、そういったものを仕事に求める人にとってはお金には代えられない価値がある。これは、設立直後の外資系スタートアップの日本法人でCOOを務め、日本事業を立ち上げる機会を得た自分の実感でもある。

年収は野村時代の半分になったが、「今の仕事のほうが、自分でビジネスをやっているという感覚があり、圧倒的に面白い」と語る山下さん。「今の給料の4倍出すと言われても、もう前の会社には戻れない」と話すほど、充実した日々を過ごす。

これは1月の記事なのだが、最近になって、スタートアップ転職の賃金相場が上場企業を上回っているというニュースもある。創業10年未満の会社への転職の方が、上場企業への転職よりも平均して100万円年収が高く、過去7年の伸び率も5%と上場企業の1%をはるかに上回っている、ということだ。

従来は大企業から新興企業に移ると年収が下がるケースが多かった。構図が逆転したことで、大手で経験を積んだ人材がスタートアップに転職しやすい状況が鮮明になる。
ビズリーチ(東京・渋谷)によると大手企業からITスタートアップへ転職した人の数は過去2年で2.5倍に増えた。国内スタートアップの資金調達規模が過去最高水準で推移するなか、調達資金を人材獲得に振り向けやすくなっている。

記事にも指摘がある資金調達環境の好転が、スタートアップへの転職にプラスに働いているようだ。

未だに大手志向・安定志向が学生やその親にあるせいだろう、そういう意識の就職志望学生に対しては、有名企業は優越的な地位にあり、その地位を悪用した一部従業員による就活セクハラも起きているらしい。

そういう被害を受けないためにも、また将来、職種別の新卒にこだわらない通年採用が一般的になった時のためにも、これまでの「新卒一括採用・年功序列・終身雇用(定年制)」に代わる、新しいキャリアパス像が広く浸透することが必要だ。

例えば。

大学を出てまずスタートアップに就職をし、自分の能力を目一杯に伸ばし開花させて活躍。その後、家庭を持って子育ての時期には安定重視の既存企業に転職してスタートアップで培った能力とスキルを発揮。子育てが終わったら、再びスタートアップに転じるもよし、これまでの大企業・スタートアップ双方の経験を活かして起業するもよし、定年という概念にとらわれず健康なあいだは仕事を楽しむ、といったキャリアパスはどうだろう。

私が関わっているスタートアップの中には、賃金を支払って長期のインターンを受け入れているところもあり、そこでは大企業での短期のインターンとは全く違った職業体験が得られる。まずそんなところからでも、就職を目指す学生がこれまでとは違った視点で自分の就職やキャリア、大げさにいえば人生設計を考えるきっかけをつかんでもらえたら、と思っている。

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