ECBはインフレ率の上昇に動じず
ドイツやフランスの政治情勢の不安定を背景に、欧州の先行き不透明感はいつになく増している。金融緩和でそうした不透明感を安定させたいとの思いも、いつになく増しているはずだ。
しかしユーロ圏の11月インフレ率は10月の2.0%から2.3%へ上昇。コンセンサス通りだったが、インフレ率は7月以降で最高の水準に達したことになる。とはいえ、インフレ率の最大の押し上げ要因はエネルギー価格の前年比上昇率が4.6%減から1.9%減に上昇したことであったこと。昨年の大幅な値下がりが前年比比較対象から外れたためであり、一時的である可能性がある。これに加え、コアインフレ率がコンセンサス予想の2.7%と横ばいに終わったことも大きい。コア財価格上昇率の加速にも関わらず、横ばいとなれたのは、サービス価格上昇率が低下したことによる。金融政策に影響する程のことではなさそうだ。
来年第2四半期までに2%前後のペースに戻るという見通しにもリスクがある。明らかなリスクの一つは、米国がEUからの輸入品に関税を適用する可能性が高いこと、である。これはユーロ圏の成長鈍化(インフレには実質マイナス)、ユーロの下落(インフレには実質プラス)をもたらす公算は大きい。保護主義は概して、世界経済へのネガティブな供給ショックとなり、貿易摩擦の拡大や価格の上昇を引き起こし得る。
しかし、今後については、低成長環境や労働需給の緩和がサービスのインフレを含む基調的なインフレの下押し要因となることで、来年には再びディスインフレが始まることが予想される。実際、成長の鈍化に伴い求人も縮小することを踏まえると、このところサービスのインフレの重要な押し上げ要因となっていた賃金圧力も和らぐ可能性が大きい。そうなると、ECBは今後もインフレ率におそれをなすことなく金融政策をとれるのではないか。すなわち、中立的な名目金利の推定レンジ1.50-2.50%の半ばの2.00%に達するまで、会合ごとに25bpの利下げを進めるという従前の見方を維持できると考える