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「鏡に映った自分」に怒り続けるトランプ大統領

10年ぶりの利下げ局面へ
注目された18~19日のFOMCはFF金利誘導目標を2.25~2.50%に据え置くことを決定しました。細かい声明文の解説などはここでは捨象させて頂きますが、10年ぶりの利下げ局面が始まろうとしている、という整理で良いでしょう。今回はブラード・セントルイス連銀総裁が25bpsの利下げを主張して却下されています。しかし、政策メンバーの金利見通し(ドットチャート)では2019年末までに25bpsか50bpsを見込むメンバーが17名中8名と半数に達しています。もはや年内の焦点は利下げの「有無」ではなく「幅」(25bpsなのか、50bpsなのか)に移ったと考えたいところです。

糊代論が招いたドタバタ劇
ドットチャートを詳しく見ていきましょう。前回発表の3月時点では17名中11名が現状維持、4名が1回利上げ、2名が2回利上げを想定していました。つまり、利下げを視野に入れていたメンバーはいなかったのです。しかし、今回は17名中1名が1回利上げ、8名が現状維持、1名が1回利下げ、7名が2回利下げとかなり大きく変わっています。2回利下げの7名は「25bps×2回」か「50bps×1回」を意味しているので「7月に50bps」という腹積もりのメンバーも含みます。こうしたメンバーの金利予想は半年前と別物です。半年前までは「中立金利(≒利上げの終点想定、当時は2.75%)を超える政策金利」でマクロ環境を引き締めるモードにあったものが、今は「中立金利(今は2.50%)を下回る政策金利」でマクロ環境を刺激するモードに変わっています。ここまで性急な修正が許容されると却ってドットチャートは混乱を招くだけではないかと心配になります。


確かに、この半年間で米中貿易戦争の激化やブレグジットを巡る混乱が不透明感を強めました。とはいえ、「年4回利上げの翌年に年2回利下げ」という急旋回を要するほど経済・金融環境が変わったのでしょうか?例えばFRBスタッフ見通し(SEP、予想中央値)を見ると実質GDP成長率見通しはやや上方修正され、失業率も低下しています(図):

こうしたタイミングで金融政策運営が顕著にハト派色を強めることの正当性は分かりにくいものがあると言わざるを得ないでしょう。トランプ政権の保護主義は確かに不透明感を強めていますが、それ自体は昨年からリスク視されていたことであり、その不規則な言動も常態と言えば常態でした。インフレ基調も元々さほど強くはありませんでした。結局、ファンダメンタルズよりも「将来の利下げ余地」を作るための糊代論を主軸とする政策運営がこのドタバタ感に繋がっていると私は思います。

「鏡に映った自分」に怒り続けるトランプ大統領
目下、トランプ米大統領が追加緩和の可能性を示唆したドラギECB総裁に「口」撃を放ったことが注目されています。金融緩和を示唆したドラギ総裁に対し、「ユーロ安を促すズルをしている」、、、そんなテンションでトランプ大統領はツイッター上で吠えています。。


ですが、FRBがこれだけハト派色を強め、そうした方向転換を大統領自身が扇動してきた雰囲気も否めないことを思えば二枚舌も甚だしいと言わざるを得ないでしょう。そもそもドラギ総裁は2週間前の政策理事会で言ったことを繰り返しただけです。にもかかわらず、わざわざ大統領自らがツイートで応戦したため騒ぎになってしまいました。今後、ECBはもちろん、日銀も今後の言動に気をつけなければならない雰囲気が出てしまっています。6月19日、即座に浅川財務官が「緩和的金融政策を取ることは自国通貨安の誘導ではないのであれば、お互いに許容しようというのがG7、G20での合意」とメッセージを発しているのは誠に正しい動きです。国際的な紳士協定をツイッター1つで反故にするような動きは看過できないものがあります。これまで国内の金融政策運営や海外との通商関係など、ことごとく口を出してきたトランプ大統領ですが、他国政府ですら介入を躊躇する他国中銀の独立性に踏み込むことは異常であり、ますます孤立を招く契機になるかもしれません。

そもそも変動為替相場制の世界において通貨の方向感を恣意的に設定でき、しかもその動きに継続性をもたせることの出来る中央銀行はFRBしかなく、本来ならば最も政治的介入を排除しなければならない存在です。ドラギ総裁の発言は確かにユーロ安を誘う内容ではありましたが、結局、今回のFOMCを経てユーロ/ドル相場は騰勢を強めています。FRBや米金利、そしてドルこそが潮流を作るという事実を見せつける相場つきです。


いずれにせよ今回の会合を境にFRBは利下げ局面に入ることになります。だが、FRBがハト色を強めるほどに円やユーロに上昇圧力がかかり、日銀やECBが「次の一手」を検討せざるを得ない状況になるのです。ある意味で、通貨高に対応しようとするそれら海外中銀にいきり立つトランプ大統領は「鏡に映った自分に怒り続ける」という不毛な行為に勤しんでいるようにも見えます。

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