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夏休み明けに考えたい「子どもって何で毎日学校に通ってるんだっけ?」の話

文部科学省は今月,不登校の高校生への支援として,自宅での遠隔授業により単位が取得できる仕組みを認める方針を決めました。

高校生の不登校支援は,小中学生のそれとちょっと違う

実は高校生の不登校は,小・中学校の不登校に比べると支援対象になりにくい側面がありました。その大きな一つの要因は,「義務教育でないこと」。小・中学生であれば,例えば授業に出席できていなくても,保健室や別室,もしくは行政によって設置された学校外教室(教育支援センターや適応指導教室と呼ばれている)に行くことが登校とみなされたり,課題をこなし教室への復帰を目指すということが日常的に可能で,私たち支援者にとってもさまざまなサポートのバリエーションを考えることができます。

一方で高校生は,「義務教育じゃないんだから行くも行かないも本人の自由だよね」という前提が一定程度あることに加えて,教室で行われる授業に出席してはじめて「登校」なので,一般的には学校としても対小・中学生ほど指導・支援が手厚くはありませんし(つまりある意味では本人任せ),教室復帰のためのスモールステップも,設定のしようがないことも多いです。

一般的に,一度不登校になってしまうと,元通りに学校に毎日通い,授業を受け続けるまでには,それなりの困難が伴います。それは高校生でも例外ではなく,小・中学生よりは大人に近づいた存在とはいえ,つまづいたり,迷ったり,息切れしたり,壁にぶち当たったときには,まだまだ密な大人のサポートが必要なのです。

その意味では,国が「教室で授業を受ける」以外の方法を認める方針であることは,高校生の不登校支援に新たなバリエーションやステップができることに他ならず,素晴らしいことだと思います。そしてこれは単なる不登校支援にとどまらず,中高年含めて100万人以上いると推計されている「ひきこもり」の予防や,社会不適応に起因する若者の自殺予防のためにも大きな意義があると私は思っています。

一方,多様な学び方を認める感じにしていくと挙がる心配

数年前から文部科学省は,学校以外の学びの場についての多様性を認める方向性を打ち出しており,これは「学校復帰することだけが不登校の解決ではない」という方針をベースにしています。しかしそうした方針に対して,「甘やかしだ」「ずっと学校に行けず余計にひきこもりが増える」「逃げることがクセになる」「まともな大人にならないのでは」などという声が一部から上がることがあります。

これは私たち日常的に支援している立場からすると,的を射ていない指摘なわけですが,一方で十分心情は理解できるという場合もあって,それは上記のような見方を,不登校の子を持つ保護者(親)がする場合です。

もちろんこれは,我が子を思い,心配すればこそ,というのが前提としてあります。しかしそのように考えてしまうと,親子共々心理的に追い込まれてしまうことも少なくありません。なぜなら,どう思おうが,焦ろうが,努力しようが,一定の不登校期間を受け入れなければいけない場合も少なくないからです。

不登校の子どものキモチ

一度オーバーヒートしてしまった心は,そう簡単には元には戻りません。多くの大人は,経験的にそれを理解しているはずです。でもいざというときになると,それを忘れてしまいます。

特にこの夏休み明けの時期は,不登校傾向のある子どもにとって,「1学期がんばったけどもう疲れた」「学校がない夏休み期間でいろいろ考えて,やっぱりキツいって気がついた」「次の長期休みや年度末までまだまだあるよなあ・・・」と,途方に暮れたり気持ちが切れたりする状態になりやすいです。そんなときに,いくらがんばっても気持ちを元気にすることはできにくいですよね。表面的には元気そうに見えても・・です。私たちが話を聞くと,自分の不登校に罪悪感を持っていない子どもは,ほぼほぼ居ません。

じゃあ大人はどうすりゃいいのか

そんなときこそ,「そもそも子どもが学校に毎日通うのって,何のためだったんだっけ?」と考えてみることです。表面的には「受験のため」「通知表の数字を上げるため」「そもそも行くの当たり前だし」「子どもの仕事は勉強だから」といったことが思い浮かぶかもしれません。

でももっと大事なのは,①心身ともにある程度元気な状態で,②友だちや先生といろんな経験をして,③社会のしくみや世の中のことを学んで欲しい,④もちろん勉強もだけどね,ということで,これにはほとんど全ての保護者に異論がないのではないでしょうか。

と考えてみると,子どもが大人になるための過程として,これらをいかにして経験するかが大事であって,学校に「行く/行かない」だけが大事ではないこと(あれ?大人の頭と経験で考えたら,他の方法もあるかも?)に気づくかもしれません。

そもそも,不登校の状態は,個人差はあれどある程度他者に対する不安や不信があったり,上記の通り心も身体も元気ではない状態です。それだけで,①②は満たせなくなっている状態です。

であるならば,また学校にどうしたら通えるのか?ということを考えることはしつつも,一方で学校外での毎日の過ごし方を考えることが,心や身体の回復につながるかもしれませんし,家族などの不安なく一緒にいられる存在と時間を過ごすことが,他者との共同体験として子どもの中に積み上がっていくかもしれません。

人生において何が大事かに気づけるのは大人の特権

実際のところ,「''学校に行けない時間''をどう元気に過ごすか」「不登校の期間に親子で何をするか」を重視して考えていくほうが,不登校という不適応状態から抜け出すまでのスピードが早かったり,長い目で見たら子どもの成長につながるケースが少なくないのです。

大事なのは「出席日数」ではなく「どんな時間を過ごしたか」です。大人の経験と知識を活かして,人生の充実のさせ方や毎日の楽しみ方の見本を見せたり,教えてあげられるようになれるといいなあ・・と私自身日々思っています。

そうは言っても,子どもが学校に行けなくなったら,親は焦るし,混乱するし,仕事もあって余裕もない・・それが現実でしょう。子どもの年齢が低ければ,やむを得ず仕事を休まなければ行けない場合も多分にあると思います。あるいは「なんでこんなことに・・・」と考え込むこともあるでしょう。

親とはいえ大人も完璧な存在ではありません。無理しなくていいですできる範囲でいいです。学校や専門家を頼ってもらってももちろんいいですし,SNSや友人,家族に存分に愚痴ってください。

でもまずは「うちの子に学校行かせる意味って何だっけ?」「うちの子,今どういう状態なんだろう?」「私たち親子って,周りからみたら今どんな感じに見えるんだろう?」「なんで今私は焦ってるんだろう?」「どうして追い込まれてる感覚があるんだろう?」といい意味で冷めた目で自分たちを見てみてください。危機的に感じるときほど,自分自身を客観的に見ることができれば,おそらく悩み自体は半分くらい解決し始めています

私たち支援者・専門家も,その助けになれればという一心で,これからもピンチを脱するための作戦会議を,一緒に開いていきたいと思っています。

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