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森元首相発言から自分の会社を見直そう。そもそも日本は劣等生。

「男女平等」は国際的な優先事項

2月3日(水)の日本オリンピック委員会(JOC)の臨時評議員会の場で、東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長の発言から起きた騒動は、週末をはさんでも収まる兆しが見えない。「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる。女性は競争意識が強いから、誰か一人発言すると自分も言わないといけないと思うのだろう」という女性蔑視とも取れる発言内容に、国内だけではなく、国外からも非難が起きている。

欧州各国の在日大使館は、Twitter等で「男女平等」や「黙っていないで」と呼び掛ける趣旨の投稿をして、問題をうやむやな状態で終わらせるべきではないと意思表示している。

カナダの国際オリンピック委員のヘーリー・ウィッケンハイザー氏は、森氏の発言に対して、かなり厳しい語調で批判している。

これらの批判に治まる様子が見られないのは、森氏や東京五輪・パラリンピック組織委員会の対応だけに原因があるのではないだろう。それだけ、現在の国際情勢は「男女平等」、ひいては「差別是正」を最重要視しているということなのだろう。そのため、国内のみならず、海外からも大きな批判が起きている。

このことは、多くの日本企業にとって対岸の火事と笑っていられる問題ではない。さすがに、対外の場で森氏のような発言をすることはほとんどないであろう。しかし、制度や仕組みは女性やマイノリティにとって不利なものになっている企業は少なくない。

日本は女性が活躍できない国

一昔前に比べると、日本も働く女性が増え、珍しくはなくなってきた。厚生労働省の資料によると、令和元年度の女性の労働力人口は3,058万人であり、漸進的ではあるが増加傾向にある。男性の労働人口が3,828万人であるため、全労働者のうち44.4%が女性ということになる。この値は、諸外国と比べて特段低いわけではない。就業率は内閣府の男女共同参画局によると67.4%であり、米国とオーストラリアの中間に位置している。OECD平均よりも高い水準だ。つまり、就労機会としては世界的に見て日本が批判されるところは特に見当たらない。

しかし、労働の質に関しては日本の課題は大きい。最も端的なのは所得差だ。OECDによる男女間の賃金格差の国際比較では、男女の平均賃金の格差はOECD平均が13.6%であり、24.5%の日本はワースト2位だ。最も格差が大きいのは韓国の34.6%であり、他国と比べて日韓の値が突出している。そして、この割合はこの10年、ほとんど変化していない。

日本の男女の賃金格差を生んでいる大きな要因は2つだ。1つは、女性の就業形態として非正規社員の割合が多くを占めるためだ。賃金水準の低い非正規の割合が増えると、当然、平均賃金も下がってしまう。もう1つは、管理職や役員といった高所得を得る職種に就く女性の割合が低いためだ。

非正規は「終わり」を設けるのが基本ルール

厚生労働省の国民生活基礎調査によると、15歳以上就業者の世紀・非正規構成比率は、男性の22.3%が非正規で女性の56.4%が非正規だ。このことから、男女の賃金格差の大きな要因として女性の非正規雇用があることがわかる。このことは日本全体の平均賃金の低さにも影響を及ぼしている。リクルートワークス研究所の坂本 貴志研究員は、日本の平均賃金が低迷している要因として、この30年で女性の非正規雇用とシニアの再雇用制度が影響していると述べる。

当然、日本政府もこの問題を重く見ている。有期雇用の無期転換や同一労働同一賃金など、近年の法改正は非正規雇用による賃金格差の是正が大きな狙いだ。

非正規雇用は日本に限った話ではない。オランダのランスタッドやスイスのアデコのように人材派遣業のグローバル企業があるように、諸外国にも非正規雇用はある。そして、多くの場合が日本と同様に現場のオペレーターや事務員、製造ラインの工員として勤務している。

しかし、日本と大きく異なるのは、ずっと非正規で働き続けることができないように労働法で整備されていることだ。日本でも5年以上勤務した非正規雇用の無期転換が義務化されたが、フランスやドイツでは日本よりも厳しい条件が付けられている。これは、非正規雇用は正社員になる前の準備期間であり、雇用形態として常態化させないという基本原則があるためだ。

なお、このような原則があるため、ドイツやフランスの派遣社員は日本と比べて待遇が良いとは決して言えない。有期で働くことができる期間は日本よりも短く、派遣社員の単身赴任や突然の解雇は当たり前だ。そのため、フランスでは派遣社員に職業訓練を提供し、正社員への転換を支援している。

つまり、日本と欧米の非正規雇用の大きな違いは、派遣社員などの非正規雇用者が長く今の状態でも構わないと思える環境にある。日本は非正規雇用のままでも働き続けることがしやすい環境ができているが、欧米では法規制や政策で非正規で長く働くことのインセンティブを制限している。

そもそも企業は男性にゲタを履かせている

今回の森氏の発言に最も直接的に問題があるのは、管理職や会社役員といった高位のポストに対する女性割合の低さだ。日本は、とりわけ女性が組織の中で重要なポストに就く機会が少ない。

もともと、欧米企業も男性社会で成り立っていたため、女性割合を増やすために導入されたのがクオータ制だ。女性のために一定割合の定数を設けてしまうことで比率を高める施策だ。この施策を受けて、五輪関係の委員会も男女比に偏りが出ないようにコントロールしている。

このように予め数値を決めたうえで運用をすると、当然、既存のシステムと歪が生じる。森氏の騒動も、この歪のパターンの1つだろう。歪はいくつもの形で現れる。例えば、女性優遇で男性への逆差別だと筋違いな不満を言ってくる人々もいる。また、マイノリティである境遇に負けずに成果を出した女性社員をロールモデルとして祭り上げたものの、若手社員から「あんな苛烈な生き方はとてもできない」と逆にモチベーションを著しく下げることもある。

これらの問題の根底にあるのは、そもそも既存の組織が男性優位を前提として作られているためだ。ある企業人事の方にヒアリングしていたとき、「2回目までは産休をとるのは良いが、3回目以降は産休を取られるのは困る」と言ってきたことがある。これも、子供ができても休まない男性が標準で、産休はキャリアにとって足かせと考えているから出る発言だ。そのとき、男性社員の代わりに産休に入っている配偶者の犠牲は考えていない。既存の男性優位のシステムは女性配偶者の犠牲を前提としているのに、そのことに無自覚だ。つまり、既存の制度は男性にゲタを履かせたものを標準としている。

男性にゲタを履かせているということは、その水準まで女性にゲタを履かせようとおもうと、当然のことながら会社内にも従業員の私生活にも支障が出てくる。その結果として、「私は子供を産んだけど、次の日から顧客と商談していました」という武勇伝を語るような人々を生み出してしまう。

男女平等とするのであれば、男性が無自覚で履いているゲタを意識し、そのゲタを排除するのもセットで行わないといけない。そうではないと、女性にとっても、男性にとっても負担の大きな制度や施策になってしまいがちだ。

ゲタを除くことはかなりの抵抗感がある行為だ。しかし、長期的な視点で見ると逆に生産性があがることも期待ができる。近しい例では、自動車メーカーでは女性やハンディキャップを持つ工員を増やすために、立ち仕事や力仕事が発生しないように業務環境や機械工具の改善を行った。その結果、男性工員も無理をする必要がなくなり、全体的な生産性が向上している。

企業の取り組みだと、2016年からリクルートで取り組んでいる男性育休必須化も女性活躍推進を活性化させている。同じように、2018年から男性育休1か月の制度を導入している積水ハウスでも成果は上々だ。両社ともに、女性だけではなく男性社員にも良い効果が出ていると述べている。

女性比率をあげるだけではなく、活躍することまで目指して取り組む施策を「インクルージョン」と呼ぶ。インクルージョンを成功させる秘訣はいくつもあるが、男性のゲタを外すこともその1つだ。

森氏のような問題を自社内で起こさないためにも、自社の中に存在する無自覚な男性のゲタを見つけ出そう。そして、男性のゲタを外し、男女ともにフラットな環境を作り出すことが女性活躍推進に効果をもたらすことになるだろう。



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