会社とその業績は、人の心を映したものである
先週、京セラの「みなとみらいリサーチセンタ」のイベントに参加させていただいた。
https://www.kyocera.co.jp/rd-openinnovation/mm-openingevent.html
攻殻機動隊で有名な押井守氏、ソニーの北野宏明氏、身体拡張の稲見昌彦氏などのパネルはもちろん面白かったが、より個人的に響いたのは別のところにあった。
京セラの研究所幹部のご挨拶の中で、「人として正しいかで判断する」「企業は人の心を映している」などの創業者の稲盛和夫氏の言葉が、いかにも自分の言葉のように口をついて出てくるのが耳に残った。しかも、その口調の自然さから、それがこのスピーチ用に、とってつけたものではなく、日々の中でいつも自ら話していることが、その非言語表現から伝わってくる。
改めて稲盛氏の最新の本「心」を読んでみると、まさに企業とその業績は、人の心を映しているものであることと、人として正しい心を持つことことの重要さが体験とともに、まっすぐに綴られている。
稲盛氏は独自の哲学と経験からこの結論に至ったものと思われるが、私が、ことさら素晴らしいと思ったのは、この実務と経験から出た哲学が、最新の経営学や心理学の知見とも整合する点である。
この20年のポジティブ心理学や経営学の動きの中で生まれた概念の中で特に注目すべきは「心の資本」という概念である。これは米国の経営学会の会長も務められたフレッド・ルーサンス教授が構築したもので、持続的な幸せと組織パフォーマンスの中核にある要因を明らかにしたものである。具体的には、Hope、Efficacy、Resilience、Optimismからなり、その頭文字をとってHERO withinと呼ばれている。自ら道を見出し(H)、自信をもって行動し(E)、困難には立ち向かい(R)、常にポジティブなストーリーを作れる力(O)のことをいう。これらは、訓練や学習によって高めることが可能で、性格的なものではないことが知られている。というか、持続的な幸せの要因のうち、そのような向上が可能なものを「心を資本」と呼んだわけである。
このように、持続的な幸せとは、日々の人生の中で常に試行錯誤し前進し続けることの中にあるわけであある。従って、持続的な幸せは、決して楽することではないことは明らかである。しかも、決して環境や他の人から与えられるものでもない。これは、多くの人が「幸せ」「ハピネス」という言葉に対して持っているイメージとは大きく異なる。スマイルマークに代表されるイメージではない。
急速な変化の中で、従業員やマネジャーの「心の資本」を高め続けることが、企業の業績と従業員の幸せのために必要である。一方これに失敗して「心の資本」が低下するようになると、業績、幸せ、心身の健康、離職の悪化に直結するのである(これは学術的にも確立されている)。
従って「心の経営」こそが全ての基本にあるのである。まだ、京セラや稲盛さんほどの真剣さで「企業は人の心でできている」と正面から捉えているところは少ないと思われる。この変化の時代にこそ、この京セラの取り組みはモデルになると思った。
しかも、稲盛氏が独自に仕組みをあみ出した時代と、今は違う。この心の資本を科学的に高める方法やツールや科学的知見やデータ取得の手段も確立されている。このような経営の実践こそが、次の日本を創る鍵になるのではないだろうか。