オープンなウェブ世界とジェネレーティブAIの終わりなき戦いが始まる
対話型AIのChatGPTが、ついに日本でもスマホで利用できるようになりました。まずはiPhone版だけですが、近いうちにAndroid版もリリースされそうです。
インストールして使ってみると、ウェブ版と同じように有料プランであれば最新のLLM(大規模言語モデル)であるGPT-4が利用できます。
音声入力できるChatGPTアプリは一気に普及するか
そしてもうひとつ大きなポイントは、OpenAIの音声認識技術「Whisper」が導入されており、標準で音声入力ができるようになっていること。これからはスマホで気楽にAIに質問し、回答を得るという利用スタイルが定着していきそうです。どのような活用方法があるのか、より良きプロンプト(指示文)はどのようなものなのか、といった点も世界中の人々が猛烈な速度でチャレンジを続けており、可能性は無限に広がっていくでしょう。
その大いなる可能性は、同時に既存のさまざまなビジネスの破壊の可能性も秘めています。
たとえばグーグル。いまも検索広告やユーチューブ広告などからのアガリが、営業利益の大半を占めている広告企業です。しかし対話型AIが検索エンジン代わりに使われるようになってしまうと、屋台骨の検索広告が揺らいでしまいかねません。そこで対話型AIに広告を組み込むモデルを必死で模索している模様です。
ジェネレーティブAI時代にウェブメディアはどうなる?
対話型AIが破壊するもうひとつの大きな可能性は、ウェブメディアです。
フォーブスのこの記事が指摘しているように、対話型AIはウェブを収集して集められたデータを学習し、そこから質問への回答を作成しています。なにかの調べものの必要があった場合、従来はわたしたちは検索エンジンで検索し、その検索結果ランキングからURLをクリックしてリンク先の記事を読むなどして調べていました。
しかし対話型AIを使えば、わたしたちはウェブメディアに掲載されている元記事を読む必要がなくなってしまいます。そうするとウェブメディアのページビューは低下し、広告収益も減少してしまい、メディアビジネスが成立しなくなってしまう可能性があります。
かといって、では対話型AIの「圧勝」となるのかというと、そう簡単でもありません。ウェブメディアが潰れて記事が量産されなくなってしまうと、対話型AIは最新ニュースについて学習するデータがなくなってしまうからです。すると対話型AIの信頼度は低下してしまう。
ウェブメディアの側が、AIにデータを収集されることを避けようと完全な有料化に踏み切る可能性もあります。この場合も同様にAIはペイウォール(有料の壁)に阻まれて、記事を学習できなくなってしまい、やはり信頼度が低下してしまうでしょう。
ジェネレーティブAIとウェブ世界は共存共栄
対話型AIや画像AIなどを総称してジェネレーティブ(生成型)AIと呼びますが、ジェネレーティブAIはオープンなウェブ世界を栄養として繁殖していきます。オープンなウェブ世界が枯渇してしまえば、ジェネレーティブAIも枯れてしまうでしょう。
だったらジェネレーティブAIを追放してしまえば、昔通りの平和なウェブ世界が戻ってくるかもしれません。新たなAI規制を進めようとしているEUはその方向を望んでいるようです。しかしテクノロジーは昔も今も、いったん走り出したら止まることはありません。もし停止するとしたら、それは文明が崩壊したときだけです。古代のローマ帝国が滅んで水道やコンクリートの技術が失われたように。
EUがジェネレーティブAIを規制しても、LLMのテクノロジーは他の国で生き延び、進化を続けていくでしょう。世論調査を見ると米国でもAIに懐疑的な意見が増えているようですが、日本人は今回に限ってはジェネレーティブAIに前向きです。そしていわずと知れた中国。中国が巨大な人口を背景にして、プライバシーも含む国内の膨大なデータをジェネレーティブAIに学習させれば、LLMで一歩先を進んでいく可能性は十分にあります。その時、欧米はどうするのでしょうか。
長い目で見れば、わたしたちはジェネレーティブAIと折り合って付き合っていくしかないのではないかと思います。そしてジェネレーティブAIが成長を遂げていくためには、オープンなウェブ世界がやはり必要だという議論も出てくるでしょう。
自律分散か、それとも中央集権か
ウェブの世界では2010年代、日本でGAFAMと呼ばれるようなビッグテックの支配が行き過ぎ、これら企業群への一極集中を終わらせオープンなウェブ世界を再興しようという目論見でWeb3のムーブメントも起きてきました。いっぽうでAIはデータを集約させることによって成立するテクノロジーで、Web3とは対極にある一極集中、中央集権です。
自律分散するオープンなウェブ世界と、一極集中し中央集権的に支配するジェネレーティブAI。この二つがどのようにして共存し、ともに栄えていくことができるのかというたいへん興味深いテーマがいま浮上してきています。