ものづくりやブランドを徹底的に深化させる方法
世界一のモノをつくりたい。ものづくりを行っているとこんな欲望が沸々と湧き上がってきます。今日よりもっと良いものをつくりたいと常に願いながら品質を上げていくことは容易ではない現実に毎日打ちのめされます。2021年最終noteはこの1年で私が感じたものづくりを深化させるトリガーをまとめてみたいと思います。
制約条件がものづくりを深化させる~事例:Minimalのコロナ禍でのものづくり~
Minimalにおける私の役割の一つがカカオ豆のバイヤーです。
しかし、コロナ禍で2020年1月に帰国以来、農園に行けていません。
Minimalでは実際に農園にいって毎年カカオ豆の品質向上に向けて農家にフィードバックしたり、発酵乾燥のやり方を一緒に実験したりしていますが、当然メールやZoomなどのやりとりでなかなかうまくいきませんでした。
そして、一番厳しかったのは、世界的な物流の混乱で、買い付けした豆が想定より1ヶ月以上遅れて到着する事です。Minimalでは世界的にもほとんどない、カカオ豆を温度管理したコンテナで輸送していますが、それでも海上に想定以上の長時間ある環境だと品質が荒れました。
正直買付を決めるときに判断するサンプルロッドを理想の状態とすると、届いたときにそれに近しい品質で使えるモノは、10袋あれば2袋程度という肌感覚です。
このように自分達ではどうしようもない、厳しい制約条件にさらされた時こそがものづくりを深化させるチャンスだと気づきました。
実際に豆の品質が想定より厳しいとしてもお客さんには関係無い事です。プロとして最高に美味しいチョコレートでなければお出しできないのです。
実はこの厳しい制約条件下で、様々な技術的深化が起こりました。
例えば、長時間輸送でついてしまったオフフレーバーをなくすための新しい製造方法が生まれました。
例えば、長時間輸送で劣化してしまった豆の香りを戻すために、熟成をさせる新しい保管方法も生まれました。
そうなんです、どうしようもない制約条件があるときこそ、ものづくりを深化させる最高のチャンスなのです。
コラボレーションがものづくりを深化させる~事例:開化堂とのものづくり~
※出典:開化堂HPより
ブランド同士においてコラボレーション相手がとても大事になると思います。色々な軸があると思います。近しい業界(例えばチョコレートとスイーツ、チョコレートとコーヒーなど)もありますし、全く異なる業界(チョコレートと伝統工芸、チョコレートとアパレルなど)も。コラボレーションという言葉の程度は広く様々なものが見られると思います。
Minimalにおいてのコラボレーションは、「ものづくりに真摯に志をもち、心から共感できるブランド様と新しい何かのものづくりを行う事」と定義しています。
私自身の経験からもコラボレーションが本当の意味で効果をもつのは、分野は違えど、同じ強度でものづくりをしているプロフェッショナルと、一緒に新しいモノをつくり出すプロセスを経ることだと実感しました。
例を挙げるとたくさんありますが、その中でも今年は開化堂さんとの取り組みは個人的にこころに遺っています。
コラボレーション例1:開化堂&Kaikado Café
開化堂とは:文明開化の明治八年(1875年)、開化堂は英国から輸入されるようになった錻力(ブリキ)を使い、丸鑵製造の草分けとして京都で創業。一貫した手づくりで一世紀を過ぎた今もなお、初代からの手法を守り続け、一世紀以上茶筒づくり続ける老舗。
その開化堂さんが「開化堂の応接間」として運営されているKaikado Caféさんで提供されるコーヒーに合わせたオリジナル板チョコレートをコラボレーションで開発させて頂きました。
その際に、開化堂6代目八木隆裕さんから頂いたお題は「コーヒー定食」。コーヒーがご飯、チョコレートがおかず&デザート。
オリジナルコーヒーに対して、2種類のチョコレートを合わせています。
東京と京都を何度も往復しながら、双方で何度も試作を繰り返しました。
お客さんがKaikado Caféさんでコーヒーとチョコレートを食べて、お店をでて最初の交差点で信号待ちをしている時にふと振り返って、「もう一回食べたいな」と思えるコーヒー&チョコレート定食というイメージをチョコレートというモノを通して具現化するプロセスはロジックでは表せない感覚のすり合わせ。
もちろん一番最初の打ち合わせは、Minimalの職人と京都にお伺いさせて頂き、Kaikado Caféでコーヒーを飲んで、開化堂の工房をご案内頂きました。
なんとも形容しがたい不思議な感覚ながら、相手のものづくりを少しずつ理解していくプロセスで、映し鏡のように自分達のものづくりのことが理解できるという体験でした。
Kaikado Caféさんでチョコレートを食べれますので、ぜひ京都に行かれた際はお立ち寄り下さい。
“同じ事を2度とつくらない”という括りがものづくりを深化させる~事例:新政酒造とのものづくり~
※撮影 / 堀 清英
ものづくりに徹底的に括っているブランドとして私が尊敬しているブランドの一つに秋田の新政酒造さんがあります。
コラボレーション例2:新政酒造
「秋田県産米を生酛純米造りにより六号酵母によって醸す」という方針のもと秋田県で栽培された酒米を用い、 酒母には江戸期の伝統製法である「生酛」のみを採用。また酵母は当蔵で昭和5年(1930年)に採取された「きょうかい6号」(六号酵母)のみですべての酒を醸造しております。さらに最近は、38本もの「木桶」を保有し、その製法の継承を模索しているほか、秋田市の山間農村「鵜養」(うやしない)にて、無肥料・無農薬の自然栽培により、酒米の栽培に取り組んでいます。新政酒造は地域性を尊びながら、本来の日本酒の姿を求めて様々なチャレンジを続けています。
Minimalでは昨年から新政の日本酒を入れた生チョコレートを一緒につくらせてもらっています。この年末に発売したもので2回目です。
実は1回目と今回の2回目は日本酒とカカオを使った生チョコレートという共通点はありますが、その内容や最終的なアウトプットは似て非なるものに仕仕上がりました。
なぜその違いが生まれたかというといろんな要因はありますが、私の解釈ですが、端的に言うと“同じものは2度とつくらない”という徹底的な括りです。
その括りは、新政酒造8代目 佐藤祐輔さんの美意識から来ています。
2回目の日本酒生チョコレートを造った際にその強烈な美意識の洗礼を浴びました(笑)
日本酒を入れたチョコレートを10種類以上造り、第1試作を食べて方向性を決めるMTGの時です。試作を食べた際の佐藤さんの顔があまり明るくありません。それは日本酒とカカオの可能性という意味で言うと、1回目と同じ構造でものづくりをしている域から出ていなかったからです。
実は私もその事を気づいていましたが、それでも試作はどれも完成度があり、十分に商品としてだせるものであるとは思っていました。
そんな私の甘さを見透かされたのかw
佐藤さんから「面白くないし、これじゃあだめですね」とスパッと頂きました。
そして、そこからあれやこれや色んなアイデアや考えのディスカッションが始まりました。話し出すとこれだけでnote1本は書けてしまうので(笑)、以下に詳しくプロセスやアウトプットの詳細が記載しているので興味のある方はご覧下さい。
そして、そのプロセスを経て、最終的には「日本酒を醸すプロセスでできる白麹甘酒で、チョコレートの甘さを置き換える」と、恐らく世界でも初めて試みではないかという、日本酒✕白麹甘酒✕カカオという全く新しい生チョコレートが生まれました。
新政酒造の日本酒は同じラインでも、方向性は守りながらも、毎年深化し、全く新しい味を更新しています。それは佐藤さんと話すと、明確にわかります。
「美味しいものをつくる事は大前提で、歴史を背負い、未来に向けて、そのものづくりを常に更新し続ける事」
それがつくったものに、美味しいという事以上の、“気配“や“気概“を宿すのだと教えてもらいました。
だから新政酒造には全国に熱狂的なファンがたくさんいるんだと理解できました。
プロフェッショナルとは我を通せる事
ものづくりには終わりはなく、ずっと続けていく事です。その中で、今よりももっとより良いものをつくりたいとどんどん欲がでて、ひたすらにものつくり続けていきます。
それを永遠に繰り返して、ものづくりを少しずつ深化させていきます。
正直そのプロセスの中で行ったり来たりします。本当に深化しているか不安になると思います。僕も同じ事を繰り返して、迷走して、本当にものづくりが深化しているのか毎日不安になってますし、事実として多くの時間は深化を感じる事ができず心が折れそうになります。
そんなときに前述の新政の佐藤さんの言葉が指針になると思います。
先日行った佐藤さんとのインスタライブにて、お客さんから「佐藤さんにとってプロフェッショナルとはなんですか?」という質問の回答です。
「プロフェッショナルとは我を通せる事」
それはエゴとかそういう次元の話ではなく、これまでの常識を更新するんだという気概でものづくりをするからこそ、これまでの常識でどうこうとか、人がこう言ったからどうこうとか、ということに惑わされることなく、ひたすらに自分が納得いくまで我を通してものづくりを続けることが大事だという意味です。
※実際のインスタライブは以下からご視聴できます。
正直とても大変な道ですが、ものづくりの深化を続けていくと、それを愛して頂けるお客さんや仲間ができて、もっとものづくりが面白くなります。
僕らのものづくりはまだまだですが、もっともっとその深化を目指して頑張っていきたいと思います。
2021年最終noteは僕のエゴというか、我が儘で、書きたいことをエモく書いてしまいましたが、最後までお付き合い頂きましてありがとうございました。
ものづくりはなんて深くて、面白いんだという気持ちを忘れず2022年も努力していきたいと思います。
皆様2022年も山下とMinimalを宜しくお願い致します。
※Minimalのチョコレート&SNS
ぜひ年始のお持たせやお年賀などの挨拶品にMinimalのチョコレートをご検討いただければ幸いです。
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