WeWorkドキュメンタリーから見る「働き方」の変化
日経COMEMOの読者にも、WeWorkを使ったことのある方は多いかもしれない。自分も学生時代、スタートアップのピッチをしたり、VCとミーティングを行ったりするためにオフィススペースを利用した経験はある。スタートアップ界、テック界、そしてさらには不動産業界においてまで急成長を遂げたWeWorkがなぜ没落してしまったのか、その経緯を追ったドキュメンタリーが衝撃的だった。
「WeWorkの急成長と没落を追ったドキュメンタリー映画『WeWork: Or The Making and Breaking of a $47 Billion Unicorn』の配信が、米国のHuluで始まった。集められた映像からは、カルトのような熱狂的な集団を率いた共同創業者アダム・ニューマンのカリスマ的な側面が見えてくる一方で、過激なまでの欲望と誇大な自己像が浮き彫りになってくる。」
Pelotonの「コミュニティ性」に通ずる「カルト性」についても、いつか改めて言及したい。WeWorkはコロナ以前に隆盛を経験し、Pelotonはコロナ中に支持層を莫大に増やした。同じ「コミュニティ」に着目したサービスでも、あくまでもアナログな「オフィス」という商品を過剰なブランディングによって過大評価を得たWeWorkと、実際にミレニアルに共鳴するようなシームレスかつパーソナルな技術を用いたPelotonの間では現状大きな差が見られる。
ドキュメンタリーで強調されていたのが、WeWorkの「テック」の側面の誇大広告と実態の差だ。WeWorkはコロナによって経営不振に陥ってしまったのだと考える人も少なからずいるが、以下の記事でも書かれているように、実際の原因はたくさんの中身の伴わないマーケティングによって生まれた「身の丈に合わないHype」とそれに応じて加速した投資だ。
「WeWorkの目論見書には、「テクノロジー」という言葉が97回も登場する。同社はその「使命」として、「世界の意識を高め」、「人々の働き方、暮らし方、成長の仕方を変える」ことを謳っている。これらはすべて、「当社の広範な技術インフラによって結ばれている」とWeWorkは述べている。
しかし、そのテクノロジーを探しても、何も見つからない。確かに、WeWorkにはメンバーがサービスを予約したり、メンバー同士がつながったりするためのアプリがあるが、それはRegusをはじめとする多くの企業も同様だ。WeWorkは、会員の利用状況をモニターし、それに応じて建物の設計や調整を行っていると主張しているが、それは最近では多くのデベロッパーや家主が行っていることでもある。
ウォールストリートの投資家たちは、この錯覚効果に免疫がないことがすぐに明らかになった。人々は、単に「ハイテク」という言葉を繰り返すだけでは十分ではなく、WeWorkのリースモデルなど、ビジネスの他のもっと物議をかもす側面に興味を持ったのだ。
それがWeWorkの最大の欠点であり、利益を上げられなかった最大の理由でもあった。同社は、巨大なビルを10年、15年、20年と長期にわたって賃貸していたが、そのスペースを「会員」に転貸しており、会員はわずか1カ月の予告で退去することができた。WeWorkは家主とこのような長期リース契約を結び、その代わりに同じくらい長いフリーレント期間(12カ月、20カ月、さらには36カ月)を取ることができた。最初の2年半ほどは、WeWorkは家賃を払わずに会員から現金を得ていた。一方で、全体の運営を維持するためには、センターをどんどん開設する必要があった。」
さらに、WeWorkが美化したような「ハッスルカルチャー」に(自分を含め)Z世代の多くが共鳴せず、むしろ「ダサい」と感じていることにもここで触れたい。(共鳴していなくとも、カルチャーとして内包してしまっている、という問題もまた別で存在する。)
ミレニアル世代が「ガールボス」に代表されるような資本主義的なリベラリズムを象徴するとすれば、Z世代的価値観は資本主義や「働き方」の概念自体の廃主主義だと言える。不安な経済状況といつ崩れてもおかしくない社会を若い頃から経験しているZ世代は、メンタルヘルスを害してまで会社の中でのランクを上げたり、上司に気に入られたりすることに興味がない人が増えている。(実際にTikTokやSNSにおいても、「働くこと」に絶大な嫌悪感を抱き、その違和感を吐露する人が多く見かけられる。)
個人的に注目している本「An Ordinary Age」の販売が5月4日に開始される。その作者のStauffer氏が寄稿した記事の一部が、まさにここで伝えたいことと繋がってくる。
「個人主義と資本主義の組み合わせにより、私たちはより多くの時間を働くようになりました。もちろん、自分のやっている仕事が好きであれば、その時間はより簡単に、より早く過ぎていくと考えますが、このような展開の構造を批判することはできません。また、「ワーク・ライフ・バランスの実現」は、搾取ばかりしている企業側ではなく、個人に負担を強いることになります。現在の仕事のシステムは、肩書きや収入、夢のある仕事と、野心や価値、自己価値とを強く結びつけていますが、このシステムは私たちを裏切っています。もし私たちが自分自身であるならば、夢を持つことや仕事以外のことをすることには価値があり、夢のある仕事を唯一の識別子としなければならないというプレッシャーは大きなものであると再考する価値があるでしょう。仕事はあくまでも仕事であり、他のことで充実した人生を送るための手段であってもいいのです。特に、最も平凡な自分と最も卓越した業績が常に隣り合わせであることを知っている場合はなおさらのことです。さらに複雑なのは、仕事が自分の気持ちと無関係だとは考えられないことです。だからこそ、若い人たちは「充実した」「意味のある」「重要な」仕事を求めているのかもしれません。」
WeWorkのドキュメンタリーでも、この最後の一文と非常に似た台詞が登場する。「ミレニアル世代は仕事が欲しいわけじゃない。キャリアが欲しいというわけでもない。彼らは天職が欲しいのだ。」