銀行APIが開くデジタルネイティブな金融

どうも、すべての経済活動を、デジタル化したい福島です。

今回のテーマは2017年の銀行法改正により、金融機関の体制整備が努力義務となったオープンAPIです。
銀行APIを活用したイノベーティブな金融サービスを阻む課題について考えます。

(金融専門誌「週刊金融財政事情」へも同様の内容を寄稿しております。)

はじめに

さて本論に入る前に2つほど、銀行APIに関するニュースを紹介します。

銀行APIといっても、普段生活する皆様からするとなかなかイメージがしずらいものでしょう。直近の記事で類似テーマを探したのですが、2つほど記事が見つかりました。

1つめは、銀行APIとフィンテック事業者をつなぐプラットフォームの話です。現在銀行APIに接続するフィンテック事業者は主にキャッシュレスの会社やクラウド会計の会社ですが、彼らは銀行1つ1つに対応しながら自社サービスに組み込んでいます。銀行API自体の審査や、接続の初期セットアップコスト、微妙なAPIの仕様差分からくる開発コストが日本のキャッシュレスやDXを妨げているのではないかという批判も出るくらい、ここのコストは重いものになっていると言われています。また今後銀行APIはフィンテック事業者だけがつなぐものというものでなく、例えばアセットマネジメント会社、保険会社、EC事業者など、「お金」が関わる事業者が柔軟に接続できるようになることが想定され、ここに今後の日本社会において「お金のDX」が進むかがかかっています。この記事ではNTTデータ社がハブとなり、事業者と銀行APIの接続を容易に、安価にしていくことを目指しており、この動きには筆者も大きな期待をもっています。

2つめは、銀行の基幹システム刷新の話です。銀行の基幹システムは、勘定系システムとよばれていて、非常に構築が複雑で、開発コストがかかるシステムです。この記事では

フィンテック企業に接続を認める「オープンAPI」を深化させる。

とあり、来たるべく銀行のDX, 次世代のバンキングシステムの社会要望にあわせて、APIフレンドリーな基幹システムに刷新していく動きであると思われます。

このように銀行API自体は裏方でありますが、我々の生活、特に「お金周りのDX」をすすめる上で非常に重要な役割を果たしています。

デジタル金融のキーとなる銀行API

金融のデジタル化において、金融機関の自社システムに外部のフィンテック事業者を接続させる「銀行API(Application Programming Interface)」は、欠かすことができないものである。今回は、金融において最も基礎的な機能である「資金の移動」をソフトウェアによって効率化する銀行APIに注目したい。

近年、さまざまなSaaS(Software as a Service)の登場や行政手続きの電子化によって、多くの業務が効率化されてきたが、お金に関する業務はまだ課題が多い。資金の移動はあらゆるビジネスに関わるプロセスであるからこそ、銀行APIの普及は金融の世界のみならず、あらゆる経済活動を滑らかにする重要なテーマだと考えている。

一例として、銀行APIによる支払業務の効率化を考えてみよう。現在、多くの企業では取引先から受け取った請求書の情報をもとに、銀行窓口やインターネットバンキングで支払情報を再度手入力することで支払いを行っている。しかし、請求書管理ツールやクラウド会計と銀行APIを連携すれば、これらツール上の情報を送金内容に反映し、「承認ボタンを押すだけで送金が完了する世界」を実現できるようになるはずだ(図表)。手入力による人為的ミスも防ぐことができ、余分な業務の発生もなくなるだろう。

〔図表〕銀行APIを活用した支払い業務の効率化

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このような効率化は、デジタル化していく金融取引においても非常に有用である。例えば、銀行APIを活用することで、保険会社の保険金支払いや、資産運用会社の投資収益の分配などにかかる手間を大きく削減できるようになる。ECサイト運営会社では、取引先ごとに行っているバーチャルな振込専用口座の発行や入金通知を、銀行APIで社内システムと接続できれば、入金確認業務を大幅に効率化することが可能だ。各企業は業務効率化によってオペレーションコストを抑えることができるだろう。

当社のグループ会社で資産運用会社の三井物産デジタル・アセットマネジメントにおいても、こうした業務効率化に挑戦していく。銀行APIを活用することで、これまで運用コスト面から組成できなかった金融商品を提供できるようになるかもしれない。

銀行と事業者双方が抱える課題

銀行APIの利便性は明らかだが、銀行APIを提供する銀行と、利用するフィンテック事業者の双方は課題を抱えている。

銀行の課題は、銀行APIの開発や保守運用にかかる大きなコストである。銀行APIは銀行の勘定系システムに外部から接続するための仕組みであるが、勘定系システムは複雑かつ障害が許されないシステムであるため、その保守運用に多大なコストがかかっており、銀行API開発時にも勘定系システムへの影響を無視することはできない。また、勘定系システムの保守運用がベンダー頼みであることも、コスト要員の一つとなっている。さらに、銀行APIの活用がビジネスとして成立するか不透明であることも、大きな課題である。開発や保守にかかる費用を回収できる見込みがなければ、銀行は積極的に投資することはできない。

一方、事業者にとって最大の課題は、銀行APIを利用できるまでに非常に長い時間がかかることである。多くの銀行ではAPIの仕様書がオープンになっておらず、使用を閲覧するには、各行と契約を締結するまで待たなければならない。銀行APIの仕様が自社プロダクトの仕様を左右するにもかかわらず、その確認に時間がかかってしまうのは事業者にとってリスクが大きい。また、実際にAPIの本番環境を利用したい場合には、銀行が求める情報管理やコンプライアンス体制などに対する審査に通過する必要があり、こちらにも時間がかかる。複数行のAPIを利用したい場合には、各行で同様の手順を踏まなければならない。

開発環境の整備には内製率の向上が必須

事業者が銀行APIを積極的に使用できる環境にするためには、銀行のAPI開発の内製率向上が必要である。銀行APIの提供は、従来の堅牢性を重視する金融システムの提供としての特性だけでなく、ウェブサービスやアプリ開発のような特性を帯びる。銀行には小回りの利く素早い改善が求められるが、ベンダー任せでは難しい。まずは開発者APIドキュメントの整備や開発者用のサンドボックス環境の開発といった部分から内製化を進めることで、事業者が素早く開発を開始できる環境を整備できるのではないか。

銀行APIに対する先進的な取り組み事例として、当社の提携先でもあるGMOあおぞらネット銀行を紹介したい。同行では開発者ポータルにアカウント登録するだけでAPIの仕様を確認できるほか、sunabar(スナバー)というサンドボックス環境が用意されており、同行に口座を持っていれば誰でも銀行APIをテスト環境で利用できる。本番環境の利用には同行の接続審査を通過する必要があるが、審査結果を待たずにスナバーで開発できるため、事業者は効率的なプロダクト開発ができる。

銀行にとっては、銀行APIを活用したマネタイズ手段の確保も欠かせない。今後、キャッシュレス文化の普及やフィンテック事業者の発展によって、銀行APIの利用回数は増え、APIを介したビジネスでの手数料収入は増えることが予想される。しかし、銀行APIの普及とフィンテック事業者の躍進は、どちらが先となるかという「鶏と卵の問題」を抱えている。この問題の解は、ソフトウェア開発のカルチャーを持ち、フィンテック事業者を通じて間接的に銀行サービスを届ける「デジタルネイティブな銀行の躍進」である、と筆者は考えている。

近年、中央銀行デジタル通過(CBDC)に関する議論が活発化しているが、CBDCが生まれても、CBDCを有効活用できる社会は一朝一夕に到来するわけではない。CBDCが社会に浸透する前段階として、キャッシュレス文化の普及、デジタルな世界でお金を扱う企業の適切なガバナンス、コンプライアンス体制が求められる。そして、銀行APIを介してデジタルな金融サービスを実現していくことが必須となる。当社もその一助になれるよう、邁進していく所存である。

出典:「週刊金融財政事情」2020年9月7日号掲載、「きんざいOnline」
https://kinzai-online.jp/node/6754

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