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【テレワークは前哨戦】アナログとデジタルで二分される世界

テレワークが当たり前の働き方になる?

COVID-19 で一気に広まったテレワークも、導入が早い企業では実施から2か月余りが過ぎた。当初は混乱も見えたが、それも落ち着き、慣れてくるとオフィスが要らないのではないかという声も聞こえるようになってきた。特に、女性から好評だという声が聞かれる。

世界に目を向けると、Twitterの決定が与えるインパクトが大きい。在宅勤務でも高い労働生産性が確認されたとして、永遠に許可を与える方針を打ち出した。反対に、ハードウェア開発・製造の現場を持つアップルは、段階的にテレワークを解除していく方針だ。現場を持つと言う意味では、GoogleとFacebookも同様であるため、Twitter ほど思い切った決断はできないだろう。しかし、現場を持たず、デジタルで完結できる業種は、テレワークが基本的な働き方と定めるケースも増えていくことが予想される。

テレワークが当たり前になった世界を見越して、新しい動きを見せる企業も出ている。松山の道後プリンスホテルでは、休業中の宿泊施設をテレワーク用に使ってもらおうと貸し出しを始めた。同様の取り組みは、京都のゲストハウスでも見られる。京都市北区にある Expo Hostel & Cottage では、テレワーク用に1日2000円で個室をレンタルオフィスとして貸し出している。COVID-19以降もテレワークを継続する企業が出てくると、このような場所貸しのビジネスニーズは一層増してくることだろう。


テレワーク可能企業とテレワーク不可企業で分かれる労働生産性

テレワーク導入が推進されていた元々の背景は、日本の労働生産性の向上にある。アナログな業務プロセスからの脱却がなかなかできず、気が付けば、他の先進諸国や新興国と業務プロセスの進め方や労働生産性に大きな開きができてしまった。テレワークは、同時に女性活躍推進の文脈でも期待されているため、優先順位の高い施策であったと言える。

このようなデジタル化は、デジタル・トランスフォーメーション(以後、DX)の1部として見られる。DXにはさまざまな定義があるが、総務省によると「テクノロジー(ICT)の浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」ことを指す。DXへの対応は、日本人同士でビジネスが完結しているのならばさほど問題はない。問題なのは、海外とのやり取りがある業種である。デジタル化のギャップが大きくなると、同じ土俵に立たせてはもらえなくなる。同じ土俵で相撲を取ることができない相手とは組んでもらえない。生産性の低い相手と組むことは、自らの生産性も下げることに繋がるためだ。結果として、日本企業の国際競争力が落ちると国内市場の景況感も悪くなり、国内だけで完結してきた業態もあおりを受けることになる。

業務プロセスの改善の中でも、ICTを活用することによる労働生産性の向上は重要事項であった。オンライン会議ができるようになれば、無駄な出張も減るし、なかなか取ることができない会議室予約で業務が滞ることもない。「海外出張中のため、メールに対応できません」なんていう非生産的な自動返信メールもいらなくなる。世界中どこにいてもコミュニケーションがとれるためだ。そもそも、ICTが進んだ働き方には、メールすらいらない。メールよりも生産性の優れたツールは世の中に数多くある。

このように、「いつでも、どこでも、労働生産性を損なわず働ける」ように変化させていくDXは、企業競争力を高めるために緊急度の高い案件と言えるだろう。そして、テレワークの環境整備と浸透は、労働生産性を向上させるためのファースト・ステップともいえる事案だ。テレワークができないと、地理的な制約と時間的な制約という労働生産性に負の影響を及ぼす要因を解決できない。テレワークを前提にした環境整備ができていないと、「判子を押すためだけに出社する」という労働生産性を低下させる事態が生まれる。往復の移動時間分だけ労働生産性は落ち、無駄が生じるのだ。

テレワークを推進する企業、特にデジタルな情報のやり取りで完結することができる業態や職種は、労働生産性を飛躍的に高めることが可能だ。業種や職種の特性上、全体的にテレワーク導入ができなくても、部分的に導入することや前向きな姿勢を持つ企業もDXによって労働生産性を高めることができるだろう。しかし、テレワークの導入に踏み切れず、業務プロセスのDXによる労働生産性の向上が望めないアナログ企業は苦境に立たされることが想像に難くない。


デジタル企業とアナログ企業で拡がる格差

労働生産性という面で見ると、DXを推進した企業とアナログのままの企業の間に大きな格差が生まれるだろう。労働生産性とは、企業活動で生み出された付加価値を投入した労働力(人員×労働時間)で割った結果として産出される。格差は、投入した労働力が少なくなるだけではなく、生み出された付加価値の増大という形でも現れる。

DXによって大きく付加価値を上げた業界の例として、アニメ制作会社があげられる。従来、アニメ制作会社は都心に集中する傾向にあった。しかし、近年、京都府の京都アニメーションや富山県の P.A. Works、徳島県のUfotableのように地方都市に拠点を持ちながらも存在感のある制作会社が増えてきた。これらの企業の原動力になっているのは、製作工程のデジタル化だ。

同様に、漫画製作業界もデジタル化によって、在宅アシスタントに作業工程の一部を発注することが増えている。カラー原稿もデジタル化によって低コストでできるようになった。その結果、今や漫画業界の月間生産量は凄いものがある。先日、最終回を迎えた鬼滅の刃は、電子媒体なら毎週、最新話をカラーで読むことができたと言う凄い時代になっている。

アニメや漫画であれば、まだ手書きの味が好きだと言うことで勝負していく目もあるだろう。しかし、多くのビジネスではそうもいかない。翻訳アプリの性能が上がると、通訳者の仕事はただ翻訳していれば良いというものではなくなる。デジタル技術が発達したときに、求められる翻訳者のスキルは、相手国の文化や慣習と依頼主の文化や慣習の間に存在する文化的差異を埋める文化人類学的な知見が一層重要となる。デジタルの世の中では、デジタルに合わせたビジネスモデルやスキルが必要となる。

それでは、アナログな企業はこのまま消えていってしまうのだろうか?


アナログ企業の生きる道

結論から言うと、アナログ企業はこのままでも消えることはないだろう。それどころか、COVID-19の影響で一時的に需要が高まる可能性すらある。その根拠は、COVID-19による経済恐慌の恐れだ。

COVID-19では、休業申請と自粛に関するニュースが多く取り上げられているが、同時に派遣社員の雇止めや人員整理も大きな問題となっている。Airbnb、Bird、Uberと飛ぶ鳥を落とす勢いだった米国のITベンチャー企業も、人員整理の厳しい意思決定を下している。米国では、失業率20%越えの可能性も出て来た。

企業の倒産も深刻だ。日本はまだましな方で、先日、とうとう政府系大手航空会社で初めてタイ航空が経営破綻した。

企業の業績はどこも苦しい状況が続いている。このような状況下だと、DXを勧めたくても、そのための原資がないという企業が出てくる。同時に、失業問題への対策として、受け皿となる雇用を作ることが国策として重要となる。これは日本だけではなく、全世界共通の問題であり、雇用保護のための活動が推進されるだろう。そうすると、専門的なスキルが求められるデジタルな仕事よりも、誰でもできるアナログな仕事を増やさざる得ない。

しかし、雇用ができたからといって、喜ぶことはできない。デジタル企業とアナログ企業の労働生産性の格差は依然として残ることになる。その結果、アナログ企業での労働は、低賃金且つ労働集約的な性格が強まることになる。しかも、成果を出すためには厳しい労務管理が求められるため、苦しい職場環境となる。機関銃に勝つために、機関銃の弾数よりも多くの兵隊に突撃させて、質量で押しつぶすような作戦だ。成果を出すために、膨大な屍を晒すことになる。


結語

幸いなことに、COVID-19が本格化して、まだ2ヶ月程度しか経っていない。いつ収束するか、先行きの見えない中、まだ余裕があるため行政からDXの助成金や支援も用意されている。

まだテレワークに取り組むことができていない企業は、まず各種サービスを活用して、テレワークに挑戦して欲しい。今の段階でDXに取り組めないでいると、低い労働生産性でデジタル企業と渡り合っていかないといけない(しかも、雇用保護のために逃げることもできない)。アナログのままでは、じり貧の状況で苦しい競争を生き抜いていかなくてはならない虎口が待っている。

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