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日本的経営の最後の砦「企業別組合」の崩壊

崩壊を叫ばれ続けて30年

ジェームズ・C.アベグレンが著書『日本の経営』(1958年)で指摘した日本的経営の3つの特徴(年功序列・終身雇用・企業別労働組合)は「3種の神器」と呼ばれ、長らく日本企業(主に大企業を中心)の競争優位の源泉として考えられてきた。

バブル崩壊とともに、実質的には30年前に「3種の神器」はビジネスパーソンの実態と乖離するようになるが、多くの企業は競争優位の源泉としての3種の神器を本格的に見直すことはしてこなかった。

例えば、大企業のリストラや事業売却は終身雇用とは原則として相いれない。しかし、終身雇用を前提とした組織作りをしている大企業がリストラや事業売却を行う姿は珍しいものではなくなっている。同様に、俗にいう「年下の上司」も珍しくはなくなっているのに、給与制度は年功序列をベースにしたままという現象もよく見られる。これは、基幹社員のモデルが終身雇用と年功序列をベースにしているのであって、実際の運用時に生じる齟齬は柔軟に個別対応していくことで賄ってきた。

しかし、昨年からの「ジョブ型」ブームにみられるように「3種の神器」のうち、年功序列・終身雇用を見直そうという動きが顕著にみられるようになってきた。もともと、バブル崩壊以後の30年間で新しく立ち上がった企業では、年功序列と終身雇用を前提としない組織作りをしてきたケースは珍しくはない。具体例をあげると、サイバーエージェントやサイボウズがそうだ。

年功序列と終身雇用の終焉は、90年代後半に成果主義が導入され始めたころから定期的に話題に上る。今回のジョブ型ブームもそうだが、それだけ関心の高い経営課題なのだろう。

一方で、3種の神器の最後の1つである「企業別組合」の注目度は、年功序列と終身雇用に比べると格段に低い。しかし、注目度が低いからと言って、企業別労働組合に問題がないかというとそういうわけでもない。下記の日経新聞の記事にあるように、既存の労働組合では労働者の問題解決ができないとして、新しい組織を作り上げようという動きも出ている。

増える個別労働紛争と減る組合員

労働組合とは、労働者の権利を守り、労働上の問題を個人に代わって労働基本権(団結権、団体交渉権、団体行動権)に則って、雇用者である企業と渡り合うための組織だ。労働組合と企業の交渉の結果、問題解決がなされないときには、団体行動権を行使して争議行為(ストライキやロックアウト)を実施することができる。

労働組合というと、毎年の春闘による賃上げ交渉のイメージが強いかもしれない。もしくは、リストラに反対する雇用保障だ。それらは労働組合の役割の一部にしかすぎない。本質的には労働者の抱える問題すべての窓口であり、問題解決のための雇用者との交渉役だ。

ブラック企業やセクハラ問題、働く人の鬱、職場のいじめなど、現代のビジネス環境における労使問題は、賃上げや雇用保障のほかにも多岐にわたる。独立行政法人労働政策研究・研修機構(以降、JILPTと表記)が厚生労働省のデータをまとめた下図によると、民事上の個別労働紛争の相談件数は2002年から2019年の間で約3倍にも膨れ上がっている。

個別労働紛争推移

道理で言えば、個別労働紛争の相談件数が増加傾向にあるのならば、問題解決に役立つ労働組合の組合員数は増えるはずだ。しかし、組合員数の推移は90年代前半をピークとして減少傾向にある。組織率をみると、1980年代から急激な減少傾向にある。下図は、JILPTによる組合員数と組織率の推移をまとめたものだ。

労働組合

なぜ労使における問題が増えているのに、解決を支援するはずの労働組合の組合員数と組織率は低下傾向にあるのだろうか。

ここで勘違いしてしまいがちなのは、日本の特殊性である「企業別」に目を向けてしまうことだ。アベグレンが労働組合を日本的経営の特徴としてあげたのは、他国とは異なり、労働組合が企業毎に独立して組織されていることだ。労使交渉を行うということは、雇用者を労働者が批判するということだ。労使問題の当事者である労働者が雇用者を批判することは、利害関係があるためにハードルが高い。そのため、日本以外では、労働組合は産業別に組織されることが多い。例えば、ドイツであれば、フォルクスワーゲンの社員もダイムラーの社員もBMWの社員も加入する労働組合は「金属産業労組 (IG Metall)」で同一だ。日本の労働組合は企業別であるために、利害関係が発生するために機能していないという論は古くから存在する。

しかし、現代の労働組合の組織率の減少傾向は日本に限った話ではない。アメリカ、イギリス、ドイツでも組織率は減少傾向にある。一方、韓国は、近年、非正規雇用者保護の法制化や複数労働組合の許容など、大きな法改正の成果が出て増加傾向に転じている。このことから、世界的に見て、現代の労使状の問題は変化が激しく、既存の制度が追い付いていないことが示唆されている。

オンライン労組と非正規雇用者向けの労働組合の需要が世界的に増加傾向にあるのも、現代の労使問題に適した、新しい労働組合の在り方が求められていることの表れだ。

世界の労働組合組織率

年功序列、終身雇用、企業別労働組合という、日本企業の競争優位性の源泉と信じられてきた3種の神器が崩壊する中、私たちは組織作りをどのように行っていくべきだろうか。労働組合に起きている世界的な変化をみていると、個別化スピード化が鍵となっているように思われる。労使だけではなく、現代のビジネス環境で生じる問題の多くは複雑性と特殊性を増している傾向にある。そのような中で、スピード感をもって変化に適応し、個々の問題に対して最適化された解決策を提供することが求められている。「日本的」という枕詞からの卒業が、「日本的経営の3種の神器」が崩壊している現代に求められていることなのだろう。

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