見出し画像

アメリカの熱狂の坩堝の意味――アメリカから日本を観る①

「マッハッタンを歩いている人の8割は観光客かもしれない」
ニューヨーク30年在住の幼児教育研究家に案内いただき、クリスマスからカウントダウンのニューヨークを訪れた

ラジオシティ・ミュージックホール

「絶対に観た方がいい」と勧められた、ニューヨークの冬の風物詩のラジオシティ・ミュージックホールの「クリスマス・スペクタルキュラー」から、ニューヨーク散策をはじめた。90年の歳月で洗練しつづけた寸分狂いもない完全無欠なショーを観たあと、ロックフェラーセンターのクリスマスツリーを眺める世界の観光客で群れる熱狂の坩堝(るつぼ)のなかを流れた。冬なのにマンハッタンに集まる世界に人々が発する発熱量は凄まじい

ロックフェラーセンターのクリスマスツリー

なにがおこっているのか?なにがおころうとしているのか?2025年1月20日にトランプ47代アメリカ大統領が就任して、世界はどうなるのか、日本はどうなるのかという様々な報道が飛び交うなか、その震源地となるアメリカを昨年末に訪ねた


1 トランプタワーの熱狂

アメリカ大統領選でよく見た赤いトランプの帽子は売り切れて黄色いトランプ帽子が代わりに並び、「アメリカを再び偉大な国にしよう」と書いた人気のTシャツも売り切れていたトランプショップがあるトランプタワーに人々が吸い込まれていく

トランプタワー

混在しているトランプタワー入口から目立つ長蛇の列がある。第45代アメリカ大統領を示すエンブレムとアメリカ国旗のある場所で記念撮影する人々の行列である。トランプタワーには濃厚な発熱量が充満している

トランプタワー

飲食店はどこも行列で、日本的飲食店も人気。本格的な日本料理店や寿司のみならず、ラーメン、うどん、焼き鳥、居酒屋風の日本の料理店がいたるところに並んでいる。かつてになかったことだ。味もかつて味ではない。耐えられないほどではない。勉強しているし、おそらく日本人が絡んでいる店も多いのだろう。なによりも欧州での日本の料理店よりも数段上である。しかし料金が凄まじいほど高い

ニューヨーク 「新宿ラーメン」

日本1000円のカツ丼が4000円
日本1000円のラーメンが4000円
日本1000円の天ぷらうどんが4000円

為替レートの関係や半強制的なチップ(18%~25%)の関係もあるが、日本の4倍高いというのが現場感。円安というよりも円弱という表現の方が正しい。そして現金決済ではなくカード・オンライン決済なので、どれだけ使ったかが分かりにくい

円安=円弱の逆は真
空前の日本へのインバウンドで海外からの観光客が日本で爆買いするのは、この為替レートならば至極当然。それはかつて円高だった日本が世界に行き世界のブランド品を買い漁っていたのと同じ構造。現在は円安・円弱で

日本は昔の日本ではない

ニューヨーク・日本倶楽部

カーネギーホール近くのビルが売却された。日露戦争のあった1905年にニューヨークで設立された日本倶楽部が保有していたビルが売却され、テナントビルに来年移転するという

初代会長は化学者の高峰譲吉博士、野口英世が在米中に将棋を指していたという戦前戦後120年間、日米交流とニューヨークの日本企業の駐在人が繋がる場として機能していた日本俱楽部が自社ビルを売却して、世界中の有名ブランド店が立ち並ぶ5番街に和菓子宗家源吉兆庵が保有するビルに2026年に移転する

日本は昔の日本ではない

2 テスラのサーバートラックの意味

世界のエネルギーの中枢といえるテキサスを、現地在住の資源エネルギーエンジニアに案内してもらった。従来型の石油・ガスに加えて、シェールオイル・シェールガス産出によって世界最大のエネルギー拠点となったヒューストンに世界のエネルギー会社が集結している。当然、ガソリン代は安い

だから車社会である。アメリカはダウンタウンを核に広大の郊外が形成されていて、自動車が交通手段の中心となる。不法移民の関係もあり、治安上、バスや鉄道に敬遠される場所も多い

街を走る車はフォードなどアメリカ企業車に混ざって、日本の自動車メーカーの車が走っている。走っているというレベルではない。凄まじく多い。トヨタ、ホンダ、日産、マツダ、スバル

故障しにくい、運転性、ハイブリッドなどの性能が評価されているとのことだが、その日本の自動車メーカーの車は、日本で製造されたものではない

日本ではあまり見ない、大きな荷台がついたピックアップトラックがよく見かけた。週末に大量に買い込むため、キャンプなどのレジャーのライフスタイルをすごすための実用車という位置づけだが、現実には荷物は載せていない車が多い

ピックアップトラック

「アメリカ人は、ピックアップトラックがカッコいいと思っている。テスラのサイバートラックも同じく、カッコいいから買っている人も多い」

と資源エネルギーエンジニア。テスラのサイバートラックは、まるで戦車のような、しかし未来的なデザインと最先端の技術を搭載したクルマであり、世界発で宇宙に人類を月に立たせたことを自負するアメリカ人のプライドをくすぐる。その燃料がガソリンでも電気でもハイブリッドでも構わない。その電気自動車であるよりも、サイバートラックであることに意味があると考える人が多いのではないか。電気自動車の燃料が電気であるから、環境であるとかCO2排出量を抑制するとはいうのは、日本ほど関心がないのではないか

サイバートラック

サイバートラックが走っている姿をテキサスでよく見た。1500万円はするクルマは一際目立つ。そのクルマのメーカー・テスラは、テキサス州都オースティンに、本社をカリフォルニア州から移転した。テスラのCEOイーロン・マスクはトランプ大統領の立役者として、日本は注目されているが

「日本ほど、マスクさんのことはアメリカでは話題になっていない」

とニューヨーク在住30年の幼児教育研究家は笑った

ヒーストン宇宙センター

3 掘って掘って掘りまくれ

「日本や欧州のように、太陽光発電や風力発電をみかけないですね」
テキスト州のヒーストンとオースティンを車で往復するなか、資源エネルギエンジニアに訊ねた

「石油と天然ガスが地中から出る地域だから、積極的には太陽光発電や風力発電を建設しないですね」

「トランプ新大統領は、『ドリル・ベイビー・ドリル(掘って掘って掘りまくれ)』と石油や天然ガスの生産を増やすと選挙中から宣言していますよね?脱・脱炭素の方向に向かうのですかね?」

「分かりません。ただトランプさんは基本ビジネスマン。是々非々で判断する。アメリカにとって良いことならばするし、良くないことはしない。そう考えると、意外に戦略は分かりやすいかもしれませんね」

「もう一点、アメリカを走っていて気になることがあります。日本の送電線と比べて、アメリカは細いですね」
「そうです。アメリカの基本は分散型システムで、日本のように全国津々、高圧送電線を延々と引くようなネットワーク型ではなく、需要地ごとに発電所を配置して供給している。一方、アメリカ全土をガスパイプラインを張り巡らしている。だから需要地ごとにガス火力発電で供給する地域分散型エネルギーシステムが可能になっています」

「その天然ガスも石油も、アメリカで産出できますよね」
「加えてアメリカはリスクへの考え方が違います」
「どういうことですか?」

「先日も大きなハリケーンが来てテキサス州が大停電しましたが、各ビル、各住戸はジェネレーター(発電機)を設置して、有事には自ら発電している。『自分のことは自分で守る』というのが、アメリカのリスクへの考え方です」
「日本と違いますね」
「ただし自動車、エネルギー、家、街ごとに、有事対策を考えたら、部分最適になります。全体を見て、それぞれをつないでいかねばなりません」
「つまり鳥の目で観ないといけないが、これは日本はとても苦手」
(次号に続く)

トランプ大統領就任前のクリスマス休暇で賑わう「アメリカから日本を観ること」を4回シリーズで書く。次号の第2回は、1月8日(水)に、新型コロナウイルス(COVID-19) パンデミック以降のアメリカの変化から日本を考える


いいなと思ったら応援しよう!