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試行錯誤が続く店舗とネットの融合。小売のニューノーマルはどこにある?

こんにちは、電脳コラムニストの村上です。

一進一退が続く新型コロナウィルスとの戦い。どうやら、第3波も到来したようです。有効なワクチンが広く行き渡るまで、しばらくこの状況が続くでしょう。個人的には短期徹底鎮圧からの経済復活が一番合理的と考えていますが、日本はなんとなくだらだらいくことを選択したようなのでここ1~2年は現在のトレンドでいくものと思われます。

その前提で考えると、リアルなオペレーションを持つ業態はますます苦しくなってきます。例えば、店舗を持つ飲食や小売といった業種です。一等地に巨大な店舗を抱える百貨店などは、生き残るための新たな取組みを強化する必要があるでしょう。

三越伊勢丹ホールディングス(HD)は旗艦店の伊勢丹新宿店(東京・新宿)の全商品をネット上で接客し販売する。専用アプリを使い、2021年度にも全約100万品目を扱う。新型コロナウイルス下で低迷する店舗販売を下支えし、米アマゾン・ドット・コムなどネット通販大手との違いを打ち出す。
(筆者略)
気に入った商品があればそのままアプリ上で購入できるほか、さらに詳しい相談や商品説明を受けたい場合、動画を使った接客を申し込む。
オンライン接客を担当する伊勢丹新宿店の販売員は店頭との兼務で約50人から始め、順次増やす。チャット上の対応が遅れないよう、人工知能(AI)を使ったチャットボット(自動応答システム)の導入も検討する。

商品数だけみればAmazonや楽天などが上回るが、ブランド品などを安心して買ったり、すでに欲しい物が決まっている「指名買い」においては伊勢丹新宿店の店員の商品知識が活かせるでしょう。これまでも外商の顧客や各専門店が常連向けに電話でやっていたことを、ネットでより広くやってみると見ることもできます。

オンライン接客はメーカーでも開始しています。高級タオルメーカーの「イケウチオーガニック」は緊急事態宣言下で直営店の休業を余儀なくされている中で、京都店を「Zoomストア」としてオンライン接客にてオープン。現在も継続しているといいます。

まず、これまで僕らの「Zoomストア」を利用してくださった方は約60組(6月9日時点)。そのうちの8割が、新規のお客様でした。「イケウチオーガニックのことは知っているけれど、タオルは買ったことがない」という方々で、リアル店舗に来られる方ともWebストアを利用する方とも違うような気がしています。新たな客層を発掘できる可能性があると思い、直営店が再開した後も続けてみることにしました。

前提としてイケウチオーガニックはコロナ以前からネットに積極的で、特にSNSを活用してファンを獲得することに成功していました。その中でも実際に来店する人は限られていたところに、オンライン接客の気軽さがうまくマッチしたと言えるでしょう。

オンライン接客とは違ったアプローチで店舗の強みを活かそうという取り組みもあります。大手百貨店の丸井です。

丸井が活路を見いだすため出資・招致に踏み切ったのは「体験型店舗」を米国で展開するスタートアップのb8ta(ベータ)だ。新宿マルイ本館(東京・新宿)と有楽町電気ビル(東京・千代田)の2カ所に2020年8月1日、ベータを国内初出店した。

ベータは商品を展示したい企業に対して、60×40センチほどの商品体験スペースを提供する。さらにその場での店頭販売に必要な従業員の手配からトレーニング、店づくりなどを含め、運営全般を請け負う。来店客は商品体験スペースに展示された商品を実際に試し、設置されたタブレットで商品の詳細情報を知ることもできる。気に入ればオンラインで購入する流れだ。

一等地に店舗を構える強みを活かし、オンライン中心で販売している企業の「体験・プロモーションスペース」として軒先を貸す仕組みです。それだけではなく、従業員やデモのためのトレーニングなどの運営全般を請け負うことで、ネットで話題の企業の成長を助けながら自身のスペースの強みも作っていこうという意欲的な取り組みです。それだけでなく、AIカメラで記録した来店客の行動情報を基に様々なデータを蓄積。例えば、商品の前に5秒以上滞在した人の数、店舗スタッフが商品を説明した回数、商品に対する来店客のコメントフィードバックなどです。POSデータとも紐付けられるため、実際の反響や売上を分析することで「流行る商品」をいち早く見つけられる可能性もあります。さらに深い取り組みとして、丸井自身がCVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)をしてスタートアップに出資するような流れができれば、精度の高い投資が可能かもしれません。

各社ともに試行錯誤が続いている状況ですが、これまでのように「店舗が主でネットが副」ではなく、「ネットを前提とした店舗活用」が当たり前になってくるのではないかなと思います。

また、オンライン接客の流れは他の業種にも広がってきています。不動産の内見などは良い例でしょう。

「コロナ禍が広がった4~9月、非対面で80件の成約があった」。賃貸事業部エリアマネージャーの川井田昌康さんは説明する。同社は熊本県や鹿児島県などで賃貸仲介を手掛けており、4月から非対面のオンライン接客を本格化。契約手続きも米ドキュサインの電子署名を使い、スマホで完結する。特に首都圏など熊本県外から転勤が決まった会社員のニーズが高かった。

非対面での成約数は全体では3%で、実際に内見を希望する顧客の方がまだ多い。しかし、川井田さんは「コロナを機にオンラインの便利さを知る人が増えている。技術革新が進み、近い将来には不動産取引もすべてオンライン化するのでは」と予想する。

対面が必須であった重要事項説明についても、数々の社会実験を経て2017年10月から本格的に開始されています(いわゆる、IT重説)。まずは法人間や賃貸での取り組みが先行しましたが、売買や建築受託についても暫定措置としてIT重説が認められました。

このように、オンライン下の流れは様々な業種に影響を与えています。やってみるとこれまでにない利便性があるため、完全に元に戻ることはないでしょう。どの業界も「ネット前提」ですべてを見直す機会となるのではないでしょうか。

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タイトル画像提供:マハロ / PIXTA(ピクスタ)

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