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ビジネスパーソンの新教養としてのネイチャーポジティブ・生物多様性

ここ1〜2週間、いや、ここ数ヶ月、何度となく目にする機会があるものの、全体像をなかなか理解できていない言葉があり、少しもやもやしています。

「ネイチャーポジティブ」「生物多様性」です。

ちょうど10月21日から11月1日までの期間、南米コロンビアにおいて生物多様性条約の第16回締約国会議(COP16)が開催されていることもあり、関連記事を目にした方も多くいらっしゃるのではないでしょうか?

中でも目を引いたのはCOP16の初日に掲載されたフィナンシャル・タイムズの以下の記事です。

新たな企業のグリーン目標:「ネイチャーポジティブ」 - 生物多様性の保護と改善に取り組む企業が増えている。しかし、一部の専門家はグリーンウォッシングの可能性を懸念している[10/21 Financial Times]』

長尺の特集記事の概要としては以下のようなことが指摘されています。

  • 「ネイチャーポジティブ」- 2030年までに生物多様性の損失を止めて回復させる - という概念が企業間で注目を集め、国連生物多様性会議への参加企業数が記録的に増加。

  • 世界の野生生物の個体数は50年間で75%減少し、約100万種が絶滅の危機に直面。

  • 気候変動目標と異なり、生物多様性の指標は複雑で標準化が不足しており、グリーンウォッシングの懸念が浮上。

  • 世界のGDPの約44兆ドルが自然に依存しており、生物多様性の保護は企業にとって必須課題。

  • 自然関連財務情報開示タスクフォースが生物多様性リスクの標準化された報告フレームワークの作成を目指している。

印象的だったのはグローバル企業のプレスリリースの中に「ネイチャーポジティブ」という言葉が2021年以降急増していることです。CO2排出量のように定量的に削減目標や基準がまだ整備されてない状況で「グリーンウォッシング」の懸念の声も上がっていることも指摘されています。

image credit: Financial Times

科学者や環境保護団体は、企業や政府が、説明責任を果たすために必要な定義や基準が整備される前に、また必要な作業の規模も把握しないまま、この言葉を流行語として振り回し始めていることを懸念している。たとえば、今では「自然に優しい」投資をしたり、「自然に優しい」休暇を予約したり、「自然に優しい」コーヒーを買ったりすることができる。

Financial Times

同じく金融系メディアのブルームバーグでは日本語版の見出しとして『世界の大手行が生物多様性会議に集結-ニッチ過ぎるテーマに突如関心』というタイトルを掲げ、ビジネスセクターの間で注目が高まっている様子が描かれています。

  • JPモルガン・チェースやスタンダードチャータードなどの主要銀行がCOP16に初参加し、生物多様性金融への関心の高まりを示す

  • 自然のための債務スワップや生物多様性クレジットなど、新商品を開発中

  • 生物多様性関連ファンドの運用額は約40億ドルで、前年比45%成長

  • 国連は自然損失を食い止め回復させるために年間7000億ドルの追加支出が必要と試算

銀行家らが検討している新商品として『生物多様性クレジット』が言及されています。これは炭素クレジットと同様の機能を持ち、購入者は保護プロジェクトに投資することで生物多様性への影響に対処できるとのことです。

image credit: Bloomberg

日本の経済界の間でも急速に関心が高まっていて、以下の記事によると、経団連は過去最大となる25社45人をCOP16に派遣し、情報収集や日本の取り組みを発信するとのこと、力が入っていることが窺えます。

経団連の資料として日本企業各社(41社)による取り組み事例集も公開されています。

Forbes Japanでは『ネイチャーポジティブ企業ランキング、自然と共存して成長を目指す20社』として、アステラス製薬、ソニーグループ、ダイフクなどの企業名が掲載されています。

さて、COP16が開催されていたこの10日間ほど、「生物多様性」、「ネイチャーポジティブ」という言葉を目にしたり、周囲で話題になったことはありますでしょうか?気候変動について議論が行われる「COP29」に比べてもまだまだ認知度は低いことは否めないものの、国内では今ひとつ話題になってないように思われます。

以下はあくまで目安ですが、BuzzSumoという分析ツールを活用することでニュース記事やYouTubeなどのコンテンツ数とFacebookとX(旧Twitter)上におけるエンゲージメントの状況を見ることができます以下は過去1年間の測定データです(上:日本語、下:英語圏)。

▶日本においては10月に入り「生物多様性」関連のコンテンツが増えているものの、規模にして400弱、エンゲージメントの盛り上がりは限定的のようです。

出典:測定ツールBuzzSumo

▶英語圏においては記事の数が月平均3,000〜4,000程度で、COP16開催月の10月に入り急速に増えていることが窺えます。エンゲージメントも急速に高まっていることも窺えます。

出典:測定ツールBuzzSumo

国内経済界で盛り上げていこうとする取り組みもいくつか見られますが、以下のようなコメントを見るにつけ、まだまだ認知・意識改革が求められている段階とも感じられます。

委員会メンバーも「グリーンリテラシーを経営トップがしっかりと勉強してほしい」「具体的なコミットメントをしてほしい」などと発言し、実行可能な取り組みとなるよう経営層の意識改革を求めた。

日本経済新聞

そんな中、以下の記事を見るにつけ、なぜ多くの企業経営者や金融機関がネイチャーポジティブを語る会議に参加しているかについて、驚きとともに理解が深まりました。

  • 製薬・化学開発に使用されるDSI(デジタル遺伝情報)の利益配分について、コロンビアのCOP16で議論中

  • 大企業にDSI利用時、利益の1-2%または売上高の0.1-0.2%を多国間基金へ拠出する案が浮上

  • 業界団体は、医療・食料安全保障のイノベーション阻害を理由に強く反対

以下のようなルールが「生物多様性」「ネイチャーポジティブ」のもとに策定されることで、大きな企業や金融機関は大きな影響を受けることになります。「ルール作り」に参画することで自社、所属する業界、自国のために有利な条件を勝ち取らなければいけない、というインセンティブが働きそうです。

年間売上高が5000万ドルで総資産が500万ドル程度の大企業に対して、DSIの恩恵を受ける場合、利益の1〜2%、または売上高の0.1〜0.2%を拠出する案が出ている。現段階では自主的な拠出か政府によって義務化するかは議論の途中だ。一方、関連する業界の企業は激しく反対している。人命救助や食料安全保障の促進に役立つ研究を抑止し、人類全体の不利益になると述べている。
米国が国連加盟国の中で唯一、生物多様性条約に締約していない。新規制が導入された場合、製薬大手ファイザーなどの米企業が英アストラゼネカなど欧州のライバル企業に比べて有利になってしまう懸念も出ている。

日本経済新聞/Financial Times

以下のような指標づくりにおける議論の先導の必要性もこうした状況を踏まえ目にすると理解が進みます。

以上、「ネイチャーポジティブが新たなバズワードになっているのではないか?」という好奇心から目にした記事を備忘録的にまとめてみました。同じような興味・関心をお持ちの方にとって参考にしていただけたら幸いです。


【関連イベントのご案内】
最後にご案内です。私もスタッフとしてお手伝いをさせていただいているCIC Tokyoの環境エネルギーイノベーションコミュニティによるイベントが「Aichi GX Acceleration Program」の一環として開催されます。

https://peatix.com/event/4159617

コンサルティング会社 ・行政 ・大企業 ・スタートアップ 各分野の経験豊富な専門家が、生物多様性に関する知見と実践例を共有し、議論を展開します。是非お気軽にご参加くださいませ:)

  • 日時:11月13日(水)

  • 場所:名古屋市 ステーションAi

  • 参加方法: ・現地参加&オンライン参加のハイブリッド(無料)

  • 詳細・お申込み: https://peatix.com/event/4159617

ネイチャーポジティブ」「生物多様性」という言葉は今まで不勉強ながらあまり理解できてなかったのですが、今後気候変動との関係、相互連鎖するキーワードとして理解を深めていきたいと改めて思いました。環境省NACS-J(ナックスジェイ・日本自然保護協会)のホームページやSNSアカウントからも様々な情報が発信されています。是非参照していきたいと思います。

*その他いくつか気になった記事も備忘録的にリストしておきます。


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市川裕康 (メディアコンサルタント)
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