「産休・育休で穴を空けたら居場所がない」は、ジョブ型だと過去のものになる?
日立と富士通はマミートラックでキャリアを諦めない
これまでの伝統的な日本のマネジメントでは、人に仕事を付けるメンバーシップ型を採用していたため、長くその組織に在籍することが大切だった。ポジションができた時に、ふさわしい人材がタイミングよく組織内にいる必要があり、重要なポジションへの割当はポジションが空くのを待っていた期間が長い人が優先だったためだ。しかし、ジョブ型雇用では異なる。仕事に人を付けるため、その人がどれだけ会社に長くいるか、産休や育休、介護などでブランクがあるかは原則として関係ない。
日経新聞の記事にもあるように、富士通では入社2年目で課長職の女性が出てくるなど、抜擢も起きている。ということは、能力さえ認められれば「マミートラック」として産休・育休があってもキャリアを諦めなくて済むことになる。
ジョブ型になれば女性のキャリア問題は解決か?
日経新聞の記事のタイトルにあるように、ジョブ型になれば女性がキャリアを諦める問題が解決するのかというと、残念ながらそう簡単でもないだろう。というのも、出産・育児によってキャリアにマイナスの影響が出ると考えるのは日本以外の国でも同様だからだ。そして、日本以外のほとんどの国はジョブ型である。
例えば、ハーバード大学のスーザン・デイビッドとデンバー大学のクリスティーナ・コングルトンは『ハーバードビジネスレビュー』の記事で女性には葛藤があると述べている。例えば、ある女性は、仕事と育児を両立させるために週50時間が働くことの限界だと感じているが、男性の同僚は週80時間働いている。「同僚に負けないくらい働かないと自分のキャリアは台無しになる」という声と「もっと良い母親にならなければ家庭を顧みないことになり子供たちに影響が出る」という声が内面でせめぎあう。職場でも家庭でも誰かにそう責められたわけではない。自分で自分を追い込んでしまうのだ。
ジョブ型かどうかに関係なく、目の前に出産でキャリアに穴をあけたり、育児で時短勤務をする必要がない同僚がいると負い目やコンプレックスを覚えるのは仕方がないことだ。また、何かの時に上司や同僚から無意識の偏見や発言で傷つくこともある。職場内の個人レベルの努力で減らすことはできるだろうが、ゼロにすることは難しく、日本よりも男女平等の意識や施策が進んでいる欧州でも課題として残っている。
しかし、メンバーシップ型と比べてジョブ型の方が相対的に女性のキャリアに負の影響が少ない。これは、ジョブ型は多様な背景と専門性を持った人材が成果を出しやすいように発展してきたためだ。極端な話、ジョブに見合った専門性を持っているのであれば職を得ることに大きな問題はない。一方、メンバーシップ型は似たような価値観と専門性を持った人材が強固な一体感から優位性を生み出すことに適している。多様性と言う個人の事情に対してメンバーシップ型だと融通が利きにくい。
その代わり、ジョブ型だと、社内にジョブがない場合にはどれだけ優れた専門性を持っていても仕事がない。そのため、社内で求められる専門性を身に着けるように能力開発するか、今持っている専門性を必要とする外の組織にキャリアを求める必要が出てくる。「この会社が好きだから、産休明けも同じ会社で同じ仕事をしたい」というニーズが満たされるかと言うと難しいところも出てくる。
もちろん、世の中にはメンバーシップ型でも多様な人材が活躍し、女性の管理職も数多くいる会社が存在する。結局のところ、メンバーシップ型でもジョブ型でも、働く女性にとっての葛藤は存在する。その葛藤を減らそうと組織全体で対策を講じ、出産・育児・介護というライフイベントを許容する組織文化を創ることができているかが肝要だ。