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Web3と重慶大厦 アングラ経済の人類学を読んで

web3の概念をより多角的に把握しようと思い、香港のタンザニア人コミュニティについて書かれた本を読んでみました。


web3と重慶大厦

『チョンキンマンションのボスは知っている アングラ経済の人類学』という本です。

タンザニア出身で香港の重慶大厦に住み、同郷の人たちとの関係性の中で、独自の経済圏が構築されている様子が、著者のフィールドワークを通してさまざまな出来事と共に描き出されていました。

朝まで人に奢ってもらって飲み、昼過ぎまで寝て、夕方から動き出すような生活の中で、コミュニティの中での人々の関わり方と、お金の流れと、信頼関係の構築と維持について、web3におけるコミュニティに属することで成立する社会的取引関係やトラストレスな関係性につながるようなものを見ることができました。

TRUST

第二章:「ついで」が構築するセーフティネット
    「プラットフォーム」としてのタンザニア香港組合

『チョンキンマンションのボスは知っている アングラ経済の人類学』小川さやか著 春秋社刊

他社の「事情」に踏み込まず、メンバー相互の厳密な互酬性や義務と責任を問わず、無数に増殖拡大するネットワーク内の人々がそれぞれの「ついで」にできることをする、という基本姿勢が書かれています。

第四章:シェアリング経済を支える「TRUST」
    「その人らしさ」でつながるネットワーク

『チョンキンマンションのボスは知っている アングラ経済の人類学』小川さやか著 春秋社刊

「TRUST」と呼ばれる、SNSを用いて構築してきた商品やビジネスに関わる情報をシェアする仕組みを用いて、顧客や仕入れ先業者の都合に左右されずにビジネスを回す実態が書かれています。

「TRUST」は特定のプラットフォームを指すものではなく、FacebookやInstagram等のSNSを用いたもので、信頼性や安全性がプログラムされたものではありません。

信頼の持ち方

そこでは、一片の曇りもなく信頼できる人物など存在せず、またまったく信頼に値しない極悪人もいない、という感覚、他者の過去や現在の状況を詮索せず、両極端を行き来する不安定さを前提とし、その都度の状況や文脈に限定的な信頼を構築する、のだそうです。

また、その信頼関係を構築する上で役立つ日々の投稿ややりとりは、単なるおふさげや面白いものを見つけたというような動画投稿だったりして、遊びや楽しみが軸足にあり、そのついでに仕事をしている、という感覚でした。「市場交換と贈与交換や分配の価値が逆転しない接続のしかたがあるように思う」と書かれています。

支援がめぐる

巻末近くには、互いに支援しあう関係性について、「ともにある」こと、「仲間である」ことを表明するためだとも書かれています。直接的な互酬性ではなく、「私があなあたを助ければ、誰かが私を助けてくれる」という関係性です。直接的に「支援しあう」わけではない、ということ。

情けは人の為ならず、という言葉を思い出しました。この社会関係の中での支援の巡りへの期待の大きさというか、時間軸と関係性の規模感は、どこまでを仲間という感覚で社会関係を広げて認識できるかにもよるかと思いました。

自分の居場所

さまざまなネットワークサービスがあり、コミュニティがある中で、自分の社会的関係性を実態として感じられ、助け合いではなく、助けが巡ってくると思える場に自分は身を置いているのだろうか。自分の居場所は、どこにあるのだろうか。

web3の概念をより多角的に把握しようと読み始めた、香港のタンザニア人コミュニティについて書かれた本を通して、自分の立ち位置を振り返ることになるとは思いませんでした。

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