見出し画像

星野源の紅白劇にAI時代の「指揮者」と「行動者」の価値を学ぶ

2024年は生成AIの年だった。①人間が方向性を出し、②AIがアイデアを出し、③人間が選んで、④人間が実行する時代、が突然登場した。

この状況を説明するのに、年末の星野源さんの事例は、参考になると思う。

アフター生成AI時代での、アイディアの磨き方、という視点で以下、書いてみる。


アイディアの磨き方、生成AI前後の変化

AIに整理してもらうと

【Before AI】
・まずブレインストーミング(時間かかる)
・参考情報の収集(時間かかる)
・限られた視点・経験からアイデア発想
・アイディアの評価や改善に時間がかかる
【After AI】
・AIで初期アイデア出し(一瞬)
・AIと対話して、多角的な視点を獲得
・アイデアの評価や改善がスピードアップ

Claude3.5

つまりは人間の役割に、大変化が起きた:

  • アイディアを0から生み出すことの価値が低下

  • AIの出力を評価・選別する力が重要になる

  • そのためには、本質的な価値判断やビジョン設定=「どうありたいか」の理想形についての想像力が、決定的に重要になる

僕の文章作成も(これ含めて)大変化した。

  1. 人: まず書きたいことを、音声入力で、AIに喋る(長くて数分)

  2. AI: アイデアを返してくる(一瞬)

  3. 人: 調査したいこと、追加アイデアなど、さらに喋る(繰り返し)

  4. 人: 完成イメージの文章を、音声入力→タイピング修正

  5. AI: フィードバック

となる。重要な文章では、2つのAIに交互に、意見を聞くこともある。エンジンごとに視点が違うアイデアが出てくるので(とくに完成文章のレビュー)、とてもよい。

"AIで科学研究「人の思考と組み合わせを」 学術誌トップ" と12/31日経でも、世界有数の学術誌編集トップの二人が言っている。補完関係だ。

トップ画像は今回の実画面。読解力は超重要。スマホなんかで文書つくってる時代じゃないと僕は思っている。

32インチ+16インチの2画面あれば、大画面で複数AI、小画面で文章作成、などできて便利

生成AIは技術(だけ)超高いオーケストラ、人間の指揮者が必要

生成AIとは、演奏技術が超高い(が主体性が全くない)音楽演奏者が集まったオーケストラのようなもの、指揮者は人間だ。

実力あるオーケストラ(ウィーン・フィルとか)は、「この指揮者つかえねー」と判断すると、指揮を無視して「いつものウィーン・フィルの音」で演奏を始めるそうだ。観客は「これがウィーン・フィルの音だ!」と満足してリピートしてくれるが、その指揮者はニ度と呼ばれない。

仕事で使うAIでは?
AIで読み応えのある文章を出してくる人は、まず本人が、自力で読ませる文章を書く能力があり、対人コミュニケーション能力も高い場合ばかり、という印象だ。だからAIと対話(=っぽい指示)ができて、その人らしい良質なアウトプットが出せる。間違いや、気持ち悪い部分は、即修正指示を出せる。これが指揮者の仕事だ。

でないと、「いかにもAIぽい文章」になる。今年よく見たが、気持ち悪い。そういうのだしてくる人の文は二度と読む気にならない。それが末路だ。「おまえ、そのAIオレに貸せ、まともな文章つくってやるよ」てなる。

問題はAIではない、自分はどうありたいか?

つまり、「指揮者として、どうありたいか」が、2025年の知的労働者にとって重要なのだ。目の前にいる超絶技巧軍団のオケに対して、どんな音を出させたいのか?の想像力を高めるのだ。

逆にいえば、AIというツール自体は問題ではない。AIの使い方、みたいな本が書店に並んでるが、大事なのはそこではない。

その理想形の1つが、2024年12月26日に発表された、星野源さんの発表文
"「第75回NHK紅白歌合戦」出場楽曲変更について"
だと思った。

これは単なる「AIでは書けない、人間ならではの名文」を超えている。2024年の社会状況を象徴するような状況に対し、最高の対応をした、社会的パフォーマンスですらある。

まず背景:

1つの理想形を、星野源に見た

公式声明を全文引用:

先日発表された「第75回NHK紅白歌合戦」の、星野源の歌唱楽曲についてご報告させていただきます。

楽曲「地獄でなぜ悪い」は星野源の曲です。

星野は2012年にくも膜下出血で倒れ、その闘病期に病院でこの楽曲の作詞をしました。詞の内容は、星野の個人的な経験・想いをもとに執筆されたものです。後述する映画のストーリーを音楽として表現したものではありません。星野源の中から生まれた、星野源の歌です。

一方で、すでにSNS等で指摘されているように、のちに性加害疑惑を報道された人物が監督した映画の主題歌であること、映画タイトルにある「地獄」というワードにヒントを得たこと、映画タイトルと同名の楽曲であることもまた事実です。この曲を紅白歌合戦の舞台で歌唱することが、二次加害にあたる可能性があるという一部の指摘について、私たちはその可能性を完全に否定することはできません。
今回の歌唱楽曲は「アーティストの闘病経験を経て生まれた楽曲で、いま苦しい時代を生きる方々を勇気づけてほしい」という、紅白制作チームからの熱意あるオファーを受けて選定された経緯があります。しかし、そのオファーの意図から離れ、真逆の影響を与えうるのであれば、それはオファーを受けた私たちの想いに反してしまいます。そのため、今回同曲を歌唱することを取りやめることにいたしました。私たちは、あらゆる性加害行為を容認しません。

この曲が多くのファンの皆様に愛していただいている楽曲であることを、私たちはよく理解しています。また、星野自身もとても大切にしている楽曲であることはこれからも変わりません。

紅白制作チームと協議の結果、今回は曲目を変更し、「ばらばら」を弾き語りします。

ご期待いただけますと幸いです。

星野源&スタッフ一同

星野源(太字は八田の注目部)

その構造は、
①自分の当初の思い、
②発生した想定外の状況に対して「その意見が大切にしている思い」の理解、
③共通点の明確化

という流れ。

ただしこのレベルなら、AIでも提示してくれるだろう。さらに所属アミューズ社は東証プライム上場企業で、法務チームは明らかに優秀。間違いのない対応、声明文の作成、などはスタッフに任せても、良い文章は出せるはず。が同時に、そのレベルでなら驚きもないのが、2024年末の現在地。

星野源さん、さすが時代のトップを行く方だけあると思う。

まず普通にすごいのは、表現力。一行目の書き出し、各段落の最後の締め方、などなど、音楽的な美しさ、音や視覚のレベルから惹きつける力、がある。

それ以上に、圧倒的にすごいのが、
④星野源にしか出せない対応策=ばらばら、弾き語り
だと思う。AIどころか、このレベルの対応ができる人類自体が希少だ。その歌詞は、「1つになれない人類社会」のような、今回の状況のために書かれたようなテーマだ。こういう曲のストックがあるのが、まずすごい。

さらに邪推しておくと、もともとこの曲、「“性格の悪いクソ女”にフラれた怒りを作曲へと昇華」したんだそう(2013年『クイック・ジャパン』 ↓

彼の今回の状況への内面が反映されているのかな?など想像したくもなる。あくまでも僕の邪推です。こういう想像の余地が大きいことも、良いアートの大きな特徴だ。

弾き語り、という表現方法は、メッセージ性をより強力に打ち出すことができる。

さて本題に戻る、ここから何を学べるのか? それは

アイデア自体の価値は激減し、行動の希少価値が急騰する

ということではないかな?

文章or情報自体の価値は、AI時代に、劇的に低下してゆく。(①②③アミューズ法務チームほどのスタッフが居なくても、近いレベルの声明文は出せる)

ただし、その中であっても、詩的、芸術的美しさ、などを追求することはできる(星野源の表現)

その後に何をするか(=ばらばら、を弾き語る)、行動は、本人だけにしかできない。希少価値、どころか、オンリーワンの価値だ。

これがあるから、文章自体の価値まで上がる。全体を読んで、僕なら「2024年という時代を代表する名文だ」という感想を持つに至る。

星野源でなくても、同じこと

とはいえ僕は星野源ではない。あなたもそうだ(※ご本人が読まれた場合をのぞく)。それでも、「自分にしかできない行動」は、なにかあるはずだ。

「指揮者として、どうありたいか」が、2025年の知的労働者にとって重要

と先に書いた。どんなアウトプットを望むのか、は自分にしか決められないもの。その部分についてのアイデアを増やすのは、人間だけの、自分だけの、役割だ。

そのためには、結局は、良質なものを知ること、そのためにいろいろなものを読み、知り、体験すること、に尽きるだろう。

ちなみに、「AIのスケーリング則の3要素」は、パラメーター数、データ量、計算資源。だが、ネット上のデータはほぼ使い尽くしているそうだ。マシン側の能力である、パラメーター数と計算資源も、収穫逓減に入っている。

人間の将来の行動なら、無限だ。

まとめ

  1. 言語化しきれないレベルでの体験を積もう

  2. それをAIにおしゃべりしよう

  3. AIは、過去のインターネットの倉庫から、それらしい言語表現を返してくれる=アイデアが言語化される

  4. そのアイデアを、実行してみよう

これが、生成AI時代のアイデアの使い方になると思う。

・・・

参考書:生成AIに絶対負けないライター、横田増生さんが人生かけて書いた
『潜入取材、全手法 調査、記録、ファクトチェック、執筆に訴訟対策まで』

AI時代に必要なのは、こういうこと。

・・・

#アイディアの磨き方 参加noteです


いいなと思ったら応援しよう!

八田益之(「大人のトライアスロン」日経ビジネス電子版連載中)
サポートいただけた金額は、基本Amazonポイントに替え、何かおもろしろいものを購入して紹介していきたいとおもいます