星野源の紅白劇にAI時代の「指揮者」と「行動者」の価値を学ぶ
2024年は生成AIの年だった。①人間が方向性を出し、②AIがアイデアを出し、③人間が選んで、④人間が実行する時代、が突然登場した。
この状況を説明するのに、年末の星野源さんの事例は、参考になると思う。
アフター生成AI時代での、アイディアの磨き方、という視点で以下、書いてみる。
アイディアの磨き方、生成AI前後の変化
AIに整理してもらうと
つまりは人間の役割に、大変化が起きた:
アイディアを0から生み出すことの価値が低下
AIの出力を評価・選別する力が重要になる
そのためには、本質的な価値判断やビジョン設定=「どうありたいか」の理想形についての想像力が、決定的に重要になる
僕の文章作成も(これ含めて)大変化した。
人: まず書きたいことを、音声入力で、AIに喋る(長くて数分)
AI: アイデアを返してくる(一瞬)
人: 調査したいこと、追加アイデアなど、さらに喋る(繰り返し)
人: 完成イメージの文章を、音声入力→タイピング修正
AI: フィードバック
となる。重要な文章では、2つのAIに交互に、意見を聞くこともある。エンジンごとに視点が違うアイデアが出てくるので(とくに完成文章のレビュー)、とてもよい。
"AIで科学研究「人の思考と組み合わせを」 学術誌トップ" と12/31日経でも、世界有数の学術誌編集トップの二人が言っている。補完関係だ。
トップ画像は今回の実画面。読解力は超重要。スマホなんかで文書つくってる時代じゃないと僕は思っている。
生成AIは技術(だけ)超高いオーケストラ、人間の指揮者が必要
生成AIとは、演奏技術が超高い(が主体性が全くない)音楽演奏者が集まったオーケストラのようなもの、指揮者は人間だ。
実力あるオーケストラ(ウィーン・フィルとか)は、「この指揮者つかえねー」と判断すると、指揮を無視して「いつものウィーン・フィルの音」で演奏を始めるそうだ。観客は「これがウィーン・フィルの音だ!」と満足してリピートしてくれるが、その指揮者はニ度と呼ばれない。
仕事で使うAIでは?
AIで読み応えのある文章を出してくる人は、まず本人が、自力で読ませる文章を書く能力があり、対人コミュニケーション能力も高い場合ばかり、という印象だ。だからAIと対話(=っぽい指示)ができて、その人らしい良質なアウトプットが出せる。間違いや、気持ち悪い部分は、即修正指示を出せる。これが指揮者の仕事だ。
でないと、「いかにもAIぽい文章」になる。今年よく見たが、気持ち悪い。そういうのだしてくる人の文は二度と読む気にならない。それが末路だ。「おまえ、そのAIオレに貸せ、まともな文章つくってやるよ」てなる。
問題はAIではない、自分はどうありたいか?
つまり、「指揮者として、どうありたいか」が、2025年の知的労働者にとって重要なのだ。目の前にいる超絶技巧軍団のオケに対して、どんな音を出させたいのか?の想像力を高めるのだ。
逆にいえば、AIというツール自体は問題ではない。AIの使い方、みたいな本が書店に並んでるが、大事なのはそこではない。
その理想形の1つが、2024年12月26日に発表された、星野源さんの発表文
"「第75回NHK紅白歌合戦」出場楽曲変更について"
だと思った。
これは単なる「AIでは書けない、人間ならではの名文」を超えている。2024年の社会状況を象徴するような状況に対し、最高の対応をした、社会的パフォーマンスですらある。
まず背景:
1つの理想形を、星野源に見た
公式声明を全文引用:
その構造は、
①自分の当初の思い、
②発生した想定外の状況に対して「その意見が大切にしている思い」の理解、
③共通点の明確化、
という流れ。
ただしこのレベルなら、AIでも提示してくれるだろう。さらに所属アミューズ社は東証プライム上場企業で、法務チームは明らかに優秀。間違いのない対応、声明文の作成、などはスタッフに任せても、良い文章は出せるはず。が同時に、そのレベルでなら驚きもないのが、2024年末の現在地。
星野源さん、さすが時代のトップを行く方だけあると思う。
まず普通にすごいのは、表現力。一行目の書き出し、各段落の最後の締め方、などなど、音楽的な美しさ、音や視覚のレベルから惹きつける力、がある。
それ以上に、圧倒的にすごいのが、
④星野源にしか出せない対応策=ばらばら、弾き語り
だと思う。AIどころか、このレベルの対応ができる人類自体が希少だ。その歌詞は、「1つになれない人類社会」のような、今回の状況のために書かれたようなテーマだ。こういう曲のストックがあるのが、まずすごい。
さらに邪推しておくと、もともとこの曲、「“性格の悪いクソ女”にフラれた怒りを作曲へと昇華」したんだそう(2013年『クイック・ジャパン』 ↓
彼の今回の状況への内面が反映されているのかな?など想像したくもなる。あくまでも僕の邪推です。こういう想像の余地が大きいことも、良いアートの大きな特徴だ。
弾き語り、という表現方法は、メッセージ性をより強力に打ち出すことができる。
さて本題に戻る、ここから何を学べるのか? それは
アイデア自体の価値は激減し、行動の希少価値が急騰する
ということではないかな?
文章or情報自体の価値は、AI時代に、劇的に低下してゆく。(①②③アミューズ法務チームほどのスタッフが居なくても、近いレベルの声明文は出せる)
ただし、その中であっても、詩的、芸術的美しさ、などを追求することはできる(星野源の表現)
その後に何をするか(=ばらばら、を弾き語る)、行動は、本人だけにしかできない。希少価値、どころか、オンリーワンの価値だ。
これがあるから、文章自体の価値まで上がる。全体を読んで、僕なら「2024年という時代を代表する名文だ」という感想を持つに至る。
星野源でなくても、同じこと
とはいえ僕は星野源ではない。あなたもそうだ(※ご本人が読まれた場合をのぞく)。それでも、「自分にしかできない行動」は、なにかあるはずだ。
と先に書いた。どんなアウトプットを望むのか、は自分にしか決められないもの。その部分についてのアイデアを増やすのは、人間だけの、自分だけの、役割だ。
そのためには、結局は、良質なものを知ること、そのためにいろいろなものを読み、知り、体験すること、に尽きるだろう。
ちなみに、「AIのスケーリング則の3要素」は、パラメーター数、データ量、計算資源。だが、ネット上のデータはほぼ使い尽くしているそうだ。マシン側の能力である、パラメーター数と計算資源も、収穫逓減に入っている。
人間の将来の行動なら、無限だ。
まとめ
言語化しきれないレベルでの体験を積もう
それをAIにおしゃべりしよう
AIは、過去のインターネットの倉庫から、それらしい言語表現を返してくれる=アイデアが言語化される
そのアイデアを、実行してみよう
これが、生成AI時代のアイデアの使い方になると思う。
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参考書:生成AIに絶対負けないライター、横田増生さんが人生かけて書いた
『潜入取材、全手法 調査、記録、ファクトチェック、執筆に訴訟対策まで』
AI時代に必要なのは、こういうこと。
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#アイディアの磨き方 参加noteです