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地方発ユニコーン企業が明日の日本を創り出す③【社会課題編】

起業家を輩出することで有名なリクルートは、新規事業を考えるときの基本的な考え方として「社会の不を解決する」という文化がある。事業を起こす際、社会や顧客が潜在的に持つ「不自由さ」「不安」「不満」「不快」「不便」などの課題を解決する商品やサービスを提供することで、事業は社会に受け入れられ、収益を得て持続可能なビジネスとなることができる。

だからといって、社会課題の解決を念頭に置いて、事業アイデアを考えることは個人的にお勧めしないのだが、課題解決は事業化する上で重要なステップであることはよく知られている通りだ。


1.課題設定がビジネスの規模を決める

課題を設定する際、課題解決の恩恵を受けることができる顧客の規模が事業のスケールに直結する。例えば、アクセサリー&ジュエリー販売のビジネスでユニコーン企業となった "Kendra Scott" は、幅広い顧客の課題解決に成功することがビジネスの成長につながった事例だ。

アクセサリーやジュエリー市場は成熟した市場というイメージが強いビジネス領域だ。矢野経済研究所によると、2017年の国内宝飾品小売市場規模は9,468億円であり、インバウンドや東京五輪による好景気を考慮に入れたとしても、今後大きく伸長することは難しいものの、市場は堅調に推移すると予想されている。しかし、このような成熟市場であるアクセサリー・ジュエリービジネスにもユニコーン企業は存在する。

Kendra Scott の会社名は、創業者の名前からとられている。アクセサリー&ジュエリーショップとしてのKendra Scottは、創業者のスコットが27歳の時に2002年にテキサス州のオースティンで創業された。それまで、スコットは19歳で創業した帽子の販売店を営んでいたが、業績不振で閉店することとなり、次のビジネスとしてアクセサリー&ジュエリーの店を始めた。

その時、手作りのアクセサリーの売れ行きが良かったことから、「顧客は現状のアクセサリーに不満があるのではないか。」とアクセサリーやジュエリー市場に可能性を感じていた。「特に、自分が好きなジェム(宝石)を使ったアクセサリーは既製品の自由度がなくてつまらない。」という思いから、アクセサリーにつけるジェムや宝石を自由に変更できるショップを開店させた。15年間でテキサスを中心にカリフォルニアやフロリダに60店舗を持つまでに成長し、今や従業員は2000名を突破。2016年の売上は推定1億6000万ドルに達している。また、2010年からはオンラインショップもオープンし、全世界に向けた配送サービスを行っている。

「アクセサリーのジェム(宝石)を自由に、気軽にカスタマイズできる」というソリューションが、それまで既製品を買うか、高額なオーダーメイドしかなかった既存の市場にブレイクスルーをもたらし、全世界の若い女性の潜在的な課題を満たすことができた。


2.課題解決の最大規模を想定する

Kendra Scott が創業したテキサス州の首都オースティンは、今や全米2位と言われるほどのIT産業の盛んな都市(人口約95万人)であるが、スコットがビジネスを始めた2002年当時は人口約69万人の一地方都市でしかなかった。日本で同規模の都市というと、静岡県静岡市と同程度である。

Kendra Scott がネット販売をスタートし、急成長を始めた2010年時点でも、オースティンの人口は約79万人であり、静岡県浜松市と同程度でしかない。この規模の都市圏の市場を想定して小売業を営んだとしても、到底、ユニコーン企業となるような急成長を遂げることはできない。つまり、Kendra Scott の成功の裏には、地元都市の市場に限定されず、自分のビジネスモデル(社会課題)を全米やグローバル市場に展開できたことが大きい。

地方都市で起業を考えると、つい「地元密着」という言葉に縛られがちだ。地元の人々を顧客として捉え、彼らの抱える課題を解決したくなる。この発想自体は悪いことではないが、それで止まってしまうとビジネスの規模が大きくならない。しかし、いきなり全国規模の顧客を想定すれば良いかと言うと、そう簡単な話でもない。起業家にとって実感のない顧客像や市場を想定しても、うまく行くことは少ない。

ここで重要な観点は「自分の想定する顧客と課題の最大規模を想定できるか」である。スコット の始めの帽子屋はオースティンの人々に受け入れられずに失敗したが、アクセサリー&ジュエリーのビジネスは「ジェムを自分好みにカスタマイズしたい」という顧客の課題を普遍化させることで、顧客の最大規模を全米ないしは全世界にまで広げることに成功している。


3.都市部から地方部へのピラミッド型展開では遅すぎる

米国におけるスタートアップの最大の優位性は、なんといっても言語の適応範囲の広さとダイバーシティに対する姿勢だ。英語は、ほぼすべての国の一定以上の所得水準にある市民にとっては公用語同然であり、英語でサービスを作るだけでグローバル市場への敷居が低くなる。また、米国は世界で最もダイバーシティの進んだ市場であり、事業アイデアを考えた時に、そもそもグローバル市場を想定したモデルの構築をしやすい環境にもある。これらの特徴は言い換えると、ビジネスモデルを横展開するための適応範囲が広いと言えるだろう。

ビジネスモデルの横展開が事業成長のカギとなることは、インターネットが普及した、直近15年ほどの傾向である。インターネット普及前の事業成長モデルは、都市部と地方の情報の非対称性を活かし、都市部で成功したモデルを地方部へと展開していくピラミッド型の展開が典型パターンだった。しかし、インターネットによって情報の非対称性が崩れる中、都市部から地方部へのピラミッド型の展開が必ずしも成功しなくなってきている。

その最たる例がUberの海外展開だろう。Uberは2018年3月に東南アジアを撤退し、シンガポールの配車アプリである Grab が覇権を握っている。しかし、東南アジア最大の人口を持つインドネシアでは、Grab はインドネシア地元企業のGojekと激しい争いを繰り広げている。つまり、成功したビジネスモデルの模倣スピードが上がり、都市部で成功してから地方部へ展開する事業戦略では遅すぎるのだ。そのため、ビジネスモデルの横展開の適応範囲の広さと容易さを予め確保することで、事業成長のスピードを向上させることが重要となる。


4.地方都市は汎用性の高い課題の宝庫

それでは、事業の横展開を想定して、どのように事業の課題設定を行うべきだろうか。そのためには、始めに想定した顧客や市場を汎用性の高いものにしなくてはならない。Kendra Scott の場合は、「オースティンに住む女性」をターゲットにするのではなく、「アクセサリーの自由度に不満をもつ女性」を課題解決のターゲットにすることで、事業を横展開するための汎用性を手に入れることに成功している。

しかし、このように文章にしてしまうと、汎用性の高い課題設定をすることがあたかも簡単なことのように思えるのだが、実際にこのような課題設定を行うことは難しい。例えば、東京のような大都市では、アクセサリーやジュエリーショップが溢れているために「探せば自分の気に入るアクセサリーと出会える」可能性が高い。しかし、地方都市ではショップの数も限られており、「気に入ったアクセサリーが見つからない」という顧客の不満が表出しやすい。顧客の不平や不満は不便な環境にこそ噴出しやすく、これらの不平や不満は新規事業の種となる。

また、横展開の視点で考えた時、地方都市で出てきた顧客の不平や不満は都市部における不平や不満よりも汎用性が高い可能性がある。なぜならば、全世界の9割は地方都市であり、大都市は1割しかない希少ケースであるためだ。

例えば、東京の通勤ラッシュを改善するためのアイデアを考えたとしても、東京のような電車移動での過酷な通勤ラッシュのある都市や国はあまりない。つまり、横展開の範囲が狭い。それに対して、地方都市での通勤ラッシュは自家用車での交通渋滞が主だ。イーロン・マスクがロサンゼルスで作ろうとしている新たな交通機関が成功した場合、全世界に及ぼす影響の大きさは計り知れない。

東京は、良くも悪くも世界最大の都市圏であるがゆえに、都市の抱える社会課題自体が日本国内の他の地域と比較してもガラパゴス化してしまっている側面がある。対照的に、地方都市の抱える課題は他の地方都市でも似たような状況にあることが多い。

例えば、地方都市の中小企業やベンチャー企業における採用難は大きな課題である。そもそも、事業戦略において必要なスキルや経験を持った人材が地元の都市圏内におらず、東京や関西などの大都市圏から人材を引き抜くか、自分たちで育成するかしないといけない。このとき、東京の中小企業やベンチャー企業で採用している方法を使うことができるケースは少ない。地方企業の採用難を解決するには、地方発の事業アイデアが求められる。


5.まとめ

本稿では社会課題の解決という視点から、地方都市からスケールする事業を生み出すことの可能性について論じてきた。ユニコーン企業のように事業成長をするビジネスを考えるときは、予め想定する社会課題の大きさと横展開の汎用性が重要となる。

AIやバイオテクノロジーのようなハイテク産業のユニコーン企業が多い理由は、破壊的なイノベーションを起こすことができたときに解決できる社会課題の規模が多きく、応用範囲も広大であることが期待できるためだ。しかし、ハイテク産業に焦点を当てない場合、顧客や市場の「不」が顕在化しやすい地方都市から新たな事業アイデアが生み出される可能性は大きい。

特に、従来型の都市部から地方部へのピラミッド型の展開戦略は、インターネットによる情報の非対称性が解消されつつある現代のおいて、ビジネススピードの遅さから優位性を失いつつある。そのため、汎用性が高く、ビジネススピードの早い横展開型の事業戦略が求められている。

横展開型の事業戦略を行うのであれば、東京のような特殊性の高い市場を想定するのではなく、似たような社会課題を数多くの都市と共有する地方都市の方が汎用性の高い社会課題を見出しやすい。

しかし、現状では地方都市における多くのスタートアップが「地域密着」「地元志向」という価値観に捉われ、想定する顧客や市場を狭く設定してしまうために、せっかくの機会を逃していることが多い。

地方都市における新たな産業を生み出すためには、スタートアップが「地元」という価値観に縛られることなく、汎用性の高い社会課題の解決に目を向け、事業展開していく必要があるだろう。

地方のほうが困り事が多く、社会課題の現場に近い。社会課題の近くにいることは大きなアドバンテージだ。そして、テクノロジーを使えば、働くことの都会のアドバンテージはかなり無くせる。

世界の9割は地方であり、実は市場は広大だ。地方発ベンチャー企業のポテンシャルは極めて高いと言える。

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大分大学経済学部の講師をしています。採用や育成などのタレントマネジメント、地方創生・地方発起業などの話題を取り上げていきます。※日経電子版キーオピニオンリーダー ※多様な意見を尊重したく、コメント返信は原則控えています。質問はTwitter(@IkariOita)へお願いします。