目安箱はやめて、チップ箱を置こう。
「2024年問題」が深刻になってきた。
2024年4月からトラック運転手の労働時間が規制され、人手不足に陥る配送業界。
政府はついに「消費者が物流コストを意識するように」との意図で、通販やEC業界に「送料無料」の表示を見直すように求めはじめた。
確かに送料は無料ではない。
ヤマト運輸や佐川急便は、無料で物を運んでくれない。
当たり前だ。
ただ世の中には「送料無料」が存在する。
なぜか。
大抵の構造はこういうこと。
送料は無料ではなく、売主が購入者の代わりに負担しているだけ。
送料無料を正確に表現すれば「送料は売主負担」となる。
ではなぜそう書かないのか。
「無料」の方が購買意欲を煽れるのもあるし、何よりわかりやすい。
ただもっと根底には、日本人特有の美徳意識がある気がする。
・送料無料と謳ってお客様に喜んでいただき、裏では自己犠牲
・「実は自分たちが負担している」なんて言うのは野暮
そんな美徳が日本人の商売の根底にはある。
今日はそんな「見えざる人件費」に関して、感銘を受けた話を書いてみる。
■店頭価格>オンライン価格
舞台はGINZA SIXなどに店を構えるIMADEYAという酒店。
私の自宅の1階にも入っているお店で、この話は経営者である専務から聞いた。
IMADEYAは、オンラインでも酒を販売している。
そんなIMADEYAに問い合わせが入った。
対応した社員が、専務に相談してきた。
問い合わせの内容は
「店頭で酒を買おうと思ったら、オンラインで買うより高かった。店頭もオンライン価格に合わせてほしい。」
というもの。
確かにIMADEYAでは、オンラインストア販売の価格と店頭販売の価格が異なる。その背景には店頭販売に付随するコストがある。
オンラインで購入されれば
倉庫→購入者
とシンプルだが、店頭で買われるお酒は
倉庫→店舗→購入者
となる。店頭まで届ける物流コストはさほど変わらないが、売り場の賃料、冷蔵での保管費などが新たに発生。
中でも大きいのは、販売のための人件費だ。
これらの費用を見える化するため、IMADEYAではオンライン価格と店頭価格をわけていた。
ただ日本企業らしい部分もあり、これらの費用を全額価格に反映することはせず、一定額は自己犠牲として受け入れていた。
それにも関わらず、先ほどのような問い合わせは一定数存在する。
その背景にはやはり、物流コストのように「人件費を隠すことを美徳」としてきた結果、私たちが「人件費に気づきづらい体質」になっていまったことがあるのかもしれない。
問い合わせの報告の際、社員は専務にこんな提案をした。
それは「こういった問い合わせが多いので、説明用のPOPを店頭に置きましょうか?」というものだ。
これに対して、専務は逆提案をした。
「お客様の声を聞こうとする姿勢は大切。ただ、そんな目安箱な発想より、今うちに必要なのは『チップ箱」なんじゃない?あなたの接客がコストじゃなくて、価値だと感じてもらいましょう。」
確かにそうだ。
そもそもIMADEYAの場合、店頭に付随するコストの全額が価格に反映されているわけじゃない。そう言った意味で、お店は店頭で売る方が損をしているし、顧客は店頭で買う方が得をしている。
だったら、その分をチップ箱で回収する。
実際にチップだけで全額回収するのは難しいだろうが「見えざる人件費」を可視化する象徴になるだろう。
日本では、まだまだチップが馴染んでいない。
涙ぐましいまでの企業努力をアピールしない、我慢を前提とした商いの姿勢。それが顧客から売主の努力に対する想像力を奪った結果かもしれない。
IMADEYAでは最終的に「再来店こそ、いちばんのチップ」として箱の設置を一旦見送った。
ただ旧来の体質から変わりたい企業は、まず2024年、店頭にチップ箱を置くところからはじめてみるのはどうだろうか?
サポートいただけたらグリーンラベルを買います。飲むと筆が進みます。