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5-11歳の子どもへの新型コロナワクチン接種をめぐる課題

 新型コロナワクチンの3回目接種の進捗状況が思わしくない中、5-11歳の子どもへのワクチン接種が今月中にも開始されます。メディアではこの是非に関する話題が取り挙げられることが多くなり、私も見解を問われることがあるのですが、新型コロナワクチンの話題に関してはこれまでにわかっている学術的な情報や知見などを中心にいかなるコメントをしても批判を受ける傾向にあるので、不特定多数の方を対象とし限られた時間の中で意向に沿った発言をしなければならないメディアでの情報発信は正直なところ気が進まないのです。その代わりとして学術的なデータも踏まえて記事にしました。        

 5-11歳へのワクチン接種に関する政府の方針は、第30回厚生科学審議会予防接種・ワクチン 分科会において「接種勧奨の規定を適用する」が「努力義務の規定は適用しない」との判断を下し、「今後最新の科学的知見を踏まえて改めて議論する」となっています。この背景には小児科領域の学術組織である日本小児科学会日本小児科医会の公式見解をもとに議論されたと考えられます。

 これまでわかっている事実として 

①日本の小児(特に5-11歳という世代)における重症化するリスクは成人に比べてきわめて低い。10歳未満の小児の死亡例はゼロ、10歳代の死亡例は4例。(https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000898832.pdf

②オミクロン株に対する発症予防効果を検証したデータがない、すなわち学校などで感染拡大を抑え込む効果が不明確。米国のデータでは90.7%の発症予防効果であったとする報告があるがデルタ株までのもの。(https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa2116298?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%20%200pubmed

③副反応は12-15歳でのデータと比べて少ない傾向にあるが一定の頻度で発生はしている。第29回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会資料)。

以上より私の見解としては「日常生活に支障をきたさない健康な5-11歳の子どもに対しては新型コロナワクチン接種を推奨する明確な根拠がない。しかし重症化のリスクがある基礎疾患をもつ同世代の子どもに対しては推奨する」ということになります。あとは「それでも我が子に接種させたいという親御さんがおられれば止めることは致しません」というところでしょうか。 

 今回の流行で問題となった学校などでの集団感染を抑え込むためには、あくまで英国の成人でのデータではありますが、2回接種をすることでオミクロン株であっても4週間後までは65-70%の発症予防効果があったことが示されていますので、ほぼ一斉に全員のワクチン接種を開始したとして接種完了後1か月程度は効果が期待できるということになりますが、現実的にはほぼ不可能と思われます。

 該当世代の接種の是非について「子どもとよく相談して判断を」という識者もおられますが、小学校高学年であればまだしも未就学児に相談したところで多くは「注射は嫌だ」というでしょう。それでも連れて行って接種をさせる場合は子どもに何と説明するでしょうか。「コロナにならないように注射しようね」とも言いずらいでしょう。また「主治医によく相談を」とも言われますが明確な説明ができる小児科医がどれほどおられるでしょうか。結局のところは親御さんが決めなければならない状況になる訳であり、なぜこの時期に急いで始めなければならなかったのか、大いに疑問が残ります。

#日経COMEMO #NIKKEI

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