【日経_世界経営者会議】マクアケから考える購入型クラウドファンディングで成功する方法
2021年11月9日(火)・10日(水)の2日間にわたって、世界の名だたる企業の経営者が介し、自社の取り組みと将来のビジネス環境について語る『第23回日経フォーラム 世界経営者会議』が開催された。ありがたいことに、昨年に引き続き、今年もオンラインで視聴させていただける機会をいただけた。
そこで、今月は5回にわたって、世界経営者会議での講演内容を題材として、これからのビジネスの変化について考えてみたい。
応援購入サービスのMAKUAKE
MAKUAKEは、2013年からサービスを提供しているクラウドファンディングのプラットフォームだ。元々はサイバーエージェントの新規事業「サイバーエージェント・クラウドファンディング」から始まり、2017年に現在の社名である「マクアケ」に変更、2019年には東証マザーズに上場している。
MAKUAKEが競合サービスと異なるところは、自身をクラウドファンディングのプラットフォームと呼ばずに「応援購入サービス」と自称しているところに如実に表れている。つまり、何かを販売したい起案者に対して、先行販売や応援の意味を込めて支援者を募るプラットフォームであり、先行販売型のECサイトに近い。(法的にもECサイト扱い)
もともと、日本におけるクラウドファンディングは東日本大震災の復興支援を切っ掛けとして始まったという背景がある。そのため、日本のクラウドファンディングは「寄付をする」という性格が強い傾向にあり、そことすみ分けるためにも「応援購入」としているという。
応援購入に特化することで、Makuakeのプロジェクト起案者は大企業から中小企業まで様々な事業者が活用している。その目的は、主に5つあるとされている。
①テストマーケティング:プロダクトが市場に受け入れられるのか、実験として使われる。
②初期顧客の獲得:新規事業の顧客は、基本的に誰になるか、どこにいるのかがわからないことが多い。当然、事業立案時には想定する顧客がいるのだが、その仮説が正しい保証はなく、多くの場合で間違えている。そのため、広く公開することで初期顧客の辺りを付けることができる。
③実績作り:特に中小企業やスタートアップは自己資金がないために、銀行やVCなどの金融機関から投資や融資を受ける必要がある。しかし、融資を受けるためには実績を求められることが多い。クラウドファンディングは、そのための実績として有効だ。
④在庫リスクの軽減:量産前に受注を受けることができるため、事業の最初期に在庫を抱える必要がなく、コストとリスクを抑えられる。
➄資金調達:事業立ち上げのために必要な資金を集めることができる。
このようなニーズから、特に中小企業との相性が良く、現在のプロジェクトのうち約半数は首都圏外の地方の中小企業が中心となっている。
クラウドファンディングの3つの類型
さて、MAKUAKEは自身のことを「応援購入」と呼んでいるが、クラウドファンディングの類型としては「購入型クラウドファンディング」と呼ばれる。内閣府でも用いられているが、学術的にはクラウドファンディングの類型は主に3つ(購入型、寄附型、投資型)があると言われている。
購入(報酬)型は、まさにMAKUAKEのモデルだ。作りたいものがあり、そのための資金調達や市場調査を目的として支援者をオンライン・プラットフォームを活用して募る。支援者は、資金提供の見返りとして製品を割安で購入ができたりと、お得な報酬が目当てで支援する。そのため、報酬型とも呼ばれる。
寄附型は、主に非営利団体や公益性の高いプロジェクトで行われる。震災などの自然災害の被災地支援や子供の貧困対策での子ども食堂など、支援することで直接的なメリットを享受しないが、社会課題の解決に寄与することを目的とする。
投資型は、スタートアップや非上場会社が将来の株式発行の対価として、支援者から資金調達する方法だ。2014年から日本でも規制緩和され、新たな資金調達や資本戦略の方法として徐々に増えている。
購入型の成功要因
学術的には、これら3類型に従って、各類型のプロジェクトの成功確率を高める要因の分析が行われてきた。例えば、今回はMAKUAKEの題材に従って、購入型の成功要因を分析した研究を紹介したい。
ノルウェーのアグデル大学のシュニアー准教授のチームは、2010年から2017年に公開されたクラウドファンディングに関する実証研究を整理し、プロジェクトの成功確率を高める要因について分析をしている。その中で、報酬型クラウドファンディングの成功要因として22の要素を特定している。
まとめると以下の通りだ。
【起案者レベルの変数】
1: ミュージシャンであるか、音楽プロジェクトであること
2: 技術者であること
3: 非営利組織であること
4: 女性起案者であること
5: クリエイターが支援した他のプロジェクトの数
6: 以前のプロジェクトの経験(数と成功体験)
7: ソーシャルメディアでの活動数
【コンセプトレベルの変数】
8: 創造的で革新的なコンセプトであるかどうか
【プロジェクトレベルの変数】
9: ソーシャルメディアでのシェアの数
10: ステルスマーケティングをしていないこと(やると成功化率が下がる)
11: 具体的で明確な言葉で説明できているか
12: 社会的な指向性を持っているか
13: プロジェクトに含まれる要素の質の高さ
14: 準備の度合い
15: 動画が含まれていること、また動画の数の多さ
16: プロジェクトを説明する文章が多い
17: プロジェクトの初期に積極的に活動できているか
18: 早期に支援者を集められているか
19: 報酬の数
20: 更新頻度の多さ
21: コメントや質問の数と返信の多さ
22: 第3者による推薦
出典: Shneor, R., & Vik, A. A. (2020). Crowdfunding success: a systematic literature review 2010–2017. Baltic Journal of Management.(筆者訳)
これらのことを踏まえると、クラウドファンディングで成功をするには、しっかりと事前に準備し、プロジェクト自体の質の高さはさるものながら、プロジェクト開始直後からかなりの手間暇をかけて積極的に動くことが重要だとわかる。勢いに任せたり、流行っているからと「まずはやってみよう」でクラウドファンディングに挑戦しても、出たとこ勝負でなんとかなるほどやさしいものではない。コロナ禍でクラウドファンディングが至るところで乱立したが、かなりの数が「まずはやってみよう」で失敗に消えていった。
一方で、マクアケの講演で坊垣取締役が話していたように、日本の事業者は慎重になり過ぎて、なかなか挑戦に踏み切れないところがある。保守的になり過ぎないように、クラウドファンディングを顧客や市場とコミュニケーションをとる実験の場として、気軽に使うということも、ある意味では必要なのだろう。
つまり、プロジェクトを実行するときには丁寧に準備し、しっかりと体制を整える必要がある。その一方で、クラウドファンディングに挑戦すること自体を必要以上に恐れる必要はないということだ。しっかりとやるべきことをやり、抑えるべきポイントを押さえているのであれば、クラウドファンディングの成功確率を高めることはできる。
特に、中小企業やスタートアップ企業にとって、多様な顧客と直接コミュニケーションを取ることができるクラウドファンディングの場は魅力的だ。新規事業に挑戦したり、利益率の低い既存のビジネスモデルから脱却する手立てとして、市場の反応を見る実験場としても期待できる。たとえ失敗しても、クラウドファンディングで失うものは多くない。99%を占める日本の中小企業の経営がより強力なものとなるように、クラウドファンディングの活用は今後、より増えつづけることだろう。